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第2話だぞ【『好き』の意味とは?】
しおりを挟む「見て下さい魔王さん、今日の月綺麗ですね。」
それから突然ひとりの我に話しかけて来た黒髪ボブの美女、えなとベンチに腰掛け話していると、不意に真っ暗の空を見上げ、その空の中でたったひとつ輝きを放っている星を指さしながらそう言ってきた。
「月?なんだそれは?あの星の名前か?」
「はは、何言ってるんですか魔王さん。当たり前じゃないですか。」
「やだなぁ、私をからかってるんですか?」優しく微笑みながらそう言うえな。
いや、我ほんとにこの世界には来たばかりだから知らないんだが……
でも、流石に何も知らない奴だと思われるのも魔王のプライドが傷つくな……よし、適当に話を合わせるか。
「私、仕事帰りにこうして月を見上げるの、好きなんです。こんな都会じゃ排気ガスの影響もあって星は全然見えないですが、月だけは力強く輝いてる。まぁ太陽の光を反射してるだけなんですが――」
「それでも、私はそんな月が好きなんです。」
「そ、そうなのか、は、はは……」
「魔王さんは月、好きですか?」
「好き?うーん、我はよく分からんな」
というか、昔から気になっていたんだが「好き」というのは一体どういう感情なのだ?
そういえば、前の世界でも「〇〇の事好きかも」とか言ってる手下がいたような……その好き、というのは誰かの事を信頼している、という事か?
でも、それならえなはあの月という星を信頼している事になる。それはそれでおかしくないか……?
「というか、我は好きという感情自体がよく分からん。なぁえな、好きとはなんなのだ?」
だからそこで、我はえなに「好き」が何なのかを聞くことにした。
するとそれに対してえなは、
「えぇ?好きがなにか、ですか?いざ説明しろと言われると難しいですが――」
「ん?ならえなは好きが何かも分からない状態で使っていたという事か?」
「いや、そんなこと無いですって!――あ、あれだ!魔王さんも小さい頃、親御さんから好きや愛してるって言われた事ないですか?」
親か……そういえば我の親は我が生まれてすぐに人間との戦いで死んだからな
「うむ、言われた事無いな。というか、ふたりとも生まれてすぐに死んだ。」
「……ッ!!そ、そうですか……すいません、失礼な事聞いちゃいましたね」
「いや、構わん。その事に対しては全くどうでもいいからな。」
「……と、とにかく!!好きというのはずっと一緒に居て楽しい人や、これから一緒に居たい人。憧れている物、存在などに使ったりする言葉ですよ。」
「なるほどな」
「だから魔王さん?さっきはいきなり私に「我の女になれ」なんて言ってましたけど、好きでも無い相手にそんな事言っちゃダメですからね。――だって、」
だって、なんだ?
「ん?なんだ?」
するとそこでえなは頬をほんのりと赤らめ、
「魔王さん、かっこいいんですからそんな調子だと色んな女の子、勘違いさせちゃいますよ」
「……ッ!?!?」
その言葉を聞いた瞬間、我の胸に電流が流れた様な衝撃が走った。
な、なんだ……?今の感覚は……?それに今も、えなを見ているとなんだか頬が熱くなるぞ……?
すると、そこで何故か我の顔をみたえなも頬を真っ赤にし、
「わ、私おトイレ行ってきますッ!!」
「……ッ!お、おう!」
そう言い残すとベンチから立ち上がり、公園にひとつ設置されているトイレの方向へ走って行った。
「……」
一体さっきの感覚はなんだったのだ……
♦♦♦♦♦
それからしばらく、我はベンチに座り、月でも眺めながらトイレへ行ったえなを待っていたが、いつまで経ってもえなは戻って来なかった。
「――流石に遅いな、」
女というのは基本的にトイレに時間がかかる生き物なのか?――いや、それにしてもだ。いくらなんでも遅すぎる。
「仕方ない、様子を見に行ってやるか」
別に心配している訳では無いが、せっかく見つかった暇つぶしの相手、失いたくはないからな。――――それに、もしかしたらさっきの我の感覚は――って!?べ、別に今は考える必要はないッ!
