1話完結のSS集

月夜

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ゆるさない二人/テーマ:ゆるさない

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 当たり前の毎日。
 そう思っていたのに、日常は簡単に地獄に変わる事を私は知った。

 中学二年。
 私はクラスの女子三人からイジメを受けている。
 教室に戻ったら筆箱が無くなっていたり、下駄箱の上履きが無くなっていたり。
 良くある典型的なイジメ。



「あれー? 未玲みれ、上履き履いてないじゃん」

「ホントだ。靴下汚れるんじゃない」

「靴下のかえなんてないだろうから裸足で良くない」



 少し離れたところから、クスクスと笑いながら言葉を発する三人の女子。
 その中の一人であり、イジメのリーダー的ポジションである八雅ややは、私の元親友。

 事の始まりは二ヶ月前。
 八雅の好きな人が私に告白したことがきっかけだった。
 私は告白を断ったし、彼には何の興味もないことを説明したけど、八雅は私が彼から告白されたという事が気に入らなかったようだ。
 翌日からイジメは始まり、周りも関わりたくないのか私を避け始めた。

 こんな事が二ヶ月続いてるけど、私は学校を休む事はしなかった。
 悪いことをしたわけでもないのにそんな事をすれば、まるで自分が悪いと認めているようだし、逃げるみたいで嫌だから。


 次は移動教室。
 私は裸足で廊下を歩く。
 同じイジメをされ続けているせいか、歩く姿は自分でも堂々としている気がする。

 一度先生に「上履きはどうしたんですか」と聞かれたことがあったけど、正直に「学校に来たら無くなってました」と答えた。
 先生はイジメと気づいただろうけど、それから何かきかれるといったことはない。
 私自身がイジメを受けていると言ったわけではないから、先生はことを大きくしない為に無視してるに違いない。

 大人は面倒なことは見てみぬふりをする。
 何かきかれても「気づかなかった」と主張できるから。

 イジメを受けている生徒に優しい言葉をかけてくれる教師なんて少人数。
 見てみぬふりする先生に周りの生徒。
 イジメをしている三人と何ら変わらない。

 でもそれでいい。
 私はこの件を一人で乗り越えると決めていたから。


 授業が終わり教室に戻る。
 次は体育。
 移動教室の後に今度は教室に戻り体操服に着替えて体育館へ行くなんて忙しいスケジュール。
 それ以外にも、問題はあるわけだけど。

 教室に戻ると、机の上には汚れた私の体操服。
 校庭の砂に埋めてから掘り出されたみたいに砂が付いている。
 離れたところからクスクス笑う女子三人。
 私は気にせず体操服を手に取り着替える。



「そんな砂だらけの着るなんてありえないよね」

「ほんとほんと。それに何であんな汚れてるわけ? 洗濯してるのかな」

「そんな汚れたので授業受けるきー?」



 ここまで定番みたいなイジメをされると逆に笑えてくる。
 私は笑みを浮かべ「これくらいなら外で叩けば大丈夫だから」と言って教室を後にする。

 態々外に出て砂を叩き落とすのは面倒だけど、体育の授業のときは決まって体操服を隠されていたから予想はしていた。
 でもまさか、今回は体操服を汚してくるとは。
 反応が薄いからイジメの方法を変えたといったところだろう。


 その後、なるべく砂を落として体育館へ行った私は無事授業を終えお昼時間となった。
 体育の後はお腹が空くから早くお昼にしようと鞄からお弁当を取り出す。

 普段ならお弁当が無くなってるけど、今回はある。
 やっぱりイジメの方法を変えたんだろうか。
 そう思いながら制服に着替えた私がお弁当の蓋を開けると、中身はぐちゃぐちゃになっていた。



「何そのお弁当」

「うわー、食欲失せるー」



 二人の女子の言葉。
 その二人の真ん中で笑みを浮かべている八雅。
 私は気にすることなく食べる。
 お弁当箱を思い切り振られたのか中身はぐちゃぐちゃだけど、食べれないわけじゃない。
 いつもは隠されてお昼抜きになったりすることもあるから、こっちのがまだいい。

 そんな、何事にも平然とする私がゆるせなくなったのか、八雅が私に近づいてきて人気のない場所まで案内する。
 勿論、取り巻き二人も一緒。



「あのさ、目障りなんだけど」

「そんなこと言われても、私は普通にしてるだけだから」



 キッパリと言い切る私にイラッとしたのか、八雅は私をキッと睨みつけた。
 好きな男に親友が告白されたくらいでイジメなんて——。



「バカバカしいと思わないの」

「は? 人の好きな男に告白されたからって調子にのんな。私はアンタをゆるさないから」



 どこまでも我儘で自分勝手な元親友。
 いや、元々親友ですらなかったのかもしれない。
 こんなくだらない事で壊れてしまう関係なんだから。


 八雅のイジメは続く。
 でも、私はそんなイジメに負ける気も逃げる気もない。
 イジメに決着なんて存在しない。

 ただ言えるのは、八雅が私をゆるさないように、私も八雅をゆるすきはないということだけ。


《完》
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