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眠る乙女は微笑み浮かべ/テーマ:結婚
2 眠る乙女は微笑み浮かべ
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「第三希望、可愛い子。第二希望、美人な子。第一希望、スタイルのええ子や」
「なんや、第一がスタイルかいな」
皆がその男子と先生の言葉に笑っている。
他の男子も「次は俺や」と言い出し読み上げていき、もしかしたらアタシはとんでもなく素直に書いてしまったんじゃないかと気づく。
誰一人として名前を書いてる人はいない。
精々有名人の名前を上げてる子がいるくらいだ。
もしかしたら真才が白紙にしたのは、先生の考えがわかっていたからなのかもしれない。
他の皆もわかっていたみたいだし。
考えてみれば結婚志望なんておかしな話だ。
先生が冗談でしたことなんてすぐにわかったはずなのに、気づかなかった自分が嫌になる。
この学校の人は皆笑い好きなことくらい二年間でわかっていたはずなのに。
そんな後悔が頭を巡っていた時、一人の男子生徒が「真才はなんて書いたん」と言い出し皆の視線が真才に集まる。
アタシは真才が何も書いてないことを知ってるからとくに気にもしていなかったが、何故か真才は黙ったまま。
不思議に思っていると、真才に話をふった男子が真才の机に置いてあった紙を奪った。
するとその男子は笑い出す。
白紙がそんなに面白いんだろうかと思っていると、その男子は紙を表にして皆に見せる。
その紙にアタシも視線を向けると、第一希望だけ書かれていた。
それも、アタシの名前が。
「この希望はオモロすぎるわ! でも、あんまからかうと本気で怒られるで」
そう言った男子生徒の言葉に皆が笑う。
いくらからかうといっても、こんな風に笑いものにされるなんて酷すぎる。
アタシは目頭が熱くなるのをぐっと我慢して、羞恥心に耐えた。
その後、皆が書いた紙は勿論集められることはなく、ただの先生の冗談、生徒の息抜きの笑いとなり終わった。
でもアタシはそれで終わりにはできない。
今までは、ちょっとしたからかいだけだったから許せたが、今回は違う。
冗談でもあんな風に書いて笑いものにして、アタシは本気で怒っていた。
「今日も手作りなんやな。料理だけ見るとお前も女なんやな」
お昼、机にお弁当を広げると、相変わらずトゲのある言葉をかけてくる真才。
いつもなら「料理だけ見るとは余計や」なんてツッコむところだが、今日は無視。
そんなアタシに何度も声をかけてくる真才。
あんなことしといてよくも声をかけられるもんだ。
「何さっきから無視してんねん」
「うっさいわ! うけない漫才師は黙っとりや」
「誰がうけない漫才師や! 俺は右消袮 真才や」
アタシはその後も無視を続けた。
あんな冗談クラスの皆ががうけてもアタシはうけない。
いくらなんでも、やっていいことと悪いことの区別くらいわかるはずだ。
真才がアタシをどれだけ嫌いなのかはわかった。
でもそれなら、何で話しかけてくるのか理解できない。
それから時間は過ぎ、今は放課後。
真才とはあれから口を利いていない。
帰り支度をして教室を出ようとしたとき、背後から真才に呼び止められたが歩みは止めず階段を降りようとすると、突然背後から腕を掴まれそのまま引っ張られた。
「なんで無視してんねん」
階段を前にして、アタシは真才に背を向けたままその手を振り払おうとするけど、強い力で握られた手はビクともしない。
アタシは渋々顔だけを後ろに向けると、ただ一言「放して」とだけ言った。
「俺の質問に答えろや!」
怒っている表情に声。
なんでそれを真才がするのか。
あんなことしておいて無視されるのは嫌なんて、自分勝手だ。
朝のことを思い出しただけで再び怒りが溢れる。
「アタシが、何されても怒らないと思っとるん……?」
そう静かに口にしたアタシの頬には涙が伝っていた。
それに気づいた真才が驚いた表情を浮かべ、アタシの腕を掴んでいた手が緩む。
その瞬間、アタシは階段を駆け下りた。
すでに人は少なくなってきてるけど、泣き顔なんて見られたくなくて手で涙を拭う。
下駄場で靴に履き替えると、逃げるように帰路を走る。
息が限界になったところで立ち止まると、アタシは肩で息をしていた。
その日の夜、私は暗い表情をしていた。
皆や真才にからかわれたりするのはいつもの事。
でも、今回だけは許せない。
お風呂上がり、アタシは鞄から結婚志望の紙を取り出しその名前を見る。
アタシが昨日、一人だけ浮かんだ人物の名前。
その名を指でなぞったとき、スマホが鳴る。
誰だろうかと画面を見ると、真才の名。
一年の頃、最初に仲良くなった時に交換してから一度も表示されることがなかった名前。
まだ何か用があるんだろうか。
しばらく無視していたが、鳴り続ける着信音に渋々出る。
「お前、人の話は最後まで聞けや」
開口一番が謝罪でもなくこれ。
