55 / 101
スコープの向こう側/テーマ:暗闇の中で
しおりを挟む
闇に溶け込みスコープを覗く。
ターゲットを捉えたら引き金を引く。
私にとっては簡単なことで、人を殺めることに躊躇いもない。
殺し屋を仕事として初めたのは二十の頃。
一年もしないうちに私の名は裏の世界で知れ渡り、付いた通り名が氷結。
そう呼ばれるのも当然だ。
二十の私の初ターゲットは実の両親だったが、何の躊躇いもなく引き金を引いた。
その後も誰とも組まずに依頼をこなし、その成功率は百発百中。
そんな私を誰かが氷結だと言い付いた名。
依頼を引き受けたら仕留める、それがこの仕事であり、感情なんて捨てなければ続けられない。
「依頼は達成した」
「相変わらず早いな。んじゃ、これが報酬の金な」
この男は仕事を提供することを仕事にしている仲介屋。
私のような一匹狼はこういう男から依頼を受ける。
依頼人は殺し屋を指定もできるが、引き受ける側は依頼人の情報どころか顔も教えられない。
仲介屋のみが知るからこそ、依頼人も殺し屋も安心して仕事ができるわけだ。
基本的には依頼人が殺し屋を指定することは少ないが、私のように名の知れた者には時々ご指名が入る。
引き受けるかは殺し屋次第だが、私は依頼を断らない。
唯一断るとすれば、他の殺し屋と組む依頼くらいだ。
「そういえば氷結にご指名があるが、どうする?」
「決まってるだろ」
ひらひらとチラつかせてきた紙を奪い取ると、私は次の依頼に向かう。
紙に書かれていたのは資産家の男の名と顔写真。
そして、指名する殺し屋の名。
「は?」
私は紙に書かれていた文字につい声が漏れる。
何故ならこの依頼は、私ともう一人に来ているから。
つまり、二人でこの依頼を成功させろということ。
仲介屋はそんなこと一言も言っていなかった。
話せば断ることがわかってるからわざと言わなかったんだろう。
今すぐ断りたいところだが、引き受けたからには仕方がない。
組む相手の電話番号が書いてあるが、私は無視して早速情報屋に行きターゲットの情報を得ると、狙撃が可能な場所を見つけスコープを覗く。
ターゲットを捉えて引き金を引こうとしたその時、背後に気配を感じスコープから目を離し振り返る。
「すみません、邪魔をしてしまって。貴方が氷結さんですか?」
眼鏡をかけた、見るからに弱々しい男がそこにいた。
まさか私が背後に近付かれるまで気付かないなんて。
取り敢えず見られたからには始末するべきかと腰に指していた銃に手を伸ばす。
「あ、撃たないでください。僕は、今回の依頼で貴方と組むことになった仮面です」
確かに組む相手の名は仮面と書いてあったが、見るからに一般人。
名で指名が来るようには見えない。
「悪いがこの依頼、私一人でやらせてもらう。仲介屋には二人で殺ったことにする」
「わかりました。と言いたいところですが、一緒に受けた依頼ですから二人で成功させましょう」
こんな足手まといがいたんじゃ仕事なんて出来やしない。
ライフルを仕舞い立ち去ろうとすると「明日は電話してくださいね」と言われたが無視して廃墟ビルを降りていく。
そしてその先で見たのは、数十人の男の死体。
銃を全員所持していることから、私の狙撃場所を知ったターゲットが差し向けたんだと予想出来る。
どうやらあの仮面という男、只者ではなさそうだ。
あんな男に助けられるなんて、この仕事を始めて以来の恥だ。
次の深夜、私はターゲットが移動したという情報を入手し、その場所を狙撃できるビルへと来ていた。
勿論あの仮面という男には知らせていない。
昨日は不覚をとってしまったが、元々こんな依頼私一人で十分。
スコープを覗き標的を捉えると、私は躊躇いなく引き金を引く。
これで依頼完了。
ライフルをケースに仕舞いビルを降りると、そこには仮面がいた。
「遅かったみたいだな」
「そうみたいですね」
ヘラヘラとした態度が私を苛つかせる。
こんなのと同レベルで依頼されたんだと思うと無性に腹が立つ。
私はその足で依頼達成を報告しに仲介屋へ行く。
これであのふざけた奴とも顔を合わせることはないと思うと、気分は清々しいものだ。
