1話完結のSS集

月夜

文字の大きさ
76 / 101

魔王の考え/テーマ:復活

しおりを挟む
 ここは魔界。
 魔族を恐れる人間が足を踏み入れることはない場所。
 だが、そんな魔界に命知らずの人間が一人やって来た。

 魔王の配下達は次々に倒され、遂にその人間、勇者は、魔王城へと辿り着く。
 激しい戦いの末、魔王は敗北し、人間世界へと戻った勇者は英雄として担がれた。

 それがめでたいハッピーエンドというやつなのかもしれないが、魔界にとってはバッドエンドであることを忘れてはいないだろうか。



「はぁ、ようやく復活できた」



 倒された魔王だったが、魔界の者は人間のように軟弱ではない。
 傷の深さや致命傷にもよるが、魔界の者が死ぬ事はない。
 つまりいくら倒されようとも復活するわけだ。

 それは配下達も同じ。
 無事皆が復活すると、魔王は跪く配下達の前で玉座に座っている。



「魔王様、我々はいつまでこのようなことを繰り返すんでしょうか」

「アタチはもう限界なんだわよ」

「何で俺らがあんな人間にヤラれなきゃいけねーんだかわかんねーですよ」



 配下の魔界トップスリー、ネーザ、チーナ、ガルは不満を漏らす。
 それもそのはず。
 配下といえど魔族、勇者であろうと人間である者に負けるはずはない。
 なら何故負けているのか、それは、魔王の指示だから。

 勇者には程々に相手をし、頃合いを見てやられる。
 そんな芝居を何千年と繰り返してきた。
 一体今回で何万回目になるだろうか。

 勇者が村に帰ると英雄として担がれ、勇者が亡くなったあとは悪魔達が再び街を襲い、新たな勇者が魔界にやってくる。
 こんなことになんの意味があるのか、配下達には魔王の考えが理解できない。



「それが、魔界と人間界のあるべき姿だからだ」

「納得できねーですよ」

「そうなのよ! アタチ達が本気をだちて人間界を支配しゅりゅのがあるべき姿なんだわよ」



 納得行かない二人に対し、ネーザだけは黙り込んでいた。
 それが気になったのか、二人はネーザにも同意を得ようと声をかけたが、彼女の考えだけは二人と違った。

 魔王の言うあるべき姿。
 その言葉の意味、自分達のしてきたことを考えてある考えに行き着いたからだ。

 態と負けた魔族達は復活後、勇者が亡くなるまでの間、魔界でひっそりと息を潜めている。
 それはつまり、人間界との関係を敢えてそのままにしているということ。



「魔王様は、我々魔族と人間の世界を保とうとなされていたのですね」

「は? どういうことだよ」

「わかるように説明ちてよ」



 ネーザは魔王の考えを汲み取り、二人にもわかるように説明をした。
 もし自分達魔族が人間界を支配したら、憎しみが憎しみを産み、命を落とす者も現れる。
 魔族は死なないとはいえ、それは長く生きてきたからだ。
 まだ生まれたばかりの魔族はそうはいかない。
 少しの傷程度なら兎も角、心のぞうを貫かれれば死に至る。
 そんな自体を避けるため、勇者に態と負け人間達を安心させ、勇者が亡くなったあとまた人間界を襲う。

 勇者が亡くなったことで人間達の魔界への恐れが再び蘇り、魔界へと攻め込んで来るのを抑える為だ。
 小さな魔族が命を落とすことがないように、こちらから人間達を再び襲い、新たな勇者が現れるように仕向ける。
 そしてやってきた勇者を程よく相手にすれば、こちらの思った通りに勇者が動かせて無駄な犠牲が出ることもない。



「なるほどな。やっぱ魔王様はスゲーです」

「アタチ、小ちゃな魔族の事まで考えてなかっただわよ……」

「魔王様、我々は魔王様のお考えにこれからもついていきます」



 三人は、魔王の方を向き改めて跪く。
 復活した今、勇者が亡くなるのを待たねばならない。
 魔族にとってはあっという間の時。
 各々散らばりその時を待つ。

 一人玉座に残された魔王は、ただ口を閉している。
 ただ人間と仲良くなれる日があるんじゃないかと思い、勇者が来たら気持ちよく勝たせた。
 だが、その後人間がやってくることはなく、勇者が亡くなったあと再び人間を襲う。
 次の勇者は仲良くなってくれるんじゃないかと期待しながら。

 そんな時も何万回と繰り返され、三人には誤解されたわけだが「まあいいか」と思う魔王は、結果今までと何ら変わらないから軽いのか、もしくは、次の勇者とは仲良くなれるんじゃないかと考えているから軽いのか。



「何やら誤解されたが、結果変わらぬならいいか。次の勇者はどうだろうか」



 どうやら両方の意味で軽かったようだ。
 これでも魔王は慕われる。
 誤解されたまま。

 そして魔王は、人間と仲良くなれる未来があることを夢見続ける。
 そんな勇者が現れるのかもわからないまま。


《完》
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

ウインタータイム ~恋い焦がれて、その後~

さとう涼
恋愛
カレに愛されている間だけ、 自分が特別な存在だと錯覚できる…… ◇◇◇ 『恋い焦がれて』の4年後のお話(短編)です。 主人公は大学生→社会人となりました! ※先に『恋い焦がれて』をお読みください。 ※1話目から『恋い焦がれて』のネタバレになっておりますのでご注意ください! ※女性視点・男性視点の交互に話が進みます

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...