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第四章 言い掛かりを止めるには?
#21:いま欲しいもの
しおりを挟む「でも離脱したって!」
「あれは嘘だよ。俺が咄嗟に付いた嘘さ。仲間には殆ど任せているけど、監修は継続してる。ガッツリ関わってると思われたら、気を使うだろうし、変に距離を取られるかもしれないからな。あ、そうだ。それより、腹減ってるんだろ? 今なにか買ってくるから。えっと、ゼリーが食べたいって言ってたよな?」
病室から先輩が出て行こうとした。
正直、まだ行ってほしくなかった。どっかに行ってしまう気がして、声を掛けずにはいられなかった。
「やっぱり要らないです!」
俺が出した大きな声に、近江先輩は振り返る。
「え、要らない?」
「俺。先輩が作るゼリーが食べたい。退院したら食べに行くから。だから、えっと」
まだ居て欲しい。たった一言なのに言葉が出てこない。ど恥ずかしい言葉は、どうもイマイチ言い辛いのだ。
「宗武?」
不思議そうに先輩は目をパチパチとさせる。整った端正な顔で真面目に真っすぐ見つめられると、より恥ずかしさが込み上げて俺は視線が下りた。
「えっと、だから…その、あー、まだ…い、いて、居てほしいっていうか――」
ふわっと視線が動いた。気まずくて先輩が見れなくて下を向いていたのに、強制的に俺の視界が上がったのだ。
驚く間もなく俺の顔を、先輩が両手で挟んで持ち上げたからだ。視線が交わったのだけれど、よく見えなかった。先輩の顔が近すぎて。
柔らかくて、少し濡れた感触は、ややしっとり。長いようで短い一瞬の出来事だった。
「可愛い」
にっこりと彼は笑う。
「か、可愛いって言うな! てか急に迫ってこないでよ先輩!」
両腕共に、ついでに両足も俺は包帯グルグル巻きで動けないのに。
「えーキスすんのに許諾が必要なのか?」
「きょ、許諾とかそういう問題じゃ――!」
また、やられた。しかも今度は一瞬の出来事ではなかった。
迂闊にも抗議している途中で口を塞がれた。ぬるっと入って来る先輩の舌が俺の舌に絡みついてきて、避けようとしても意思を持ったように追い掛けて来て、ぶっちゃけ頭の中が痺れた。
「…んん…ふっ…んぁ…せ…んぱっ!」
離れてくれない。角度を変えられて、しつこく絡まる舌から逃れられなくて。口の隙間から伝う唾液さえ拭えなかった。
やばい。気持ち良い。凄く気持ち良すぎて意識が飛びそう。先輩の舌が口の中のあちこちを舐め回してきて、俺は抵抗できなくて流されるまま。ゆっくり唇が離れたと思ったら俺の首筋へ流れて落ちてゆく唾液さえも追い掛けた。
「んっ…ぁ…!」
思わず声がでた。
「良い声だな」
「先輩の馬鹿! エロジジイ! てかもう帰れよ!」
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