「依頼は達成した」
「ご苦労さん。まさかターゲットが替え玉を使うとはな」
仲介屋の言っている言葉の意味がわからず聞けば、依頼達成の報告は仮面から受けていたらしい。
それも、ターゲットが替え玉を使うことに気付いた私と仮面は二手に分かれ、私はターゲットが油断するように替え玉を狙い、その隙に仮面がターゲットを始末するという内容。
事実は、替え玉を使いあの場所にいなかったターゲットを仮面が始末し、私は替え玉を撃ち抜いたということ。
つまり私の完全なるミス。
だが仮面はその事を伏せ、二人で協力してターゲットを始末したと話したようだ。
勿論失敗した依頼の報酬など受け取る気はない。
全額仮面に渡すよう仲介屋に伝えて私は次の依頼を引き受ける。
今となっては何故あの男が私のミスを話さなかったのか知る術はなく、仲介屋に居場所を聞いたところで話すことはない。
同じ商売をする裏の者の情報を流すなんてことがあれば、仲介屋が始末されかねないからだ。
あれから数年後——。
私はミスをしない完璧な仕事をこなしている。
そして今日も深夜のビルでスコープを覗く。
月は雲に隠れ、私も闇に溶け込む。
「さようなら」
引き金を引く瞬間、初めてターゲットに別れを告げた。
スコープの向こうには、床に倒れる仮面の姿。
私達は殺し屋。
殺し屋が殺し屋を始末する依頼もある。
あの時のミスがあり今の完璧な私がある。
そして、この世界で生きることができている。
もしあの時のミスが知られていれば、私の殺し屋としての評判は下りこの世界にいられなかっただろう。
一つのミスが自分を殺す弾丸となるこの世界。
私もいつか誰かのスコープの向こう側に映る日が来るかもしれない。
そんなことを思いながら、私は暗闇の中へと姿を消した。
《完》
ターゲットを捉えたら引き金を引く。
私にとっては簡単なことで、人を殺めることに躊躇いもない。
殺し屋を仕事として初めたのは二十の頃。
一年もしないうちに私の名は裏の世界で知れ渡り、付いた通り名が氷結。
そう呼ばれるのも当然だ。
二十の私の初ターゲットは実の両親だったが、何の躊躇いもなく引き金を引いた。
その後も誰とも組まずに依頼をこなし、その成功率は百発百中。
そんな私を誰かが氷結だと言い付いた名。
依頼を引き受けたら仕留める、それがこの仕事であり、感情なんて捨てなければ続けられない。
「依頼は達成した」
「相変わらず早いな。んじゃ、これが報酬の金な」
この男は仕事を提供することを仕事にしている仲介屋。
私のような一匹狼はこういう男から依頼を受ける。
依頼人は殺し屋を指定もできるが、引き受ける側は依頼人の情報どころか顔も教えられない。
仲介屋のみが知るからこそ、依頼人も殺し屋も安心して仕事ができるわけだ。
基本的には依頼人が殺し屋を指定することは少ないが、私のように名の知れた者には時々ご指名が入る。
引き受けるかは殺し屋次第だが、私は依頼を断らない。
唯一断るとすれば、他の殺し屋と組む依頼くらいだ。
「そういえば氷結にご指名があるが、どうする?」
「決まってるだろ」
ひらひらとチラつかせてきた紙を奪い取ると、私は次の依頼に向かう。
紙に書かれていたのは資産家の男の名と顔写真。
そして、指名する殺し屋の名。
「は?」
私は紙に書かれていた文字につい声が漏れる。
何故ならこの依頼は、私ともう一人に来ているから。
つまり、二人でこの依頼を成功させろということ。
仲介屋はそんなこと一言も言っていなかった。
話せば断ることがわかってるからわざと言わなかったんだろう。
今すぐ断りたいところだが、引き受けたからには仕方がない。
組む相手の電話番号が書いてあるが、私は無視して早速情報屋に行きターゲットの情報を得ると、狙撃が可能な場所を見つけスコープを覗く。
ターゲットを捉えて引き金を引こうとしたその時、背後に気配を感じスコープから目を離し振り返る。
「すみません、邪魔をしてしまって。貴方が氷結さんですか?」
眼鏡をかけた、見るからに弱々しい男がそこにいた。
まさか私が背後に近付かれるまで気付かないなんて。
取り敢えず見られたからには始末するべきかと腰に指していた銃に手を伸ばす。
