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目覚めるとそこは/テーマ:目覚めるとそこには……。
2 目覚めるとそこは
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「やっぱり、迷惑、ですよね……」
「そんなことはないぞ。あやつも反対をせぬところを見ると、納得したのだろう。それよりもだ、あの口煩い幸村の姿は傑作だったな」
そう言いながら再び笑い出す男だが、今陽菜の頭の中では、本当に帰れるのかという不安で一杯だった。
知らない場所に可笑しな町や人達。
ここに来る間に通った町では、店で簪や着物が売られていた。
飾りも何もなかったため、お祭りというわけでもないというのに、回りは皆着物を着た人ばかり。
一体自分はどうしてこんな事になっているのかずっと考えてはいたのだが、散歩に出てからの記憶は一切無い。
そんなことを考え暗い表情になっていると、男の声が聞こえ顔を上げた。
「先ずは風呂に入るといい。着替えはこちらで用意させよう」
「ありがとうございます。でも、そこまでしていただいては」
「なに、遠慮はいらん。歩き疲れて汗もかいたであろうからな、ゆっくり体を洗い流すとよい」
自分の着ている物を見ると、目を覚ました際に地面に倒れていたせいで、服は泥で汚れている。
それに、ここまでの距離はなかなかに長かったため、男の言う通り汗もかいている。
このままの状態でいる方のが失礼だと思った陽菜は、男の言葉に甘えさせてもらうことにし、男が呼んだ女中に案内されお風呂へと向かう。
「こちらの手拭いをお使いくださいませ。着替えの着物はこちらに準備しておりますので」
「はい、ありがとうございます」
女中がいなくなると、陽菜はお風呂へと入る。
だが、そこにはシャンプーやボディソープすら見当たらない。
置き忘れたのだろうかと思ったが、この格好ではお風呂場から出ることもできず、仕方なく女中からいただいた手拭いで擦る様に洗う。
だが、シャンプーやボディソープを使わないで洗うというのは、なんだか汚れが落ちていないような気がし、何度も綺麗に洗い流した。
早くおばあちゃんの家に帰る方法や、なぜこんな事になったのかを思い出すためにも、陽菜は洗い終えて直ぐにお風呂を上がる。
用意された浴衣に着替え脱衣女から出ると、そこには先程の女中が立っていた。
「ご案内致します」
それだけ言うと、女中は静かに歩き出し、そのあとを陽菜も着いていく。
少し歩いて着いた部屋の前で女中が止まると、女中は一言、お連れ致しました、と襖越しに声をかけた。
「入るが良い」
男の声が聞こえると、女中は、どうぞお入りくださいませ、と陽菜を促す。
「失礼します」
言われるままに襖を開け中へと入ると、そこには、陽菜を連れてきた男、そして、城で最初に会った男の姿があった。
「お主が着ていた物も似合っておるが、着物姿も捨てがたいな」
「お舘様!」
「そう怒鳴るでない。我は本心を言ったまでのことだ」
嬉しいやら恥ずかしいやらで、陽菜は頬をほんのり色づかせ顔を伏せそうになってしまう。
「お主も座るがいい。夕餉の準備は出来ておるからな」
そう言われ、用意されていた料理の前に座るが、少し離れた横には、陽菜を助けてくれた男、そして前には、城で最初に会った男が座っている。
皆揃ったところで夕食は始まるが、前に座る男は一切陽菜を見ないまま夕食を食べている。
もしかしたら、急に見ず知らずの女が来たため嫌われているのかもしれない。
それに比べてもう一人の男は、先程からずっと陽菜を見つめている。
「あの、まだお名前を伺っていなかったのですが」
耐えきれなくなった陽菜は、まだ名前を聞いていなかったことを思い出し尋ねると、先程までこちらを見ようともしなかった男が立ち上がると、声を大きくして口にした。
「お舘様をしらないのですか!?」
「ご、ごめんなさい……」
あまりの迫力につい謝ってしまったが、そんなに有名ということは、芸能人なのかもしれないと、自分の失礼な発言にシュンとしてしまう。
「幸村、そう怒らずとも良い」
男の一言で陽菜に視線を向けると、その表情が暗いものになり落ち込んでいるのがわかる。
