【悲報】魔王の我、日本に転移し数日目、一目惚れの女に『我の女になれ命令』するもあっさり振られる。ここから始まった生まれて初めての恋愛奮闘記。

カツラノエース

文字の大きさ
26 / 29

第26話だぞ【真夜中の砂浜】

しおりを挟む

「う、うぅん……」

 悠介さんと共に風呂から上がり、それから特にえなたちと何かがあったという訳でもなく、そのまま1日目は終わろうとしていた。――――が、布団に入り就寝してからどのくらい経ったのだろうか、我は夜中に目を覚ました。

 和室の中心に置かれた机を端に退け、空いたスペースに引いた敷布団から我は上半身を起こすと、左側の窓を見る。

 空はもう真っ暗で、そこに月や数々の星々が輝きを放っていた。
 そう言えばえなと初めて会った時、「都会は排気ガスのせいで星が中々見えない」なんて言っていた気がする。

 確かにここまで星が輝いている夜空を我はこの世界で初めて見た。という事は、ここはいつも住んでいる町と比べて廃棄ガスとやらが少ないという事か?――ま、とりあえずはいいか。

 続いてその流れで隣に置いたスマホを手に取ると、時間を確認する。

「0時28分……」

 この世界の時計は見にくいと多々思う事があるが、おそらく深夜だろう。
 隣では悠介さんも静かに眠っている。

「我も早く寝よう」

 なんせ今回は今日で終わりではないのだからな。
 明日もしたい事が沢山あるのだ。だから今は体力を回復させるとしよう。

 そうしてすぐ上半身を再び倒し、まぶたを閉じた。


 ――――が、一度起きてしまえば案外目は覚めるのだな、我は眠る事が出来なかった。

「仕方ない、夜風にでも当たるとするか」

 こうして我は仕方なく布団から出ると、旅館から出て深夜のひんやりとした風に当たる事にした。


「――冷えるな」

 それから部屋を出ると階段を降り、旅館から出る。すると海が近い事もあり意外に風が強く、我は肌寒さを感じた。

 今は暑い季節らしいが、夜は寒いのか。これは何か服を羽織って来た方が良かったかもしれないな。

「って、ん?」

 すると、そこで目の前に広がる砂浜の中にポツリとひとりの人影が見えた。
 遠目からでも分かる、月光に照らされた黒髪ボブ――あれはえなだ。

「お~いえな~!!何をしてるんだ?」
「ふぇっ!?ま、魔王さん!?こんな夜中に何してるんですか!?」
「それはコチラのセリフだ。」

 我は砂浜に座る人間がえなだと分かると、駆け足で寄って行き隣へ腰掛ける。

「えへへ……ちょっと寝付けなくて」
「なんだ、奇遇だな。我も同じだ」
「そうなんですか?」
「あぁ」

「……」
「……」

 だ、ダメだ会話が続かん……ただでさえ今日の風呂でを悠介さんと話したと言うのに……

「あ、あの……魔王さん?」
「……ッ!?な、なんだ、?」

 するとそこでえなは誰に言うという訳でもなく、目の前にどこまでも広がる海を見ながら、優しい笑顔でこう呟いた。

「海面に映し出された月、綺麗ですね」
「ん?あぁ、確かにそうだな」

 確かに、空に浮かぶ月を見るのも綺麗だとは思うが、海面に揺れる月というのもまた綺麗だな。――――まぁ、我は今そんな事よりもえなの綺麗な顔に釘付けだが。

「――覚えてますか、魔王さん。私たちが初めて会った時も同じ様な話をしましたよね。」
「あぁ、「廃棄ガスで見えない星が多い中、月は力強く輝いている。そんな月が好きだ」と、えなはそう言っていたよな」
「は、はい……覚えてくれていたんですか?」
「あ、当たり前だ!えなは我の――」
「我の?なんですか?」
「……ッ!!」

 ま、まずい……!?なんか変な感じの事言ってしまったか……!?

「ねぇ、私は魔王さんの何なんですか?」

 そう言い寄ってくるえなの顔は相変わらず綺麗だが、普段よりも少し頬が赤らめていた。
 く、くぅ……!?

「な、なんでもないと言っているだろうッ!!」
「キャっ!?」

 するとそこで我は勢い余って言い寄って来るえなを押し倒してしまった。もちろん、我も一緒に砂浜に倒れる。

「「……ッ!!」」

 か、顔が近い……そしてえなの呼吸が我の顔にかかり、呼吸のタイミングが手に取る様に分かった。――――って、!?!?

「す、すまんッ!!!」

 すぐに起き上がると倒れるえなと距離を取る我。
 い、今のはヤバかった……!?し、死ぬかと思ったぞ!?

「い、いえ……大丈夫、です……」

 えなはいつも通りの声色でそう返してくれるが、表情は見ていない為、どう思っているかが分からなかった。

「……」
「……」

 そして、再び沈黙の時が流れる。
 静かな夜に響き渡る波音は、その音が鳴れば鳴るほどふたりの沈黙の長さを煽って来ている様に聞こえ、我は内心どんどん焦って来ていた。

 こ、これは何か言わなければ……

「……ッ!!」

 我はとにかく、話題を振ろうと考え無しに言葉を口から出そうとえなの方を向うとする。
 すると、えなも我と同じ考えだった様で、同時に振り向いた我とえなは声を出す寸前で目が合った。

「……ッ!?」
「あっ!?」

「ど、どうしたんだ?えな?」
「あ!?い、いや、別にどうって訳でも無いんですけど――」

「今の、嫌とかじゃ無かったんでその……ね、根に持たなくて大丈夫です」
「ふぇ……?」

 ほ、本当に言っているのか……?わ、我一応えなの事を押し倒したんだぞ……?
 その瞬間、今日の悠介さんの言葉が頭の中で再生される。

『でも、あんな事を出来る仲なんだし、相手もお前の事、好きなんじゃないのか?』
『――俺は応援しているからな。』

「……ッ!!」

 これは……いけるかもしれない……!!
 それに、ここで告白しないと魔王ではない……ッ!!我はえなを自分の女にすると、心に誓ったではないかッ!!

「な、なぁえな」
「は、はい……なんですか?」

「えなは月が好きだと言ったよな、力強く輝きを放つ綺麗な月が好きだと」
「は、はい」
「確かに、我も月は好きだ。だがな――」
「別の世界からここへ来て、何も分からず、周囲からは距離を取られ、ひとりぼっちだった我に優しく話しかけてくれたえなは、我にとっての月なのだ。」
「……ッ!!そ、それって……//」

 そこでえなの頬がかあっと赤くなる。
 が、止めない。この想いを――我は伝えるのだ。

「あぁ、我はえなの事が好きだ。これからもずっと一緒に居て欲しい。」
「……ッ!!!」
「だから我と――――」

 ドシャンッッッッッッ!!!!

 その瞬間だ、我とえなの目の前に稲妻の様な光の柱が現れた。
 そしてすぐに我は感知する、これはただの雷なんかではない

「な、なんですかこれ!?」
「下がってろえな、絶対に我から離れるのではないぞ」

 我は頬から冷や汗がつたる感覚を覚えながら、光の柱を凝視する。
 すると、その光の中からひとつの人影が現れ――

「魔王様、やっと見つけましたよ。お迎えに上がりました。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...