1話完結のSS集

月夜

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扉の向こう/テーマ:暗闇の中で

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 数日前から、何故か家の扉横に花が置かれるようになった。
 今日も出勤時に扉を開けると、そこには二輪の花。
 それも、彼岸花と菊。

 一体誰の悪戯なのかはわからないけど、置かれる花がこの二輪であることが何より不気味で、朝はそのままにして会社へ行き、帰ってくるとその花をゴミ箱に捨てている。

 これがここ数日毎日。
 放っておけばいずれ辞めるだろうと思っていたけど、今日で一週間。
 流石に頭にきて、私は玄関の前に座り込んで犯人を待つ。

 明日は仕事が休みだから、今日は寝ずの番。
 仕事に向かう七時過ぎにはすでに置いてあるから、それより前の時間ということ。

 普通に考えれば子供の悪戯。
 だとしたら、学校へ向かう途中に置いて行くということだから、早くても六時前くらいだろうけど、もし大人の仕業なら夜や深夜、早朝、どの時間に来てもおかしくはない。

 玄関は流石に冷えるから、私は毛布に包まり見張る。
 家の玄関は一部スリガラスになってるから、人が来ればわかる。



「子供なら注意して、大人なら警察に突き出してやる」



 そんな事を考えながら見張ること数時間。
 いつの間にか眠っていた私が、何かの気配で目を覚ますと、スリガラスの向こうに黒い影。

 直ぐにでも扉を開けて捕まれたいところだけど、相手がどんな人かわからないのに危険すぎると思い、犯人の姿だけでも確かめようと覗き穴に目を近づける。

 何故だか暗くて何も見えない。
 玄関前には人が立つとセンサー式で明かりがつくから真っ暗なんてことないはずなのに。

 そしてその時ある疑問が浮かぶ。
 先程見たスリガラスの向こう、黒い影が動いていたから誰かいるってわかったけど、明かりがついていなかった。
 今日帰宅したときには正常に機能していたけど故障だろうか。

 もしかしたら月灯りなどで見えるかもしれないと思い、私は再び覗き穴に目を近づけた。
 でもやっぱり暗くて何も見えない。
 じっと光が照らすのを待っていると、キーッと言う音が聞こえ視線を下へ向ける。

 新聞受けが開き、何かが玄関に落ちた。
 外の人物に気づかれないように息を殺し、それを拾い上げ、確かめる為に顔の前に近づける。

 私が手に持っていたのは彼岸花。
 怖くなり奥へ戻ろうとしたとき、何かを足で踏み拾うと、それは菊の花。

 恐怖で血の気が引くのを感じていると、新聞受けから沢山の彼岸花と菊が落とされていく。



「何なのよ……。もう、止めて……止めてよッ!!」



 その言葉で、新聞受けから溢れだしていた花はピタリと止まる。
 一気に身体から力が抜けてその場にへたり込むと、キーッというあの音がなり視線を向ける。

 真っ暗でよく見えないけど、何かが新聞受けから出てきた。
 また花かと思っていたが、今度は違う。
 暗闇で僅かに見えるそれは人の手。
 新聞受けから出て来た手はズルズルと伸び、この向こうにいるのが人ではないとがわかる。

 その手はとうとう私のすぐ側まで来て、頬に触れる。
 ベトリとしていて冷たい。
 恐怖で声も出せずにいた私は、そこで意識を手放した。


 その翌朝、玄関にあった大量の花は跡形もなく消えていた。
 一体あれは何だったのか。
 ただ気になるのは、起きた私の頬がベトリとした何かで濡れていたことだけ。


《完》
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