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最終章 想いを告げるにはどうすれば?
#04:この際、正直に
しおりを挟む「ま。正直さぁ、俺は就職活動をするのが苦手なだけなんだよね。畏まったスーツを着て、履歴書を書くとか商談事で交渉したりとか。自信ある経歴もないし。配信7年。ようやく俺の武器になるのは適当な喋りくらいだし!」
〈そこが良いのよ!〉〈就活しなくても生きていけるなら大成功だって〉〈先輩とお幸せにね!〉〈スーツ姿の鉈ちゃんも見たいけどなw〉〈行くから店の場所教えてほしい!w〉〈向こうでもがんばえ!〉〈配信が天職だろ就活必要ないじゃんw〉〈鉈ちゃんはずっと鉈ちゃんやってほしい〉
「それじゃあ皆んな。空港からの配信は以上で終えます。沢山コメを有難う。スマホの電源の減りが早いから読み上げはできないけど、次回は現地からやるわ! んじゃ、またな!」
配信を切断して先輩を追い掛けた。
ダッシュで追いつくと、彼はチェックインカウンターの列に並んでいた。
「配信終わったのか?」
「終わったよ。てか、さっきのは何?」
不意打ちにキスされたことだ。配信中にも関わらず、ど恥ずかしいことをして鉈リスの皆んなにバレたのだ。
「何って、何のこと?」
おいおい。とぼけるつもりかよ。
「俺の! ここに! したでしょ!」
人差し指で、自分の唇を指した。
先輩が少し首を曲げて、俺の唇に視線を落とすと、また、やられた。
ふにっとする感触。一瞬すぎる刹那の接触。
今日、何度目だろうか。
「ちょ、ちょっと!」
思わず口に手を当てて、回りをキョロキョロしてしまう。
「誰も見てねーよ」
何が可笑しいのか声を落として先輩は笑った。
「そういう問題じゃねぇの!」
「じゃあ、どういう問題?」
「ど、どういうって!」
「俺はもっと進みたいなぁ」
言わんとすることは分かる。先輩の視線が痛い。ていうか、彼の部屋に転がり込んだとき、抱き枕を間にして寝たのだ。抱きしめたいとか、なんとか言われたけれど。
『お、おお、俺! 急ぎたくなくて!』
そんな言葉で、待ってもらった。いや、待つって、何だ?
てか、俺が、やっぱ下なのか! ネコなのか?
頭の中が、いっぱいいっぱいすぎて、思考が止まったままだ。
流されて素直に抱かれるのも悪いことじゃないかもしれない。
そんなことをフラフラと考えてみたが決心するまでには、まだ至らずで。
「あの、先輩は」
「ん。どうした?」
「ぶっちゃけ同性と付き合ったことあるんすか?」
何度も女子生徒に告られてるのは見たことある。だが学生時代に見てきた一年間で、先輩は誰とも付き合わなかった。卒業後、恐らく誰かとは付き合ったことくらいあるのではないだろうか、とは思う。
「あの…先輩?」
俺の顔をじっと見ている先輩は、何も答えてくれない。
「宗武」
「はい」
「今それここで聞くのか?」
ざわつく空港内のフランス行き航空会社のチェックインカウンター付近は、結構込み合っている。あと少しで先頭だ。しかし、チラチラと先輩の顔を見る周囲からの視線も感じるような気がした。
「さっきは、ちゅーした癖に」
「隙だらけだったからな」
「先輩。誤魔化さないでよ。俺は別に先輩が誰かと付き合ってても驚かないし」
「直ぐ別れたよ」
「あ、そう…って、ええ!」
サラっと自然に答えるから、聞き逃すところだった。
見上げて先輩を見たが、どこか遠くを眺めている。俺が今訊いたから、彼方に別れた人を思い出しているのだろうか。
「ぶっちゃけ、何人と付き合ったんですか?」
「え。そこまで聞くの?」
「ただの興味本位」
「お前な…はぁ。3人だよ」
俺の知らない間に、そんなにいたとは。一人か、多くても二人くらいだと思った。
薄目で俺を見る先輩は、溜め息を吐いた。
「この際、正直に言っておくが、皆んな宗武に似た人だった。良い感じになっても最後には俺がダメで。2~3日、いや最長で一週間か。どれも続かなかったけどな」
衝撃的な告白だった。
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