「あ、撃たないでください。僕は、今回の依頼で貴方と組むことになった仮面です」
確かに組む相手の名は仮面と書いてあったが、見るからに一般人。
名で指名が来るようには見えない。
「悪いがこの依頼、私一人でやらせてもらう。仲介屋には二人で殺ったことにする」
「わかりました。と言いたいところですが、一緒に受けた依頼ですから二人で成功させましょう」
こんな足手まといがいたんじゃ仕事なんて出来やしない。
ライフルを仕舞い立ち去ろうとすると「明日は電話してくださいね」と言われたが無視して廃墟ビルを降りていく。
そしてその先で見たのは、数十人の男の死体。
銃を全員所持していることから、私の狙撃場所を知ったターゲットが差し向けたんだと予想出来る。
どうやらあの仮面という男、只者ではなさそうだ。
あんな男に助けられるなんて、この仕事を始めて以来の恥だ。
次の深夜、私はターゲットが移動したという情報を入手し、その場所を狙撃できるビルへと来ていた。
勿論あの仮面という男には知らせていない。
昨日は不覚をとってしまったが、元々こんな依頼私一人で十分。
スコープを覗き標的を捉えると、私は躊躇いなく引き金を引く。
これで依頼完了。
ライフルをケースに仕舞いビルを降りると、そこには仮面がいた。
「遅かったみたいだな」
「そうみたいですね」
ヘラヘラとした態度が私を苛つかせる。
こんなのと同レベルで依頼されたんだと思うと無性に腹が立つ。
私はその足で依頼達成を報告しに仲介屋へ行く。
これであのふざけた奴とも顔を合わせることはないと思うと、気分は清々しいものだ。
「依頼は達成した」
「ご苦労さん。まさかターゲットが替え玉を使うとはな」
仲介屋の言っている言葉の意味がわからず聞けば、依頼達成の報告は仮面から受けていたらしい。
それも、ターゲットが替え玉を使うことに気付いた私と仮面は二手に分かれ、私はターゲットが油断するように替え玉を狙い、その隙に仮面がターゲットを始末するという内容。
事実は、替え玉を使いあの場所にいなかったターゲットを仮面が始末し、私は替え玉を撃ち抜いたということ。
つまり私の完全なるミス。
だが仮面はその事を伏せ、二人で協力してターゲットを始末したと話したようだ。
勿論失敗した依頼の報酬など受け取る気はない。
全額仮面に渡すよう仲介屋に伝えて私は次の依頼を引き受ける。
今となっては何故あの男が私のミスを話さなかったのか知る術はなく、仲介屋に居場所を聞いたところで話すことはない。
同じ商売をする裏の者の情報を流すなんてことがあれば、仲介屋が始末されかねないからだ。
あれから数年後——。
私はミスをしない完璧な仕事をこなしている。
そして今日も深夜のビルでスコープを覗く。
月は雲に隠れ、私も闇に溶け込む。
「さようなら」
引き金を引く瞬間、初めてターゲットに別れを告げた。
スコープの向こうには、床に倒れる仮面の姿。
私達は殺し屋。
殺し屋が殺し屋を始末する依頼もある。
あの時のミスがあり今の完璧な私がある。
そして、この世界で生きることができている。
もしあの時のミスが知られていれば、私の殺し屋としての評判は下りこの世界にいられなかっただろう。
一つのミスが自分を殺す弾丸となるこの世界。
私もいつか誰かのスコープの向こう側に映る日が来るかもしれない。
そんなことを思いながら、私は暗闇の中へと姿を消した。
《完》
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ウインタータイム ~恋い焦がれて、その後~
さとう涼
恋愛
カレに愛されている間だけ、
自分が特別な存在だと錯覚できる……
◇◇◇
『恋い焦がれて』の4年後のお話(短編)です。
主人公は大学生→社会人となりました!
※先に『恋い焦がれて』をお読みください。
※1話目から『恋い焦がれて』のネタバレになっておりますのでご注意ください!
※女性視点・男性視点の交互に話が進みます
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる