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最終章 想いを告げるにはどうすれば?
#06:最悪な電話
しおりを挟む「あ、それより忘れ物はないよな?」
列が進んで、先輩はカバンからパスポートを取り出した。
「ないよ先輩。大丈夫。えっとそうだ、預けるのはスーツケースだけだったよね?」
「ああ。スマホとかノートパソコンとかは手荷物だからな?」
「分かってるよ!」
「それと液体類は100ML以上あるのは手荷物にできないからな?」
「荷物まとめてるときに百回は聞いた!」
「あと常備薬。腹とか頭痛くなったりしたら、いつも飲んでるやつとかは持ってきたか?」
「一応ね。持ってきた。パスポートは入れたし、財布も鍵もあるし完璧だって!」
あと一人だ。まもなく自分らの番である。
もうすぐだってのに、ポケットに入れていた俺のスマホが震えた。
「げ。マジかよ…」
取り出して表示された名前を見る。何故、今このタイミングなのだろうか。急に気分が悪くなってきた。
「宗武、電話来てるぞ。出ないのか?」
怪訝な顔で先輩が指摘する。
俺はスマホを近江先輩に見せた。
「灘広から。出なくて良い?」
目の前にいた人がいなくなり、先輩は自分と俺の分のスーツケースを引いてくれた。
「俺たちが利用するのは、有人じゃなくて無人のセルフチェックインの方だから。ほら、パスポート貸せよ。タグプリントしてスーツケースを預けるだけだし。ちゃちゃっと、やっておくから」
どうやら電話には出ろという意味らしい。
「はーい。じゃあ、パスポートこれなんで」
手渡してから、俺はスマホの通話に出た。
「はい」
『おお。ようやく出たか!』
前回、会ったのは病室だった。俺の見舞いとして病室に来た灘広に、ある意味起こされて最悪な目覚めとなった。
連絡くれとは言われたが、関わらないことがベストだと思ったから、あれ以来、会ってもいないし会話もしていない。配信を挟んで連絡を取り合ったこともない。
「なんだよ灘広?」
俺は、こいつがしたことを許していない。3年前にオフで記念写真に応じた俺の顔を無断で配信に載せたからだ。他にも自分の配信で匂わせ発言をしたり、チャンネルページの動画の画像を俺のチャンネルに寄せて真似たりなど。
キモすぎる行動すべてが憎い。
『いやいやいや。日本を発つっていうからさ、その前に言いたいことがあって!』
「言いたいこと?」
『そうだよ。なんか、あらゆる誤解が生じてるみたいだからさぁ、オレの配信に鉈リスの奴らが〈鉈ちゃんを巻き込まないでよ!〉ていうコメを未だに書き込んでくるからよう。ちょっと言っておこうと思って!』
事件以降、俺の配信は以前よりも数字の伸びは高くなった。本名も顔も、ついでに家バレもしたわけで、隠すものがなくなって、心配した鉈リスや、最近登録してくれた新しいリスナーたちから同情的な言葉や応援が多くなった。
もちろん反対に、俺が灘広の代わりに拉致されて暴行されたことで、怒ったリスナーたちが定期的に灘広のチャンネルを荒らしていることも知っている。止めるようにSNSでも、配信でも言ってはいるが一向に止まないから、どうしようもない。
「誤解も何もニュースや雑誌で報じられちゃいましたからね。間違われて拉致暴行。そうなるように仕向けておいて今更なんだよ?」
『いや誤解だって! 鉈ちゃんを守ろうと、オレだって手を尽くしたりとかもしたんだよ?』
手を尽くす。自分の身を守るために手を尽くしたのでは、と逆に詰め寄りたかったが早く電話を終わらせたくて、深く突っ込むのは止めておいた。
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