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不穏なスタート
今日の夕飯
しおりを挟むさり気なく自社の開発環境を話題に出してきた。やはり俺にヘッドハンティングの匂わせをしているのだろうか。そうとしか思えないが。
「へぇ。そうなんですね」
「しかしですよ。それで宇多野さんがサンライブに勉強期間として加入したというのは、どういった面で勉強と言うんでしょうか?」
「ああ、別にナインズのようなゲーム開発をする部門ができたとかじゃないんですよ。単純に、宇多野自身の社会人経験が浅くて、バス会社勤務だけでは見識を広げられないから会社に所属して社会人経験を再度積むのに適しているから提携を決めたんです。ここから先は俺の勝手な想像ですけどね、身内の会社なら小さなヘマをしても許されるから。でもサンライブにも旨味がほしい。だから独占試遊を宇多野は許可したんです」
「ふーん。大事な提携なのに、その理由は、宇多野さんから二川さんに教えてくれるわけじゃないんですか?」
「まぁ、この際、ここで会いましたのも縁ですから正直な話を教えます。提携の話が、ほぼ決まってから宇多野は俺に打ちあけてくれたんです。提携の話は何も相談がなかったんで」
目をまあるくさせた与田は、びっくりしたような表情に変わった。
「なんと。もう決まってた話だったんですか!」
ワザとらしいほどに俺は何度も深く大きく頷いた。
「そうなんです。だからサンライブでの配信経験を積んだあとで、多分ですけど、業界系あるいは仕事系とか、社会人の暮らしあるなるなゲームを開発する予定なのかもしれません。脳みそは宇多野ですから」
「ひゃああ。そんな次のゲーム開発の案まで教えてくれちゃうんですか!」
与田が自分の口元を抑えるようにしながら、耳を傾けるように若干身を乗り出してきた。
「俺のただの想像に過ぎません。何度も与田さんからメールで、お声を掛けていただいているのに石頭の宇多野が無下に断りを入れて本当にすみません。一度お話を彼も聞けば何か変わるかもしれなかったのに」
身を乗り出してきた与田は元の姿勢に戻った。少しもじもじとして苦笑を浮かべた。
「いやいや謝らないでください。なんか二川さんとは凄く話が合うなぁと感じます。いずれどこかで仕事がご一緒できたらと思います。あ、いけない。私、会社に戻らないと」
与田は伝票をさっと持ち上げて席を立った。
「急なお声がけをして申し訳ありません。宇多野さんによろしくお伝えください。それではまた、どこかで!」
椅子に掛けていたジャケットを腕に掛け直して、腰を曲げるようにお辞儀をした与田はレジに向かい清算すると店を出て行った。
俺から、あらかた聞き出してもう用はないと踏んだのか。突然の奇襲を受けたが、トータルでみれば宇多野が何故サンライブに加入したのか把握するために声を掛けてきたのだろうか。解せないが。
「はぁ。今日の夕飯、どうっすかなぁ」
地下のコンコース内の寂びれた喫茶店で冷めたコーヒーを持ち上げて飲んだ。まずい味。
すっかり乗っていた気分は、どこかに吹き飛んでしまい、何しに最寄り駅ではない新宿三丁目まで来たのか。
結局、俺はデパ地下には行かず地元駅に真っすぐ帰り、いつものカップ麺を啜ることにした。
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