99 / 101
名前の無い物語/テーマ:道
しおりを挟む
悪魔、魔女、それは空想上の存在にすぎないが、真実は違った。
今から遥か昔、悪魔や魔女は存在していた。
不思議な力、今で言うところの魔法が使えた子供は地球に生まれた人間。
その子こそが魔女誕生の始まり。
彼女がまだ赤子だった頃、力の制御などできるはずもなく、突然歪んだ空間から人間ではない異形の者が現れた。
後に悪魔と呼ばれるその異形は、小さく幼い赤子に愛情を抱き大切に扱った。
赤子の両親も最初は人間と異なる姿に驚き震えたが、自分の子供に接する姿を見るうちに無害だと理解する。
だが、そう思わない者もいた。
人は自分と異なるものを恐れる。
まだ幼く小さな赤子だからと警戒していなかった村人は、その子が呼び出した異形とその子自身の力に恐怖を覚えた。
「魔女狩りだ」
松明を持った村人達は、赤子の家に火を放つ。
これで村の危険は去ったと喜ぶ人々。
小さな赤子を腕に抱き、空から炎を見下ろす異形。
「両親の分まで私がアナタの面倒を見よう」
異形の指が赤子の額に触れると、ふわりと光を放ち歪む空間。
魔界に続く道へと消えていくその背に誰も気づかない。
その後、異形は赤子の親代わりとなり育て続けた。
年のとり方が違う異形とは異なり、日に日に成長していく赤子はあっという間に十になるが真実はまだ知らない。
この子にとっては魔界が自分の生まれた世界で異形が自分の親。
「私には名前はないの?」
同じ年頃、といっても相手は悪魔のため遥かに歳上なのだが、どうやら自分に名前がないことを不思議に思ったらしい。
その成長を嬉しいと思う反面、真実を話す日が近づいてきているのだと感じ異形の胸はキュッと締め付けられる。
「名前ならあるだろう」
「赤子は名前じゃないって言われたよ」
どうしたものかと悩んだとき、今人間界で特殊な者が生まれ名前がつけられていることを思い出す。
「魔女……」
「魔女?」
聞いた話では、この赤子と同じような力を持って生まれた子が今の人間界では何人かいるらしく、その者達を指す言葉らしい。
流石にこれは駄目かと思った異形だったが、キラキラとした瞳が気に入ったことを主張している。
「わーい! 私は魔女ー。じゃあ、アナタは?」
「私か? 私は……悪魔」
魔女と出会うまで、一人孤独に生きてきた異形に名前などない。
悪魔という言葉も魔界の住人のことを指すものだが、二人には元々名前などないのだから呼び合うのにわかる言葉があればそれで十分。
そう思っていた悪魔だったが「悪魔、悪魔! 悪魔大好き」と言った魔女の言葉が胸に染み込むのはなぜなのか。
魔女には両親がいたから名前があったのかもしれない。
それでも、適当につけた「悪魔」と「魔女」の名を嬉しそうに呼ぶ度に心がポカポカとする。
これも、魔女が使う魔法なのかもしれない。
真実を話したとき、魔女はどうするのか。
もし人間界に戻ると言ったら悪魔はどうするのか。
魔女が決めた選択なら、きっとなんであれそれを受け入れるだろう。
彼女が道に迷うことがないように、泣くことがないように、側で見守りながらいつか来るその時を待つ。
《完》
今から遥か昔、悪魔や魔女は存在していた。
不思議な力、今で言うところの魔法が使えた子供は地球に生まれた人間。
その子こそが魔女誕生の始まり。
彼女がまだ赤子だった頃、力の制御などできるはずもなく、突然歪んだ空間から人間ではない異形の者が現れた。
後に悪魔と呼ばれるその異形は、小さく幼い赤子に愛情を抱き大切に扱った。
赤子の両親も最初は人間と異なる姿に驚き震えたが、自分の子供に接する姿を見るうちに無害だと理解する。
だが、そう思わない者もいた。
人は自分と異なるものを恐れる。
まだ幼く小さな赤子だからと警戒していなかった村人は、その子が呼び出した異形とその子自身の力に恐怖を覚えた。
「魔女狩りだ」
松明を持った村人達は、赤子の家に火を放つ。
これで村の危険は去ったと喜ぶ人々。
小さな赤子を腕に抱き、空から炎を見下ろす異形。
「両親の分まで私がアナタの面倒を見よう」
異形の指が赤子の額に触れると、ふわりと光を放ち歪む空間。
魔界に続く道へと消えていくその背に誰も気づかない。
その後、異形は赤子の親代わりとなり育て続けた。
年のとり方が違う異形とは異なり、日に日に成長していく赤子はあっという間に十になるが真実はまだ知らない。
この子にとっては魔界が自分の生まれた世界で異形が自分の親。
「私には名前はないの?」
同じ年頃、といっても相手は悪魔のため遥かに歳上なのだが、どうやら自分に名前がないことを不思議に思ったらしい。
その成長を嬉しいと思う反面、真実を話す日が近づいてきているのだと感じ異形の胸はキュッと締め付けられる。
「名前ならあるだろう」
「赤子は名前じゃないって言われたよ」
どうしたものかと悩んだとき、今人間界で特殊な者が生まれ名前がつけられていることを思い出す。
「魔女……」
「魔女?」
聞いた話では、この赤子と同じような力を持って生まれた子が今の人間界では何人かいるらしく、その者達を指す言葉らしい。
流石にこれは駄目かと思った異形だったが、キラキラとした瞳が気に入ったことを主張している。
「わーい! 私は魔女ー。じゃあ、アナタは?」
「私か? 私は……悪魔」
魔女と出会うまで、一人孤独に生きてきた異形に名前などない。
悪魔という言葉も魔界の住人のことを指すものだが、二人には元々名前などないのだから呼び合うのにわかる言葉があればそれで十分。
そう思っていた悪魔だったが「悪魔、悪魔! 悪魔大好き」と言った魔女の言葉が胸に染み込むのはなぜなのか。
魔女には両親がいたから名前があったのかもしれない。
それでも、適当につけた「悪魔」と「魔女」の名を嬉しそうに呼ぶ度に心がポカポカとする。
これも、魔女が使う魔法なのかもしれない。
真実を話したとき、魔女はどうするのか。
もし人間界に戻ると言ったら悪魔はどうするのか。
魔女が決めた選択なら、きっとなんであれそれを受け入れるだろう。
彼女が道に迷うことがないように、泣くことがないように、側で見守りながらいつか来るその時を待つ。
《完》
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ウインタータイム ~恋い焦がれて、その後~
さとう涼
恋愛
カレに愛されている間だけ、
自分が特別な存在だと錯覚できる……
◇◇◇
『恋い焦がれて』の4年後のお話(短編)です。
主人公は大学生→社会人となりました!
※先に『恋い焦がれて』をお読みください。
※1話目から『恋い焦がれて』のネタバレになっておりますのでご注意ください!
※女性視点・男性視点の交互に話が進みます
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる