1話完結のSS集

月夜

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逃げる事を辞めた日/テーマ:走り出す

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 気づいたら走り出していた。
 あの場所にいたくなくて、見たくなくて。

 何で親友の結菜ゆなふじと校舎裏なんかにいたの。
 何で結菜が藤に告白なんてしてるの。

 私と藤は幼馴染。
 そして、私の好きな人。
 それは結菜も知っていたのに、こんな風に裏切られるなんて思わなかった。

 走って家まで逃げてきた私は、藤がなんて答えたのか知らない。
 でもわかってる。
 だって藤は結菜の事が好きだから。

 藤とは家が隣同士で、私の部屋のベランダと藤のベランダはお互い手を伸ばせば届くくらいに近い。
 だから昔から、ベランダが私達の話す場所だった。

 中学に入学して出来た親友の結菜の話をして、藤にも学校で紹介した。
 それから藤はいつも「結菜って可愛いよな。お前と違って」と言うようになって。
 いつも結菜の名前が藤の口から出てきた。
 その度に私の胸はチクチクと痛んだことなんてアイツは知らない。

 その事を私は結菜に話した。
 いつも藤が、結菜のことを可愛いと言ってることや、私も結菜を見習えとか言われるんだよと。
 そんな話を笑いながら聞いた結菜は「幼馴染でずっと一緒だから、近過ぎて魅力に気づけてないだけだよ」なんて言っていつも励ましてくれていた。

 なのに、いつも一緒に帰るのが当たり前になっていた藤の姿がなかなか現れなくて、迎えに行こうと教室に行ったら、結菜と一緒に何処かへ行ったと聞かされ、深く考えずに探していた。
 そして偶然告白現場に遭遇して、気付いたら走り出していた。

 親友に裏切られた事がショックだったのか、藤が誰かと付き合うことが嫌だったのか、もしくは両方。
 自室へと続く階段を駆け上がり部屋の扉を閉めると、私の瞳からは涙が溢れだす。
 両手で自分の口を押さえて声を殺ししばらく泣いたあと、私はぼーっとする頭でお風呂に入る。

 夕食の時も何も考えられなくて、自分が何を食べたのかすら思い出せない。



「このままじゃ、ダメだよね……」



 一人部屋でつぶやき、明日結菜に聞こうと決めた。
 結果を知ることになるけど、親友が裏切ったなんて思いたくないから。
 もしかしたら、結菜は藤が好きで、私も好きなことを知って言い出せなかっただけかもしれない。
 それなら、二人が上手くいったことを親友として、幼馴染として喜ばなくてはいけない。

 自分の気持ちを整理し終えたとき、スマホに着信が入り画面を見ると藤の名前が表示されていた。
 正直今は出たくないけど、避けたってどうしょうもない。



「もしもし」

「おまえ、何で今日先に帰ったんだよ。ベランダにも出てねーし」



 そう入れて時計に視線を向けると、いつもならベランダで藤と話してる時間だった。
 カーテンを開けるとスマホ片手に藤の姿があり、私は羽織を着るとベランダに出た。



「で、何で先に帰ったわけ?」

「別に……。約束してるわけじゃないんだからいいでしょ」



 藤が悪いわけじゃないのに、自然と怒った口調になる自分が嫌になる。
 気持ちを整理したはずなのに、藤と話すと辛くて心が揺れてしまう。
 二人が上手くいったことを喜ばなくちゃいけないのに。



「藤さ、結菜に告白されてたでしょ」

「何で知ってんだよ」

「偶然見たの。良かったじゃん、精々結菜に愛想つかされないようにしなよ」



 そう言って部屋に戻り、カーテンを閉めた私は崩れ落ちるように床に座り込んだ。
 好きって気持ちは整理して無くなるものじゃない。
 ずっと小さい頃から一緒で、そんな藤に恋をしてベランダに出るのにもドキドキしたりするようになって、好きが沢山私の心を一杯にした。

 それも今日でお終い。
 忘れなくちゃいけない。
 二人の事を喜ばなくちゃいけないと思うのに、涙は止まらない。
 最初からこんな恋、しなければよかった。


 翌日、いつもと時間をずらして早めに学校へ向かう。
 同じ時間だと藤と会って、いつもみたいに一緒に登校することになるから。

 とはいえ、少し来るのが早すぎたみたい。
 教室にはまだ誰もいないし、外からは朝練中の人達の声が聞こえてくる。
 しばらくぼーっとしていると、後ろの扉が開いた。

 部活が終わって誰か来たんだろうと思っていたら「おはよう。早いね」と声をかけられ顔を上げる。



「結菜……」

「どうかしたの? 何だか目が赤いよ」



 私の斜め前の自分の席に鞄を置きながら尋ねてくる結菜に、昨日見たことを伝えた。
 二人が上手くいったなら応援しなくちゃ。
 そう思ってたのに、結菜の顔からは笑みが消えていた。

