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白衣の先生
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私の病気が見つかったのは一ヶ月前。
この街では珍しい小さな病院。
先生の腕は確かで、私は思い切って診察をしてもらった。
ここが最後の希望。
でも結果は何処の病院とも同じ原因不明。
最初は食欲がなくなり、食べる量が減った。
大きな病院で処方された薬も効果はなく、先生は匙を投げる。
そんなある時思い出したのがこの病院。
職場の人が話しているのを聞いただけだが、この街にある小さな病院。
そこの先生は全ての病気を治してしまう。
なのに患者の入りがないのは、先生が患者を選んでいるからだと噂されていた。
可愛い人しか見ないとか、実は無免許医だとか。
私はすがる思いで来た。
もしかしたら診察すらされずに追い返されるんじゃないかと思っていたのに、すんなり中へ通されて検査を受けた。
でも、その結果が他と同じでは何の意味もない。
「三ヶ月でアンタの体は全ての食べ物や飲み物を拒絶する」
「そんな……」
その後は体力も落ち、動くことすら難しくなるだろうと言われ、私は拳をギュッと握りしめる。
「本当に……本当に治す方法はないんですか!? 先生は凄いお医者様なのでしょう?」
「俺が診てきた患者で似た症状の人物がいた。唯一俺が救えなかった患者だ」
私は涙をポロポロと流した。
もう私にあるのは『死』だけなんだと突き付けられる現実。
それから三ヶ月後、先生の言った通り私の体は全ての物を受け付けなくなった。
食べ物も飲み物も摂取できないでいる私の腕に針が刺されている。
あの日以降、先生は毎日のように問診してくれた。
頼んでもいないし、お金だって渡していないのに。
今だってこうして点滴を私にしている。
「先生……何故、ここまでしてくれるんですか?」
「命あるまでアンタは俺の患者だ。なら、最後まで診るのが医者だろうが」
言葉は粗暴なのに優しさを感じて、私は口元に笑みを浮かべた。
母の連れ子だった私は新しい父親から嫌われ、そんな私を母も邪魔に思うようになった。
大人になって家を出たあとは、連絡すらとっていない。
最初に診てもらった病院では両親への連絡が必要だと言われ電話番号を伝えたけど、かけたナースの人の話では「本人に任せます」と言われて切られたとか。
娘が死ぬと言われているのにその反応。
期待なんてしてなかったけど、私にはそばにいてくれる人は誰もいないんだと思った。
なのに不思議。
先生は問診に来てるだけなのに安心できた。
弱っていく恐怖。
死にゆく恐怖。
その全てが先生のいるときだけは消えてしまう。
「じゃあ、また明日来るからな」
そう言い去ろうとする先生の白衣の裾を、弱々しい手で掴んだ。
いつ死ぬかわからない。
一人の時に死ぬのはやっぱり怖くて、誰かにいてほしくて。
声すら失った私の瞳からは涙が溢れだす。
ただ一言「行かないで」そう言いたいのに、私の声は言葉にならない。
なのに先生は、まるで私の言葉がわかるようにベッドの横に置いてある椅子に腰を下ろすと、私の髪を撫でた。
優しい手の動きに瞼を閉じる。
私は、一人じゃなくなった。
翌日。
息を引き取った女性の葬儀はひっそりと終わり、参列した先生は病院に戻りネクタイを緩めるとカルテに書き込む。
「前回の患者のデータを元に作った点滴だったが、予定より伸びた寿命は一月か」
この街には珍しい小さな病院。
そこの先生は、来た患者を追い返す。
その理由は、ある特定の病気の患者しか診ないからだとか──。
《完》
この街では珍しい小さな病院。
先生の腕は確かで、私は思い切って診察をしてもらった。
ここが最後の希望。
でも結果は何処の病院とも同じ原因不明。
最初は食欲がなくなり、食べる量が減った。
大きな病院で処方された薬も効果はなく、先生は匙を投げる。
そんなある時思い出したのがこの病院。
職場の人が話しているのを聞いただけだが、この街にある小さな病院。
そこの先生は全ての病気を治してしまう。
なのに患者の入りがないのは、先生が患者を選んでいるからだと噂されていた。
可愛い人しか見ないとか、実は無免許医だとか。
私はすがる思いで来た。
もしかしたら診察すらされずに追い返されるんじゃないかと思っていたのに、すんなり中へ通されて検査を受けた。
でも、その結果が他と同じでは何の意味もない。
「三ヶ月でアンタの体は全ての食べ物や飲み物を拒絶する」
「そんな……」
その後は体力も落ち、動くことすら難しくなるだろうと言われ、私は拳をギュッと握りしめる。
「本当に……本当に治す方法はないんですか!? 先生は凄いお医者様なのでしょう?」
「俺が診てきた患者で似た症状の人物がいた。唯一俺が救えなかった患者だ」
私は涙をポロポロと流した。
もう私にあるのは『死』だけなんだと突き付けられる現実。
それから三ヶ月後、先生の言った通り私の体は全ての物を受け付けなくなった。
食べ物も飲み物も摂取できないでいる私の腕に針が刺されている。
あの日以降、先生は毎日のように問診してくれた。
頼んでもいないし、お金だって渡していないのに。
今だってこうして点滴を私にしている。
「先生……何故、ここまでしてくれるんですか?」
「命あるまでアンタは俺の患者だ。なら、最後まで診るのが医者だろうが」
言葉は粗暴なのに優しさを感じて、私は口元に笑みを浮かべた。
母の連れ子だった私は新しい父親から嫌われ、そんな私を母も邪魔に思うようになった。
大人になって家を出たあとは、連絡すらとっていない。
最初に診てもらった病院では両親への連絡が必要だと言われ電話番号を伝えたけど、かけたナースの人の話では「本人に任せます」と言われて切られたとか。
娘が死ぬと言われているのにその反応。
期待なんてしてなかったけど、私にはそばにいてくれる人は誰もいないんだと思った。
なのに不思議。
先生は問診に来てるだけなのに安心できた。
弱っていく恐怖。
死にゆく恐怖。
その全てが先生のいるときだけは消えてしまう。
「じゃあ、また明日来るからな」
そう言い去ろうとする先生の白衣の裾を、弱々しい手で掴んだ。
いつ死ぬかわからない。
一人の時に死ぬのはやっぱり怖くて、誰かにいてほしくて。
声すら失った私の瞳からは涙が溢れだす。
ただ一言「行かないで」そう言いたいのに、私の声は言葉にならない。
なのに先生は、まるで私の言葉がわかるようにベッドの横に置いてある椅子に腰を下ろすと、私の髪を撫でた。
優しい手の動きに瞼を閉じる。
私は、一人じゃなくなった。
翌日。
息を引き取った女性の葬儀はひっそりと終わり、参列した先生は病院に戻りネクタイを緩めるとカルテに書き込む。
「前回の患者のデータを元に作った点滴だったが、予定より伸びた寿命は一月か」
この街には珍しい小さな病院。
そこの先生は、来た患者を追い返す。
その理由は、ある特定の病気の患者しか診ないからだとか──。
《完》
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