真才が謝るなんて想像すらできないからわかってはいたけど、嫌いなら放っておいてほしい。
アタシ達は好きで三年間一緒のクラスになってるわけじゃないんだから、嫌なら口を利かなければいいだけのこと。
なのにいつも真才は声をかけてくるから、クラスの皆にからかわれる。
全部真才のせいなのに、何でアタシが傷付いたり怒ったりしなくちゃいけないのか。
「お前が怒ってんのってさ、朝のやつなんか……?」
アタシは無言のまま。
それを肯定と受け取った真才は、大きく息を吐き出した。
何でアタシが溜息を吐かれているんだろうかと思っていると、今度は息を大きく吸い込む音が電話の向こうから聞こえる。
「すまん」
「え……?」
思いもしなかった言葉にアタシはつい声が漏れた。
真才が今までに謝ったことなんて一度も無かったから驚きが隠せない。
「ホンマ悪いことした思うとる。でも言えへんかったんや、あの紙に書いたんが冗談やないなんて」
アタシは頭に疑問符を浮かべる。
その言葉は、あの紙に書いた名前が事実であるということ。
「いつもの冗談みたいにしとったら、お前も怒りながらも許してくれる思ってたんや」
頭の理解が追いつかないまま話し続ける真才。
つまり真才は結婚志望がアタシなわけで、それはアタシを好きということ。
いつの間にか謝罪から告白に変わっていたことにようやく理解が追いついて、アタシの顔は熱を帯びる。
いつもからかってきて、犬猿の仲の真才がアタシを好きなんて。
「ありえへん……。真才、アンタ冗談言うのも大概にしいや!! 全ッ然笑えへんわ!!」
「こんな事冗談でいうかドアホ!!」
「誰がアホやねん!」
怒っていた気持ちは何処かへ消えてしまい、いつも通りに会話していたアタシと真才。
いつもの言い合いをして通話を終えたあと、アタシは再び自分の結婚志望に視線を向けた。
そこには、第一希望に埋まっていた右消袮 真才の名前。
アタシが唯一頭に浮かんだ人物。
今日アタシが泣いたり怒ったりしたのは、真才がアタシをあんな風にからかったからでも、あんな事をしておいて平気で話し掛けて来たからでもない。
ただ悲しかった。
真才はアタシの事なんて何とも思ってないんだって。
それで一人拗ねていただけ。
あんな風にからかわれた事より、真才になんとも思われてないことの方がアタシには辛かったから。
アタシは、電話での真才の言葉を思い出し口元を緩める。
電話で話しただけで辛かった気持ちが何処かへ行ってしまうなんて、認めたくないけどやっぱりアタシは真才に恋をしてるみたい。
着信履歴を開いて真才の名前を何度も確認しながら、これは現実なんだと嬉しさを噛み締めて眠りについた。
《完》
「なんや、第一がスタイルかいな」
皆がその男子と先生の言葉に笑っている。
他の男子も「次は俺や」と言い出し読み上げていき、もしかしたらアタシはとんでもなく素直に書いてしまったんじゃないかと気づく。
誰一人として名前を書いてる人はいない。
精々有名人の名前を上げてる子がいるくらいだ。
もしかしたら真才が白紙にしたのは、先生の考えがわかっていたからなのかもしれない。
他の皆もわかっていたみたいだし。
考えてみれば結婚志望なんておかしな話だ。
先生が冗談でしたことなんてすぐにわかったはずなのに、気づかなかった自分が嫌になる。
この学校の人は皆笑い好きなことくらい二年間でわかっていたはずなのに。
そんな後悔が頭を巡っていた時、一人の男子生徒が「真才はなんて書いたん」と言い出し皆の視線が真才に集まる。
アタシは真才が何も書いてないことを知ってるからとくに気にもしていなかったが、何故か真才は黙ったまま。
不思議に思っていると、真才に話をふった男子が真才の机に置いてあった紙を奪った。
するとその男子は笑い出す。
白紙がそんなに面白いんだろうかと思っていると、その男子は紙を表にして皆に見せる。
その紙にアタシも視線を向けると、第一希望だけ書かれていた。
それも、アタシの名前が。
「この希望はオモロすぎるわ! でも、あんまからかうと本気で怒られるで」
そう言った男子生徒の言葉に皆が笑う。
いくらからかうといっても、こんな風に笑いものにされるなんて酷すぎる。
アタシは目頭が熱くなるのをぐっと我慢して、羞恥心に耐えた。
その後、皆が書いた紙は勿論集められることはなく、ただの先生の冗談、生徒の息抜きの笑いとなり終わった。
でもアタシはそれで終わりにはできない。
今までは、ちょっとしたからかいだけだったから許せたが、今回は違う。
冗談でもあんな風に書いて笑いものにして、アタシは本気で怒っていた。
「今日も手作りなんやな。料理だけ見るとお前も女なんやな」
お昼、机にお弁当を広げると、相変わらずトゲのある言葉をかけてくる真才。
いつもなら「料理だけ見るとは余計や」なんてツッコむところだが、今日は無視。
そんなアタシに何度も声をかけてくる真才。
あんなことしといてよくも声をかけられるもんだ。