 もしかして、上手くいかなかったんじゃないか何て内心喜んでしまった私は最低だ。



「見てたんだ。まあ、藤くんに近づく為にアンタと親友にまでなったんだし、これで用済みだからいいけど」

「え?」



 私には、結菜が何を言ってるのかわからなかった。
 わかっていたけど、理解したくなかった。
 最初から全部嘘なんて知りたくない、聞きたくない。



「それで目の周りが腫れるほど泣いたんだ? いいきみ。私と藤くんは恋人になったんだから、幼馴染だけの存在のアナタは邪魔しないでね」



 私は本当に馬鹿だ。
 全部自分の都合のいいように考えて、嫌なことは一切考えず逃げてた。

 結菜は私を裏切ったんじゃないとか、もしかしたら告白は上手くいかなかったかもなんて思う気持ちがあった私は本当の馬鹿だ。

 私は立ち上がると結菜に歩み寄り、その頬を引っ叩く。
 何より馬鹿だったのは、こんな相手を親友と思い藤に近づけてしまったこと。
 こんな子と付き合ったって藤が不幸になるだけ。



「おい、何してんだよ」

「藤……」



 声のする方に視線を向けると、そこにいたのは藤だった。
 違うクラスの藤が何で来たのかとか今はどうでもいい。
 それよりもこの状況。
 何も知らない藤から見たら、自分の彼女に暴力をふるった奴にしか見えない。

 瞳をうるうるさせながら藤の名前を呼び、その胸に抱きつく結菜。
 こんなの誰が見たって私が悪者だ。

 気づいたときには教室から走り出していた。
 また私は現実から逃げた。
 本当に馬鹿で弱い自分。

 屋上まで走ってきたはいいけど、藤にはきっと嫌われた。
 でも、好きな相手が他の女と付き合うのを傍で見続けるくらいなら、嫌われて関わらなくなった方が楽だ。
 そんな風に考えてまた逃げる自分が嫌になるけど、そうでも思わないと今にも泣いてしまうから。

 好きだった人に嫌われて、親友だと思ってた人に裏切られて。
 もう私には何もない。

 空っぽの心に突然響いたのは、屋上の扉が勢いよく開く音。
 バッと視線を向ければ、何故か藤がいた。



「なんで……」

「はぁはぁ……。何でじゃねーっつの。昨日も今日も人の話聞かずに消えやがって」



 話を聞かないって、これ以上私に何をしれというのか。
 もう失うものなんてない空っぽの心を、まだ傷つけようというのか。
 聞きたくないと耳を塞げば、藤はお構いなしに近づいてきて私の両手を耳から退けた。



「俺はおまえが好きだ!」

「……え?」



 自分でも間抜けな声が出たと思う。
 私は幼馴染にまで傷つけられようとしてるんだろうか。



「嘘だよ! 藤は結菜と付き合ってるんでしょ!?」

「は!? 誰だよそんなデタラメ言ったのは」



 思考が追いつかない私を見た藤は、昨日の告白からの事を話し始めた。


 その日も私と帰ろうと支度をしていた藤の元に結菜がやって来て、校舎裏に連れられ告白をされた。
 そこまでは私も知っていたけど、それには続きがあった。



「俺、好きな奴いるから」

「何で? あんな子可愛くもないし私のがいいでしょ!?」



 その言葉に藤は怒りを露わにし「アイツと親友のくせに悪口言うのかよ」と吐き捨ててその場を去った。
 自分の親友があんな子だと知ったら傷つくと思い、どう伝えるべきかと考えながら私の教室に来た藤だったけど、既に私は帰った後。

 いつもの時間にもベランダに出てこなかったから電話をしたら、何故か元気がない上に告白されたのを見ていたと聞かされ、直ぐに断ったことを話そうとしたけど私は部屋の中へ入ってしまった。
 だから今日伝えようとしたのに、いつもの時間に私は家から出てくる様子がなく、インターホンを鳴らしたらお母さんが出て既に登校したと聞かされ学校に向かった。

 自分の教室ではなく向かったのは私の教室。
 中を覗いたと同時に、パシッと音が聞こえ。
 そこには頬を叩かれたと思われる結菜と、叩いた本人の私がいた。

 状況が理解できずに声をかけた藤に、結菜は抱きついてきて私はその場から走り去った。
 詳しい事情を聞こうと結菜に聞くと「何もしてないのに挨拶したら叩かれたの」と言われ、藤は結菜を自分から引き剥がした。



「アイツが何もしてねー奴に手を上げるわけねーだろ。二度と俺にもアイツにも声かけてくんじゃねー」



 ギロリと睨まれた結菜はビクッと怯え、藤は私を追いかけてきて今に至る。
 その内容に驚く私だけど、それよりも気になるのは藤の告白だ。



「話の内容は理解したけど、それでなんで藤が私に告白するわけ?」

「しかたねーだろ。おまえ俺の話聞こうとしねーし、つい言っちまったんだよ」



 それは、勢いで言っただけで本心ではないのかと複雑な気持ちが胸の中に渦巻いていると、私のカラダは藤の腕の中に閉じ込められた。
 突然のことに固まる私の耳元で「言った言葉は嘘じゃねーから」と言われ、顔に熱が集まる。

 また逃げ出してしまいそうになる足をぐっと地面につけて「私もずっと好きだった」と伝える。
 一度失ったと思ったものは手に入り、もう一つは失った。
 けれで、一番大切なものだけは今私のそばにあるんだと思うと辛くはなかった。


《完》
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