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王者の咆哮
あの日以来
「あら。しらばっくれるつもりなの? 病院に宇多野さん担当のマネージャーさんが運ばれた日に、私の知り合いも後から駆けつけたの」
「駆けつけた?」
「覚えているかどうか知らないけど、まいが言ってたの。湖名嘉まい」
瞬時に思い出した。コンテンツ事業部のスタッフだ。
「湖名嘉さんが?」
「一時期、シチュボの提案でお世話になったから、会社の真ん前で事故に遭ったって聞いて心配そうにしてた。でも、すぐに駆け付けるとか無理だったの。残業して仕事を熟したあとで何か差し入れできそうなものを持って行ったの。ちゃんと寿々丘さんにも許可はもらって搬送先の病院を教えて貰ってたから」
「そうなんですね」
「だから病院に着いたとき、出入り口付近で言い争う声が聞こえて、あなたが宇多野さんを叩くのを見たの」
まさか最悪な場面を見られていたとは思わなかった。
どう弁解しようかと思った。
「えっと、綾瀬さん?」
彼女は私の両肩に、そっと手を置いた。
「何があったか知らないけど、グッジョブよ!」
「え?」
「まいが言ってたわ。打合せでボロボロにされてプライドはズタズタ。本当にムカついて時々思い出しては苛々することがあるんですって。だから、あなたが思い切りぶちのめしたとき、心がすっと晴れたんだって。でもどう声を掛けようか悩んでて。だから今度、私たちとランチしましょ!」
総務部を出た。エレベーターに乗り込むときまで、綾瀬は見送りに手を左右に振った。
作り笑顔で左右にエレベーターの扉が閉まるとき、大きな溜め息が思わず零れた。
「うわぁ。やばいところ見られちゃったなぁ」
ランチを誘ったのは叩いた理由を聞くためだろう。自分のことを随分前から探偵に依頼して調べられていたなんて、言えるわけがない。しかも調べられた原因となるのも、岸光牙に関する情報を集めるためなのだ。
パンファミの元夫だったなんて、もっと言えやしない。彼女たちに知られれば恐らくサンライブの社内中に広まることだろう。最近では、企画部の女子トイレには来なくなったから、恐らく他のフロアの女子トイレで噂話に花を咲かせている筈だ。
「ランチ。どうやって避けようかなぁ」
大きな袋を持ってエレベーターから出た。少し前が見えにくいが、企画部のオフィスは目の前である。
だから急に人が飛び出して来るとは思わなかった。
自分の声が上がり、相手の声も僅かに上がり驚いて後ずさった。
「ああ!」
ぶつかった衝撃の所為だろう。発泡スチロールの袋の口から中身が飛び出した。宙に、ゆるゆると散らばる発泡スチロールの白い粒が四方に広がった。
文句の一つでも言おうとした。だが言葉に一瞬詰まった。ここに本来いる筈のない人物がいたからだ。
「なんで」
「あなたでしたか。御堂さん」
あの日以来だ。病院での気まずい出来事から直接会っていなかった。
どうしてここに、いるのだろう。
宇多野泰人は真っ直ぐに私を見つめた。
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