「申し訳有りません」
「いえ、私こそ失礼なことを言ってしまって」
不安げであり悲しげなその表情に、男の方まで眉を寄せてしまう。
すると、パンツと手を叩く音が聞こえ、二人が顔を上げる。
「我は武田 信玄、そして、お主の前に座るのが、我が一番信頼のおける家臣である真田 幸村だ」
「武田さんに真田さんですね」
「信玄様と呼ばぬか!」
「あはははッ! 良い。武田さんなどと呼ぶものは初めてだ。陽菜、お主には、そう呼ぶことを許そう」
お舘様がそう仰るのでしたらと幸村が頷き、それから夕食を済ませると、信玄が本題を話始めた。
先ずは、事情を知らない幸村に信玄は説明するが、幸村もそれだけではわからないらしく考え出す。
「他に何か覚えていることなどはありませんか?」
「ずっと考えてはいるのですが思い出せず……。すみません」
「まぁ良い。無理に思い出さずとも、記憶とは突然思い出すものだ」
信玄の優しい言葉に、不安な気持ちが少し休まるのを感じていると、今日はもう遅いため眠ることとなった。
何かを思い出すまで間は、甲斐と呼ばれるこの国で過ごすことが話で決まり、しばらくこの城でお世話になることになりそうだ。
「こちらが、この甲斐にいる間の貴女の部屋となります」
「ありがとうございます」
「では、お休みなさいませ」
部屋まで案内してくれた幸村は、それだけ言い残すと、一度も陽菜を見ることはなく去ろうとする。
突然現れどこの誰かもわからない陽菜は、きっと幸村にとって邪魔な存在に違いない。
だが、それでも、こうして部屋まで案内してくれた。
例えそれが信玄に頼まれたからだとしても、少しでも仲良くなれたら、などと考えてしまい、ついその背に声をかけてしまう。
「佐々村 陽菜です」
振り返った幸村は、ようやくその瞳に陽菜をうつす。
「私の名前です。まだ名乗っていませんでしたので」
ニコリと笑みを浮かべると、幸村は顔を耳まで真っ赤に染め、早足で去ってしまった。
「また怒らせちゃったかな……」
一体どうなるのかわからないこの状況、それはきっと、また目が覚めたら変わっているに違いない。
そうでなくては困ると思いながら、布団に入ると瞼を閉じた。
《完》
「そんなことはないぞ。あやつも反対をせぬところを見ると、納得したのだろう。それよりもだ、あの口煩い幸村の姿は傑作だったな」
そう言いながら再び笑い出す男だが、今陽菜の頭の中では、本当に帰れるのかという不安で一杯だった。
知らない場所に可笑しな町や人達。
ここに来る間に通った町では、店で簪や着物が売られていた。
飾りも何もなかったため、お祭りというわけでもないというのに、回りは皆着物を着た人ばかり。
一体自分はどうしてこんな事になっているのかずっと考えてはいたのだが、散歩に出てからの記憶は一切無い。
そんなことを考え暗い表情になっていると、男の声が聞こえ顔を上げた。
「先ずは風呂に入るといい。着替えはこちらで用意させよう」
「ありがとうございます。でも、そこまでしていただいては」
「なに、遠慮はいらん。歩き疲れて汗もかいたであろうからな、ゆっくり体を洗い流すとよい」
自分の着ている物を見ると、目を覚ました際に地面に倒れていたせいで、服は泥で汚れている。
それに、ここまでの距離はなかなかに長かったため、男の言う通り汗もかいている。
このままの状態でいる方のが失礼だと思った陽菜は、男の言葉に甘えさせてもらうことにし、男が呼んだ女中に案内されお風呂へと向かう。
「こちらの手拭いをお使いくださいませ。着替えの着物はこちらに準備しておりますので」
「はい、ありがとうございます」
女中がいなくなると、陽菜はお風呂へと入る。
だが、そこにはシャンプーやボディソープすら見当たらない。
置き忘れたのだろうかと思ったが、この格好ではお風呂場から出ることもできず、仕方なく女中からいただいた手拭いで擦る様に洗う。
だが、シャンプーやボディソープを使わないで洗うというのは、なんだか汚れが落ちていないような気がし、何度も綺麗に洗い流した。
早くおばあちゃんの家に帰る方法や、なぜこんな事になったのかを思い出すためにも、陽菜は洗い終えて直ぐにお風呂を上がる。
