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契約リング◆R18
CASE1
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ある日、足首に薄いグレーの色をした何かの跡がついていた。
「何だろう、これ?」
不思議なことに、リングのように私の足首を一周している。
最初は気になっていたのだが、とくに痛みもないため忘れかけていたある日、足首の跡がなぜか濃くなっていることに気づく。
「また濃くなってる……」
日に日に濃くなってくその跡は、とうとうハッキリとした黒になっていた。
一体この跡はなんなんだろうと手を伸ばし、リングに触れた瞬間、頭の中で誰かの声が響く。
〝契約を結んだぞ〟
部屋をキョロキョロと見回すが誰もおらず、気のせいだと思い眠りにつく。
しばらくして肌寒さを感じ深夜に目を覚ますと、何故か閉めてあったはずのベランダが空いており、カーテンがゆらゆらと揺れている。
ベッドから降りベランダの扉を閉めようと近づくと、カーテンの後ろに人影のようなものがあることに気づき立ち止まる。
「誰……?」
「初めまして、お嬢さん」
カーテンの後ろから現れたのは、背中から大きな黒い羽を広げている男の姿だった。
男は月明かりに照らされ、その周りには黒い羽がヒラヒラと舞い落ち、こんな状況だというのにあまりにも幻想的な光景に目を奪われてしまう。
しばらくしてハッと我に返ると、一体目の前にいる人物が何者なのか知るために、恐る恐る問いかける。
「貴方は誰? 人間、なの……?」
「僕は悪魔の輸魔。お嬢さんは僕と契約を結んだんだよ」
契約という言葉、そしてこの声。
どこかで聞いたような声音に、足首のリングに触れたときのことを思い出す。
あの時私の頭の中に聞こえた『契約を結んだぞ』という言葉。
その時の声は輸魔と名乗る悪魔と同じもの。
「さっきの声って貴方だったの?」
「思い出してくれたみたいだね」
「思い出したことは思い出したけど、一体契約ってなんなの?」
ただリングのような跡に触れただけで、契約なんてした覚えもないし、なんの契約かさえわからない。
そんな私の疑問に笑みを浮かべると、輸魔は口を開く。
「悪魔との契約リングに触れたことにより、お嬢さんの魂は僕が頂くことを契約したんだよ」
「それって、私は貴方に殺されるってこと!?」
「違うよ。お嬢さんが死んだ後、お嬢さんの魂を僕が貰えるっていう予約みたいなものだよ」
輸魔はニコリと笑みを浮かべながら答えるが、私としては死んだ後だとしても笑えない話だ。
「納得いかないわ」
「でも契約は契約だからね」
そう言うと輸魔は、契約リングのことを話し始める。
そもそも契約リングは、人の目には見えないものらしく、見える者だけが触れることができ、触れた人間は悪魔と契約を結んだことになる。
「お嬢さんと同じように悪魔と契約した人間は皆、今のお嬢さんみたいな反応だったよ」
「そりゃそうでしょうね。そもそも、悪魔に魂をあげたらどうなるの?」
「生まれ変われないんだよ。悪魔と契約を結んだ人間の魂は死んだ後悪魔に食べられて消滅する。だから、生まれ変わることができなくなるんだ」
死神は、寿命が尽きる人の元へ行き、その魂を狩る。
そしてよい行いをした人間の魂だけを天使は受け取り天界へと連れて行く。
これだと魂を食料とする悪魔の分は無くなってしまうため、そこで決められたのが契約リング。
だが、リングが見える人間はなかなかおらず、そのため悪魔が食料を見つけるのは困難。
そもそもリングは悪魔が人間につけるのだが、その人間が必ずしも見えるかは悪魔にもわからない。
そして人間が契約リングを見れたとしても、濃くなったリングに1日以内に触れなければ契約にはならない。
まず1日目で薄く跡が出始め、段々と濃くなり、真っ黒になるのが一週間目の朝だ。
その最後の1日の間にリングに触れなかった場合は契約は結ばれず、跡は消えてしまう。
