【完結】配信の果て

ほわとじゅら

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不思議な夢と現実と餌

初夏の香り



―『それでは次のニュースです。先日、サンライブ株式会社に怪文書を送りつけたとする備南市上越区びなんしじょうえつくに住む住岡舞子まいこが、その後の取調べでサンライブに300回以上の苦情電話を行い業務妨害をしたとして逮捕されました。警察によりますと、4月1日にバイク便を装い自身で怪文書を届けていました。取調べにより、昨年サンライブの面接に落ちたことで強い恨みを持ち犯行に至ったとのこと。しかし怪文書を届けたことは間違いないが脅迫したつもりはなく、また電話も業務妨害したつもりはないと、一部容疑を否認しているということです』

「おいおい。スミオカさんよぅ。26歳にもなって何をしてんだ!」

 ニュース内のテロップに思わずツッコミが出てしまった。

 タブレット端末に指で触れて動画を止める。溜め息しか出てこない。

 俺は体制を崩して、ゆっくりベッドに横になった。

 警察からは一切何も聞かされず、これまで病室に見舞いに来た寿々丘、フギからも短い面会時間の中では聞けなかったので、ようやく体を動かせる今になって一か月以上前に報じられたネットニュースに目を通した。

「採用されなかったからとはいえ、面接に落ちたくらいで逆恨みするなんて終わってる」

 SNSでのネット民たちの間では、住岡なる女性の裏アカウントが既に特定されていて、どうやら本郷イチルのガチ恋にあたるファンだったらしい。

 推しのために全力で挑んだ採用面接だったのだろう。だからこそ自分を採用しなかった美駒仁社長を深く恨んだ、とする恨み節の呟きが裏垢にびっしりと投稿されている内容を誰かが魚拓ぎょたくして、改めて表の誰でもみえるタイムライン上に再投稿し中身を読めた。

 張り付けられた内容によれば、社長だけでなく宇多野に対しても〈死ね!〉〈殺す!〉〈許さない!〉とする地獄で叫ばれるような酷い言葉の数々が投稿されていた。

 中でも俺の目に留まった一文には興味深い呟きもあった。

〈本郷イチルをダメにしたのは、サンライブの従業員も同罪だ!〉

「それで苦情電話して業務妨害なんてしたらダメだろ」

 まったくの言い掛かりでサンライブに文句を言うのは間違っている。文句を言うべき相手は、運営ではなく裏切り者の推しの方だろう。

 もちろん裏垢には、本郷イチルに対する怒りの呟きも多かった。見ていられないほどの罵詈雑言ばりぞうごんがひしめきあっていて、長くは眺めていられなかった。

 脅迫文を出したのは、てっきり、ナインズの人間かと俺は思っていた。そうではなかったようで、俺のバイアスも決め付けてしまうのは相当ヤバイなと、ふと思う。

「てか宇多野のやつ。一体いつ来るんだよ?」

 6月初旬。モスグリーンのカーテンが揺らめいて初夏の香りを感じるような心地良い風が部屋の中に通った。

 明日より本格的に始まる両足のリハビリは順調に行けば、検査次第で退院も見えてくるということで、俺の回復も少しづつ戻りつつあった。

 自由になった両手は、今や病院食を一人で食べられるようになったし、両足はまだまだ自立歩行まで難しいものの、車いすを利用しての院内を移動できるようになったのはデカい。

 なにより部屋に備え付けられたトイレに行けるようになったとき、俺は思わず泣いた。今までベッド上で用を足すという排泄はいせつ行為を簡単には受け入れられず、単純なことができなかった期間、人としての何かを俺は失いかけていた。

「長期入院したことねぇやつには、きっと俺の気持ちなんか分かるわけねぇよなぁ」

 しみじみ自分の回復に感動しているときだった。病室の扉が開かれて、看護師が様子を見に来たのだろうかと思った。

「え?」

 俺は思わず声が出た。入ってきた男を見ても知らない顔だったからだ。いや、俺が忘れている人物かもしれないが。

「あ、二川さん、ですよね? お疲れ様です!」

 ハキハキと元気よく答える長身の青年がやってきた。フギではない。寿々丘でも、前川、本間でもない。

「えっと、どちらさま?」

 俺の中の記憶を手繰り寄せようとするも誰にもヒットしない。3月に出会った者ならば一旦は謝罪をしないといけないだろう。それとも名前を聞けば思い出すだろうか。

「あ、そうですよね! 俺は美浜瑛多です。初めまして!」

「みはま、えいた……お、おう。初めまして?」

 ダメだ。まったく思い出せない。

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