用意された浴衣に着替え脱衣女から出ると、そこには先程の女中が立っていた。
「ご案内致します」
それだけ言うと、女中は静かに歩き出し、そのあとを陽菜も着いていく。
少し歩いて着いた部屋の前で女中が止まると、女中は一言、お連れ致しました、と襖越しに声をかけた。
「入るが良い」
男の声が聞こえると、女中は、どうぞお入りくださいませ、と陽菜を促す。
「失礼します」
言われるままに襖を開け中へと入ると、そこには、陽菜を連れてきた男、そして、城で最初に会った男の姿があった。
「お主が着ていた物も似合っておるが、着物姿も捨てがたいな」
「お舘様!」
「そう怒鳴るでない。我は本心を言ったまでのことだ」
嬉しいやら恥ずかしいやらで、陽菜は頬をほんのり色づかせ顔を伏せそうになってしまう。
「お主も座るがいい。夕餉の準備は出来ておるからな」
そう言われ、用意されていた料理の前に座るが、少し離れた横には、陽菜を助けてくれた男、そして前には、城で最初に会った男が座っている。
皆揃ったところで夕食は始まるが、前に座る男は一切陽菜を見ないまま夕食を食べている。
もしかしたら、急に見ず知らずの女が来たため嫌われているのかもしれない。
それに比べてもう一人の男は、先程からずっと陽菜を見つめている。
「あの、まだお名前を伺っていなかったのですが」
耐えきれなくなった陽菜は、まだ名前を聞いていなかったことを思い出し尋ねると、先程までこちらを見ようともしなかった男が立ち上がると、声を大きくして口にした。
「お舘様をしらないのですか!?」
「ご、ごめんなさい……」
あまりの迫力につい謝ってしまったが、そんなに有名ということは、芸能人なのかもしれないと、自分の失礼な発言にシュンとしてしまう。
「幸村、そう怒らずとも良い」
男の一言で陽菜に視線を向けると、その表情が暗いものになり落ち込んでいるのがわかる。
「申し訳有りません」
「いえ、私こそ失礼なことを言ってしまって」
不安げであり悲しげなその表情に、男の方まで眉を寄せてしまう。
すると、パンツと手を叩く音が聞こえ、二人が顔を上げる。
「我は武田 信玄、そして、お主の前に座るのが、我が一番信頼のおける家臣である真田 幸村だ」
「武田さんに真田さんですね」
「信玄様と呼ばぬか!」
「あはははッ! 良い。武田さんなどと呼ぶものは初めてだ。陽菜、お主には、そう呼ぶことを許そう」
お舘様がそう仰るのでしたらと幸村が頷き、それから夕食を済ませると、信玄が本題を話始めた。
先ずは、事情を知らない幸村に信玄は説明するが、幸村もそれだけではわからないらしく考え出す。
「他に何か覚えていることなどはありませんか?」
「ずっと考えてはいるのですが思い出せず……。すみません」
「まぁ良い。無理に思い出さずとも、記憶とは突然思い出すものだ」
信玄の優しい言葉に、不安な気持ちが少し休まるのを感じていると、今日はもう遅いため眠ることとなった。
何かを思い出すまで間は、甲斐と呼ばれるこの国で過ごすことが話で決まり、しばらくこの城でお世話になることになりそうだ。
「こちらが、この甲斐にいる間の貴女の部屋となります」
「ありがとうございます」
「では、お休みなさいませ」
部屋まで案内してくれた幸村は、それだけ言い残すと、一度も陽菜を見ることはなく去ろうとする。
突然現れどこの誰かもわからない陽菜は、きっと幸村にとって邪魔な存在に違いない。
だが、それでも、こうして部屋まで案内してくれた。
例えそれが信玄に頼まれたからだとしても、少しでも仲良くなれたら、などと考えてしまい、ついその背に声をかけてしまう。
「佐々村 陽菜です」
振り返った幸村は、ようやくその瞳に陽菜をうつす。
「私の名前です。まだ名乗っていませんでしたので」
ニコリと笑みを浮かべると、幸村は顔を耳まで真っ赤に染め、早足で去ってしまった。
「また怒らせちゃったかな……」
一体どうなるのかわからないこの状況、それはきっと、また目が覚めたら変わっているに違いない。
そうでなくては困ると思いながら、布団に入ると瞼を閉じた。
《完》
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