「それで私は、その契約リングの最終日に触れたって訳ね」
「うん。そんなガッカリしないでよ。お嬢さんの魂は僕が美味しくいただくからさ」
天使だとか死神だとか悪魔だとか、ファンタジー要素が濃すぎて現実感を全く感じられずにいるが、目の前にいるのが人間でないことは確かだ。
「これって本物……?」
輸魔の背後へと回ると、背中に生えている羽をまじまじと見つめ問いかける。
「勿論本物だよ」
「そんな笑顔で言われても」
やはり悪魔と言うのは本当のようだ。
なら、今までの話も本当のことであり、死んだ後私の魂は食べられてしまう。
「いいよ、私の魂あげる。死んだ後なんてどうなるかわからないんだし」
「軽いね」
「あんたさっきまで私より軽かったわよね」
悪魔と契約してどうなろうが、私の日々はなにも変わらない。
死んだ後の話なんて、最初から自分にわかるはずがないのだからと、考えることを放棄する。
「で、悪魔は契約した後どうするのよ?」
「どうもしないよ。ただ、君から見えないところで命が尽きるのを待つだけさ」
そう言いながら口角を吊り上げている輸魔の顔は楽しそうで、私はそれを怖く感じた。
「じゃあ、私は眠るね」
次に私が輸魔と会うのは死んだ後、それも、自分が魂の姿となったときだ。
自分が死ぬのはいつになるかもわからないのに、長い時間輸魔は一人私を監視し続ける。
悪魔にとって人間の寿命は短く、そして、寿命が来る前に亡くなる者も多い。
そんな人間を見て、悪魔は何を思い何を感じるのか。
そして、最後のその時がきたら、悪魔は何を思い魂を食べるのだろうか。
人間の自分にはわからないことだが、それはとても悲しいことのように思える。
でもきっと、私の命が尽きたとき、輸魔は悲しい顔一つせず笑顔でこう言うのだろう。
〝いただきます〟
だって、悪魔は残酷な生き物だから。
心に何かを感じたとしても、そのことに気づかず今日も人間の魂を食らう。
それは自分のお腹を満たすためなのか、人間を見ていたいからなのか。
あるいは両方なのかもしれない──。
「何だろう、これ?」
不思議なことに、リングのように私の足首を一周している。
最初は気になっていたのだが、とくに痛みもないため忘れかけていたある日、足首の跡がなぜか濃くなっていることに気づく。
「また濃くなってる……」
日に日に濃くなってくその跡は、とうとうハッキリとした黒になっていた。
一体この跡はなんなんだろうと手を伸ばし、リングに触れた瞬間、頭の中で誰かの声が響く。
〝契約を結んだぞ〟
部屋をキョロキョロと見回すが誰もおらず、気のせいだと思い眠りにつく。
しばらくして肌寒さを感じ深夜に目を覚ますと、何故か閉めてあったはずのベランダが空いており、カーテンがゆらゆらと揺れている。
ベッドから降りベランダの扉を閉めようと近づくと、カーテンの後ろに人影のようなものがあることに気づき立ち止まる。
「誰……?」
「初めまして、お嬢さん」
カーテンの後ろから現れたのは、背中から大きな黒い羽を広げている男の姿だった。
男は月明かりに照らされ、その周りには黒い羽がヒラヒラと舞い落ち、こんな状況だというのにあまりにも幻想的な光景に目を奪われてしまう。
しばらくしてハッと我に返ると、一体目の前にいる人物が何者なのか知るために、恐る恐る問いかける。
「貴方は誰? 人間、なの……?」
「僕は悪魔の輸魔。お嬢さんは僕と契約を結んだんだよ」
契約という言葉、そしてこの声。
どこかで聞いたような声音に、足首のリングに触れたときのことを思い出す。
あの時私の頭の中に聞こえた『契約を結んだぞ』という言葉。
その時の声は輸魔と名乗る悪魔と同じもの。
「さっきの声って貴方だったの?」
「思い出してくれたみたいだね」
「思い出したことは思い出したけど、一体契約ってなんなの?」
ただリングのような跡に触れただけで、契約なんてした覚えもないし、なんの契約かさえわからない。
