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不思議な夢と現実と餌
事後報告
「そろそろ俺は帰りますけど何か他に必要なものはありますか?」
椅子から立ち上がると、美浜は伸びをした。
宇多野が未だに来ないことが気になるけれど、ゲーム開発時よりも多忙なのだろう。数日前、代理マネージャーは調整すると言っていた。
見舞いに来れないほどなのであれば、催促するのは酷かもしれないと思った。
「いや、特に……あ!」
俺の素っ頓狂な声に美浜の体がびくりと震えた。彼は目をパチパチと瞬いた。
「突然どうしたんですか?」
「そういえば俺、3月に入ったときに美駒社長にお願いする用事があったのを今思い出したんだ。それ、そのタブレットを取ってくれ!」
机上に置いておいたタブレット端末を美浜が手に取った。
「悪いけど今すぐ、らふTVにある安毛の公認切り抜きチャンネルを出してほしいんだ!」
美浜はタブレット上を操作しながら懐かしむ様に目を細めた。
「懐かしいな。俺、むかし結構見てたんですよねぇ」
「え。今は見てないのかよ?」
宇多野の配信に白雪姫なるアカウント名でコメントするくらいには安リスだと主張していたのに。
「アーカイブに追いついてライブを見るようになってからは、積極的に見る機会が減ったんですよ!」
「なるほど」
「あれ……でも、そういえば最近はオススメにも上がってなかったような。あ、あった! これですか?」
彼はタブレット端末を俺に手渡した。
「どうやら3月25日付で更新は止まっているみたいですけど」
「マジか。それじゃあ、チャンネル停止になっているってことか」
「これって、なんかマズい状況ですか? チャンネルの運営会社に調査を頼んだ方が良いでしょうか?」
美浜は休職を解いて4月から復帰した。事情を一切知らないのだろう。
「いや調査はいらないよ。2月にサンライブと戦略的パートナーシップを築いたから、チャンネル更新は基本的にはサンライブの許可がないとダメなんだ。安毛の公式チャンネルの更新はサンライブが引継ぎをすることが決まってたけど、公認切り抜きチャンネルの方は古参リスナーに任せていたんだ。外部依頼だから残念なことだけど、宇多野が停止措置に踏み切ったんだろう」
「なるほど。じゃあ仕方ないっすね」
何度も俺は、ミンヤ太郎と、ななんぱという古参リスナーとやり取りを交わしていた。手が自由になったのだから、彼らに挨拶くらいは送るべきなのかもしれない。
「俺にできることは何かありますか?」
美浜は困ったような表情を浮かべた。
「あ、済まない。とりあえず他に何もないので大丈夫。あとで、公認切り抜きチャンネルを担当してくれた方に御礼のメッセージを自分で送るから」
「そうですか。分かりました。では俺はもう帰ります。ていうか、入院中なんですから仕事のことは一旦置いて、きちんと休んで治療に専念してくださいね?」
「あはは。そうだね。心配かけて申し訳ない。美浜君も仕事がんばれよ!」
爽やかな笑顔を浮かべて彼は帰って行った。
公認切り抜きチャンネルのことくらい、どうして宇多野は教えてくれないのだろうか。ご多忙でも見舞いに来てくれる人物に言伝を頼むとか、代理マネージャーを使って俺に事後報告くらいしてくれても良いのに。もしかして長期入院の俺に、心配を掛けまいと敢えて遠慮しているのだろうか。
どうしているのか気になる度に深い溜め息が出た。退院の話も出てきた今、このままだと、やって来ない可能性の方が高そうに思える。
「ちょっとくらいなんで、顔出せないんだよ!」
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