「何さっきから無視してんねん」
「うっさいわ! うけない漫才師は黙っとりや」
「誰がうけない漫才師や! 俺は右消袮 真才や」
アタシはその後も無視を続けた。
あんな冗談クラスの皆ががうけてもアタシはうけない。
いくらなんでも、やっていいことと悪いことの区別くらいわかるはずだ。
真才がアタシをどれだけ嫌いなのかはわかった。
でもそれなら、何で話しかけてくるのか理解できない。
それから時間は過ぎ、今は放課後。
真才とはあれから口を利いていない。
帰り支度をして教室を出ようとしたとき、背後から真才に呼び止められたが歩みは止めず階段を降りようとすると、突然背後から腕を掴まれそのまま引っ張られた。
「なんで無視してんねん」
階段を前にして、アタシは真才に背を向けたままその手を振り払おうとするけど、強い力で握られた手はビクともしない。
アタシは渋々顔だけを後ろに向けると、ただ一言「放して」とだけ言った。
「俺の質問に答えろや!」
怒っている表情に声。
なんでそれを真才がするのか。
あんなことしておいて無視されるのは嫌なんて、自分勝手だ。
朝のことを思い出しただけで再び怒りが溢れる。
「アタシが、何されても怒らないと思っとるん……?」
そう静かに口にしたアタシの頬には涙が伝っていた。
それに気づいた真才が驚いた表情を浮かべ、アタシの腕を掴んでいた手が緩む。
その瞬間、アタシは階段を駆け下りた。
すでに人は少なくなってきてるけど、泣き顔なんて見られたくなくて手で涙を拭う。
下駄場で靴に履き替えると、逃げるように帰路を走る。
息が限界になったところで立ち止まると、アタシは肩で息をしていた。
その日の夜、私は暗い表情をしていた。
皆や真才にからかわれたりするのはいつもの事。
でも、今回だけは許せない。
お風呂上がり、アタシは鞄から結婚志望の紙を取り出しその名前を見る。
アタシが昨日、一人だけ浮かんだ人物の名前。
その名を指でなぞったとき、スマホが鳴る。
誰だろうかと画面を見ると、真才の名。
一年の頃、最初に仲良くなった時に交換してから一度も表示されることがなかった名前。
まだ何か用があるんだろうか。
しばらく無視していたが、鳴り続ける着信音に渋々出る。
「お前、人の話は最後まで聞けや」
開口一番が謝罪でもなくこれ。
真才が謝るなんて想像すらできないからわかってはいたけど、嫌いなら放っておいてほしい。
アタシ達は好きで三年間一緒のクラスになってるわけじゃないんだから、嫌なら口を利かなければいいだけのこと。
なのにいつも真才は声をかけてくるから、クラスの皆にからかわれる。
全部真才のせいなのに、何でアタシが傷付いたり怒ったりしなくちゃいけないのか。
「お前が怒ってんのってさ、朝のやつなんか……?」
アタシは無言のまま。
それを肯定と受け取った真才は、大きく息を吐き出した。
何でアタシが溜息を吐かれているんだろうかと思っていると、今度は息を大きく吸い込む音が電話の向こうから聞こえる。
「すまん」
「え……?」
思いもしなかった言葉にアタシはつい声が漏れた。
真才が今までに謝ったことなんて一度も無かったから驚きが隠せない。
「ホンマ悪いことした思うとる。でも言えへんかったんや、あの紙に書いたんが冗談やないなんて」
アタシは頭に疑問符を浮かべる。
その言葉は、あの紙に書いた名前が事実であるということ。
「いつもの冗談みたいにしとったら、お前も怒りながらも許してくれる思ってたんや」
頭の理解が追いつかないまま話し続ける真才。
つまり真才は結婚志望がアタシなわけで、それはアタシを好きということ。
いつの間にか謝罪から告白に変わっていたことにようやく理解が追いついて、アタシの顔は熱を帯びる。
いつもからかってきて、犬猿の仲の真才がアタシを好きなんて。
「ありえへん……。真才、アンタ冗談言うのも大概にしいや!! 全ッ然笑えへんわ!!」
「こんな事冗談でいうかドアホ!!」
「誰がアホやねん!」
怒っていた気持ちは何処かへ消えてしまい、いつも通りに会話していたアタシと真才。
いつもの言い合いをして通話を終えたあと、アタシは再び自分の結婚志望に視線を向けた。
そこには、第一希望に埋まっていた右消袮 真才の名前。
アタシが唯一頭に浮かんだ人物。
今日アタシが泣いたり怒ったりしたのは、真才がアタシをあんな風にからかったからでも、あんな事をしておいて平気で話し掛けて来たからでもない。
ただ悲しかった。
真才はアタシの事なんて何とも思ってないんだって。
それで一人拗ねていただけ。
あんな風にからかわれた事より、真才になんとも思われてないことの方がアタシには辛かったから。
アタシは、電話での真才の言葉を思い出し口元を緩める。
電話で話しただけで辛かった気持ちが何処かへ行ってしまうなんて、認めたくないけどやっぱりアタシは真才に恋をしてるみたい。
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