1話完結の短編集

月夜

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悪い子には躾を◆R18

1 悪い子には躾を

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 今日はなぎのお見合い当日なのだが、当の本人はというと、着物にすら着替えてもいなかった。



「ちょっと!なんであんたは着替えてないのよ!!」

「お見合いなんてしないっていってるでしょ」



 渚はお見合いなどしないとずっと言っていたのだが、渚の母は勝手にお見合いの話を進めたのだ。

 そのため、母が渚に渡したお見合い写真も、渚は一切見ていない。



「あんたねぇ、25にもなって男経験もないなんて恥ずかしくないの!?お母さんがあんたくらいの年齢には、その辺の男とも手当たり次第」

「あんたこそ恥ずかしくないのかよ……」



 そんな言い合いもあったのだが、結局渚は母に引きずられるようにして無理矢理お見合い場所まで引きずられていく。

 お見合い場所と言っても、場所は渚の家で行われる事になっていたため、どんなに暴れようとも簡単に連れていかれてしまう。



「あんたがイヤがると思って家にしたけど、正解だったわね」

「鬼!!悪魔!!放せぇーッ!!」



 結局そのまま部屋に連れていかれた渚は、着物にも着替えないまま、ムッとした表情で相手が来るのを待つことになった。

 それからしばらくして廊下から話し声が聞こえてくると、お見合い相手が来たのだとわかる。

 仕方なく社会人として礼儀だけはしっかりしておこうと、正座をし身なりを整えた。

 そしてついに襖が開かれると、お見合い相手が部屋へと入ってくる。



「どうぞどうぞ、そちらへお座りください」

「はい、ありがとうございます」



 男が座るまでの間、渚は真っ直ぐに視線を前に向かせていたのだが、男が前に座ると、今まで脚しか見えていなかった男の顔が渚の瞳に映る。

 綺麗な顔立ちにしっかりとスーツを着こなしており、渚よりもかなりの大人でイケメンだ。



「初めまして、私は黒野くろの みおと申します」



 男が自己紹介をする中、渚がぼーっとしていると、隣に座る母に膝を2回ほど軽く叩かれ、渚はハッとする。



「あ、えっと、霧崎きりさき なぎです」

「渚さん、素敵なお名前ですね」



 柔らかな笑みを向けられ、渚の鼓動は高鳴ってしまう。

 この人ほど、スーツに眼鏡が似合う人がいるのだろうかと思うくらいに爽やかな紳士だ。

 最初はお見合いなんてと思っていた渚だが、一瞬にして、この人ならいいかもに変わっていた。



「では、そろそろ失礼させていただきます。今日はありがとうございました」

「いえいえ、何のお構いもできませんで。ほら、貴女も挨拶なさい」

「あ、あの、今日はありがとうございました!」



 澪が帰ってしまった後、渚はずっと澪のことを考えていた。

 また会えたら、なんて考えてしまうが、緊張のあまりに何も話せなかった自分など、ご縁がなかったと連絡があるだけだろうと肩を落とす。



「もう!なんでイケメンが相手だって言わなかったのよ!!」

「何言ってんのよ。あんたが渡したお見合い写真を見てなかっただけでしょうが。まぁ、また次があるわよ」



 母すらも諦めているこの状況だったのだが、翌日かかってきた一本の電話で、渚は人生で一番の幸せを迎えることになった。

 その電話の相手は昨日の見合い相手である澪であり、内容は、明日一緒に出掛けませんかというデートの誘いだったのだ。



「よかったじゃない!あんな良い男逃がすんじゃないわよ!あんたの人生で一度しかないんだから」

「なんか腹立つ言い方だけど、まぁいいわ」



 渚の頭は明日のデートのことで一杯になり、着ていく服にも気合いが入る。

 一体デートは何処に行くのだろうかと、今から期待に胸を膨らませ、長い一日が過ぎると、デート当日の日がやって来た。



「お迎えに来ました。では早速出掛けましょうか」

「はい」



 お昼時、澪が渚の自宅まで迎えに来ると、澪の運転する助手席に渚は座る。

 車を走らせている間、緊張で会話はできない渚だったが、視線は自然と澪へと向いてしまう。



「どうかされましたか?」

「ッ……えっと、どちらに向かわれているのかなと思いまして」



 視線に気づかれてしまい、慌てて誤魔化すように気になっていたことを尋ねる。

 すると澪は、ここですよと言い、車を止め降りると、助手席の扉を開けてくれる。



「どうぞ」

「ありがとうございます」



 こういったところも紳士的であり、ますます渚は澪に牽かれていく。

 そして澪に連れられ入った建物は、映画館だった。

 観るのはデートの定番と言える恋愛映画であり、それも今一番人気の作品だ。



「あれ?お客さん私達だけみたいですね」

「はい、渚さんとのデートですから貸し切りにしました」

「え?」



 驚く渚を気にすることなく澪は、一番映画を観やすい席へと渚を案内する。

 映画館を貸し切りにしてしまうなんて、一体何者なのだろうかと考えていると、映画の上映が始まり、渚は映画に集中する。

 映画が終わった頃には、空は茜色に染まっており、次に向かった先はレストランだった。

 空は茜色から瑠璃色に変わり、一番星がキラキラと輝いている。


 そして店の中へと入ると、またも客は渚と澪の二人だけであり、ここもどうやら貸し切りのようだ。



「とっても素敵な映画でしたね!」

「そうですか、気に入っていただけてよかったです」



 料理を食べながら話すことは、今日の映画についてだった。

 澪は柔らかい笑みを浮かべているというのに、何故か楽しそうに見えず、渚は違和感を覚える。

 だが、その後の会話も普通に交わし、気のせいだったのだろうかと、渚は気にせずにいた。


 レストランでの食事も終わった頃、そろそろお別れの時間となり、車に乗った時だった。

 澪の携帯が鳴ると、少し失礼しますと渚に伝え、澪は車を降り電話をする。

 車の中から見ていると、何やら揉めているように見える。
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