1話完結の短編集

月夜

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恋を教えてお狐様

2 恋を教えてお狐様

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「アンタ神様なんでしょ? 神社から離れていいわけ」

「ああ。神様っつっても、神社にずっといないといけない訳じゃねぇし、それに願いを叶えんのが神様の仕事だからな」



 これは何を言っても帰るきはなさそうだと確信し、追い返すことを諦めると、私は宿題を済ませそのままベッドへ横になる。

 お狐様の声が聞こえるが、瞼を閉じたまま開けようとはしない。
 早く眠りにつき夢だったことにしたい。


 それからどのくらいたったのか。
 いつの間にか眠っていたらしく、目覚ましの音で目を覚ます。

 眠たい目を擦りながら目覚ましを止め瞼を開くと、最初に目に飛び込んできたのは天井ではなく天井に背を向け私を見下ろしているお狐様の姿だった。



「うわッ!?」

「朝から元気な奴だな」



 平然と宙に浮きながらお狐様は言うが、普通の人間なのだからこれが一般的な反応だ。

 そしてこれで、昨日のことは現実なんだと受け入れるしかなくなった。

 私は深い溜息を吐くとベッドから起き上がり、パジャマのボタンに手をかける。

 だがその前に、今も自分へと視線を向けているお狐様の存在があることを思い出し、一度ボタンから手を離すと、お狐様へと視線を向ける。



「後ろ向いてて」

「何でだよ」

「いくら神様でも、肌を見られるなんて嫌に決まってんでしょ」

「めんどくせえな」



 お狐様が後ろを向いたのを確認するし、ボタンへと手をかけ制服に着替える。



「じゃあ、私は学校行くけど、アンタはここで大人しくしててよね」



 それだけお狐様に伝えると学校へと向かう。
 アイツのせいで今日は少し家を出るのが遅れたため、少し足って学校へと向かう。

 せめて学校では一人で過ごしたい。
 そんな願いは叶うことはなく、学校に着くと私を待っていたのは、友達との恋バナトークだった。



「でさ、ソイツったらどうしたと思う?」

「何々?」

「突然私を抱き締めてきたんだって」

「嘘、何それ~」



 いつものことなのだが、私にとってこの時間が一番退屈なものである。

 恋愛どころか好きな人さえできたことのない私が話に入れるはずがない。



「付き合ってもないのに有り得ないよね。色未しきみもそう思わない?」

「え? あ、うん。そうだね」



 突然同意を求められ、それとなく頷き返事をするが、正直よくわからないのが本音だ。
 そのためいつも二人の話を聞いて、こんな風に返事を返すだけの毎日。

 私の気持ちなど誰にわかるわけもなく、話は更に続けられ、わからないながらも恋愛には興味があるため話だけは聞いていた。

 だが、話を聞いていてもわかるはずもなく、恋人がいたら私もこんな感じのことをするのだろうかと考えてしまう。

 男の人に抱きつかれるなんて想像しただけで頬に熱が宿ってしまうのに、実際にされたりなんてしたらどうなってしまうのか想像することさえ恥ずかしい。
 でも、恋人がいたらそんな恥ずかしいことでさえしたいと思ってしまうのだろう。



「でね、私昨日彼氏と初キスしちゃったんだ」



 そんなことを考えていると、キスという言葉が耳に届き、昨日のことを思いだしビクッと肩が跳ね上がる。

 私のファーストキスはお狐様とはいえ、もうなくなってしまったことを思い出し肩を落とす。

 大切にしていたものだけに、好きでもない人、いや、好きでもない神様としてしまったことに今更ながら落ち込んでしまう。



「どうしたの色未? あっ! もしかして、キスしたことあるとか?」



 図星をつかれわかりやすく反応してしまうと、ニヤニヤとした友達に詰め寄られるが「お狐様と」なんて言えるはずもなく、返事に困っていると、運よく始業ベルが鳴りなんとか助かった。

 そして授業が始まると、さっきのことを考えないように、黒板に視線を向ける。

 ノートに書いていると、書き間違えてしまい消ゴムを取ろうとしたとき、視界の端に見覚えのある人物が映り込む。

 まさかねと思いながら、恐る恐る再び窓へと視線を向けると、ガラス越しにお狐様がニカッと笑みを浮かべている姿が見え、どうやら私の考えは的中したようだ。

 部屋で待ってるように言ったのにと、怒りで伏せていた顔を再び上げると、お狐様は上へと飛んで行ってしまった。

 今すぐにでも教室を飛び出し追いかけたいところだが、授業中のためそうもいかず、授業が終わるともうダッシュで屋上へと向かう。

 すると屋上では、プカプカと優雅に宙を浮くお狐様の姿。



「何でアンタがここにいんのよ」

「昨日言っただろ。24時間365日体制でついててやるって」

「はぁ……もういいわ。だけどね、私の邪魔だけはしないでよね」



 強い口調でお狐様に言うと、私は次の授業が始まるため教室へと戻る。
 すると、教室へと戻ってきた私に同じクラスの拓海たくみくんが声をかけてきた。
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