こうして、我はベンチから立ち上がるとトイレの方向へと歩いて行った。
それから数分歩き、トイレのすぐ前まで来ると、そこに数人の男が誰かひとりにしつこく話しかけている事に気付いた。
「――ねぇ、良いだろ姉ちゃん?」
「こんな時間にひとり公園にいるとか、誘ってるのはそっちだよねぇ?」
「あぁーあ、そんなエロい足だしちゃってさ」
「や、辞めてください、け、警察呼びますよ!」
ん?なんだ?この声えなではないか。
なるほど、誰かと話していたのだな、仲間か何かか?それなら、一度顔を合わせておいた方が良いな。
えなは面白い人間だ、もしかするとその仲間も面白いかもしれん。
「なんだえな、戻りが遅いと思っていたら男たちと話していたのか?」
「あ……!魔王さん……!」
我はトイレの入り口付近で男に囲まれているえなに近づきながらそう話しかける。
すると、そんな我に気が付きたえなは涙目でそう言った。
って、ん?なぜえなは涙目なのだ?それになんだかものすごく嫌そうな……
「あ?なんだてめぇ?まさかこの女の彼氏か?」
「おいおい、ヒーローご登場ってか?」
すると、そんな我に男たちはぞろぞろと近づいてくる。
やっぱりな、今の行動でやっと確信が持てたぞ。
さてはこの男たち……
「勇者だな?良いだろう、魔王の我が直々に相手をしてやる。」
「はぁ?何言ってんだよ?」
「ん?違うのか?」
いや、あれぇ?てっきり我、えなが魔王と一緒にベンチで話しているところをこの男たちに目撃されて、魔王の手下か何かと間違えられて、ひとりになった隙に襲おうとしたと思っていたのだが?
――でも、この際どうだって良い、
「まぁ良いだろう、お前たちは我の女になるえなに殺意を向けた事には変わりない。全員かかってくるが良い」
「んだとゴラァァァァ!!」
すると、簡単に我の挑発に乗った、真ん中に立っていたガタイの良い金髪の男が我に勢いよく殴りかかって来た。
「や、やめてください!?逃げて魔王さん!!」
「ふっ、何を心配しているえな――」
しかし、そんな単純かつただの肉弾が我に効く訳が無い。
「電磁洗脳」
「……ッ!?が、がぁ……」
我はすぐに相手の脳を操る事の出来る電磁洗脳を仕掛ける。
そして、掛かった事を確認すると脳への酸素供給を停止させ、気絶させた。
一瞬で地面へ倒れ込む金髪の男、
「な、!?あ、兄貴!?」
「や、やべぇ……!?逃げるぞ!!」
すると、そんな光景を目にした男たちはすぐにどこかへ走って行った。
「なんだ?まさか魔術防御すら使えない状態で我に挑んでくるとは……愚かな人間だな」
「ま、魔王さん……!!助かりました!!ありがとうございます!!」
すると、そこで俺はそう言いながら駆け寄ってきたえなの方を向く。――瞬間、また先程の様に頬がかぁっと熱くなるのが分かった。
やっぱり……どうやらこれが「好き」という気持ちなんだな、我、やっと分かったぞ。
――それに、先程のえなの『好きでも無い相手にそんな事言っちゃダメですからね。』という言葉。
なら、好きな相手には好きとちゃんと言えば我の女になってくれるという意味だろう?
だからそこで我は、
「えな、我はえなの事が好きだ。だから我の女になれ。」
両手でえなの肩を掴み、真剣な眼差しでそう言った。
よし……!これでやっとえなを――
「ば、ば、――」
「ん?なんだ?」
「魔王さんのバカァァァァ!?そんな簡単に人に好きって言っちゃダメなんですよォォォォ!?」
「お、おいえな!?どこへ行くのだ!?」
えなはそう叫ぶと、そのままどこかへ走って行ってしまった。――って、なんなのだ……?まさか我、また断られたのか……?ふ、ふざけるなよ……!?好きと言えば良いのではないのか!?!?
「好き」の意味を知る代わりに、またもや断られた我であった。
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