そんな私の疑問に笑みを浮かべると、輸魔は口を開く。
「悪魔との契約リングに触れたことにより、お嬢さんの魂は僕が頂くことを契約したんだよ」
「それって、私は貴方に殺されるってこと!?」
「違うよ。お嬢さんが死んだ後、お嬢さんの魂を僕が貰えるっていう予約みたいなものだよ」
輸魔はニコリと笑みを浮かべながら答えるが、私としては死んだ後だとしても笑えない話だ。
「納得いかないわ」
「でも契約は契約だからね」
そう言うと輸魔は、契約リングのことを話し始める。
そもそも契約リングは、人の目には見えないものらしく、見える者だけが触れることができ、触れた人間は悪魔と契約を結んだことになる。
「お嬢さんと同じように悪魔と契約した人間は皆、今のお嬢さんみたいな反応だったよ」
「そりゃそうでしょうね。そもそも、悪魔に魂をあげたらどうなるの?」
「生まれ変われないんだよ。悪魔と契約を結んだ人間の魂は死んだ後悪魔に食べられて消滅する。だから、生まれ変わることができなくなるんだ」
死神は、寿命が尽きる人の元へ行き、その魂を狩る。
そしてよい行いをした人間の魂だけを天使は受け取り天界へと連れて行く。
これだと魂を食料とする悪魔の分は無くなってしまうため、そこで決められたのが契約リング。
だが、リングが見える人間はなかなかおらず、そのため悪魔が食料を見つけるのは困難。
そもそもリングは悪魔が人間につけるのだが、その人間が必ずしも見えるかは悪魔にもわからない。
そして人間が契約リングを見れたとしても、濃くなったリングに1日以内に触れなければ契約にはならない。
まず1日目で薄く跡が出始め、段々と濃くなり、真っ黒になるのが一週間目の朝だ。
その最後の1日の間にリングに触れなかった場合は契約は結ばれず、跡は消えてしまう。
「それで私は、その契約リングの最終日に触れたって訳ね」
「うん。そんなガッカリしないでよ。お嬢さんの魂は僕が美味しくいただくからさ」
天使だとか死神だとか悪魔だとか、ファンタジー要素が濃すぎて現実感を全く感じられずにいるが、目の前にいるのが人間でないことは確かだ。
「これって本物……?」
輸魔の背後へと回ると、背中に生えている羽をまじまじと見つめ問いかける。
「勿論本物だよ」
「そんな笑顔で言われても」
やはり悪魔と言うのは本当のようだ。
なら、今までの話も本当のことであり、死んだ後私の魂は食べられてしまう。
「いいよ、私の魂あげる。死んだ後なんてどうなるかわからないんだし」
「軽いね」
「あんたさっきまで私より軽かったわよね」
悪魔と契約してどうなろうが、私の日々はなにも変わらない。
死んだ後の話なんて、最初から自分にわかるはずがないのだからと、考えることを放棄する。
「で、悪魔は契約した後どうするのよ?」
「どうもしないよ。ただ、君から見えないところで命が尽きるのを待つだけさ」
そう言いながら口角を吊り上げている輸魔の顔は楽しそうで、私はそれを怖く感じた。
「じゃあ、私は眠るね」
次に私が輸魔と会うのは死んだ後、それも、自分が魂の姿となったときだ。
自分が死ぬのはいつになるかもわからないのに、長い時間輸魔は一人私を監視し続ける。
悪魔にとって人間の寿命は短く、そして、寿命が来る前に亡くなる者も多い。
そんな人間を見て、悪魔は何を思い何を感じるのか。
そして、最後のその時がきたら、悪魔は何を思い魂を食べるのだろうか。
人間の自分にはわからないことだが、それはとても悲しいことのように思える。
でもきっと、私の命が尽きたとき、輸魔は悲しい顔一つせず笑顔でこう言うのだろう。
〝いただきます〟
だって、悪魔は残酷な生き物だから。
心に何かを感じたとしても、そのことに気づかず今日も人間の魂を食らう。
それは自分のお腹を満たすためなのか、人間を見ていたいからなのか。
あるいは両方なのかもしれない──。
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