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第六幕 右目と伊達政宗

一 右目と伊達政宗

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翌日になるとすっかり体調も回復し、三成さんにお礼を伝えに怪我人のいる部屋へと向かったのだが、何故か三成さんは私と目を合わせようとしてくれない。



「あの三成さん、どうかされましたか?」

「何でもない」

「でも……」

「俺は怪我人の薬を作らなければいけないので失礼する」




まるで私から逃げるように三成さんは行ってしまい、不思議に思いながらも私は自室へと戻ることにした。


何だか三成さんの顔が赤いように見えたけど、もしかして風邪をうつしちゃったのかな……。


そんなことを考えながら廊下を歩いていると声をかけられ、振り返るとそこには政宗さんが立っていた。



「今暇か?」

「今日は手伝いはまだ頼まれていないので大丈夫ですよ」

「ならついてこい!お前に頼みたいことがある」



私は政宗さんに腕を引っ張っていかれると、向かった先は厨だった。


こんなところに来て私に頼みたいことってなんだろう?



「この前お前が作ったちゃーはん?とか言うやつを作ってみたんだが、味見してくんねぇか?」

「はい!」



そういえば私が初めに来た頃、夕餉を作ったことを思い出した。

あの時、政宗さんが料理を作るって聞いて驚いたのを覚えている。

私は政宗さんが作った炒飯を掬い、ゆっくりと口へ運び食べると、あまりの美味しさにほっぺが落ちそうと言う表現がピッタリだと思った。



「美味しいです!!本当に初めて作られたんですか?」

「ああ。お前に聞いた通りに作ってみたんだが、美味く出来たみたいだな!」

「私の作った炒飯の何倍も美味しくて正直へこみました!」



初めて作ってこんなに美味しいなんて、政宗さん、やっぱり料理をしているだけあって凄い。



「俺は美弥が作ったのが一番だけどな」



私へと視線を向け、ニカッと笑みを見せる政宗さんを見ると、嬉しくて私まで笑みが溢れてしまう。



「そう言ってもらえると嬉しいです!また作りますね」

「今度は俺だけのために頼むぜ!」

「考えておきます」



二人で笑い合い、こんな楽しい時間は久し振りで、何だか政宗さんは不思議な人だなと感じた。

最初に会った時もそうだったけど、何だか明るくて、とても話しやすい雰囲気を纏った人だと感じていた。


そんな政宗さんにも、愛はないのかな……?



「あの、政宗さんって好きな人っていますか?」

「唐突だな。俺のことが気になんのか?」



突然政宗さんは私へと近付き尋ねたため、近い距離に私の鼓動が小さく音を立てた。



「はい。私、皆さんのことをもっと知りたいんです!」

「いいぜ、教えてやるよ俺のこと」



政宗さんは私から離れると、別の場所で話そうと、政宗さんの自室へと二人で向かった。


部屋の中へと入ると、御互い向かい合う形で畳の上へと座り、話の続きを始めた。



「で、俺の好きな奴だったか?そんなん聞いてどうすんだ」

「愛について知りたいんです」



その時、私が愛という言葉を口にした瞬間、一瞬にして部屋の空気が冷たくなり、政宗さんへと視線を向けると、いつもの明るさはなく、とても冷たくて鋭い視線が私へと向けられていた。



「俺に愛を聞いても無駄だ」

「何故、ですか……?」



低く、冷たい声音で言われた言葉に、それ以上触れてはいけないないかがあるように感じた。

私は震えそうになる声でようやく言葉を発すると、政宗さんはゆっくりと口を開いた。



「俺は、父上をこの手で殺したんだ」



え……?


私はこのとき自分の耳を疑った。

政宗さんが父親を殺したなんて私には信じられなかった。

私へと向けられる政宗さんの冷たい瞳には光はなく、まるで暗闇の中にいるように見える。



「悪いが、今日は自室へ戻ってくれねぇか」

「はい……」



これ以上この事について触れてほしくないのだと感じ、私は政宗さんの部屋を出た。


自室へと向かう廊下で、私はさっきの政宗さんの瞳が脳裏に浮かんでいた。


政宗さんが父親を殺したなんて信じられないよ……。



「暗い顔してどうしたんだ?」



前から声が聞こえ、立ち止まり俯いていた顔を上げると、前から秀吉さんが歩いてきた。

私は秀吉さんに私の自室へと来てもらうと、さっき政宗さんから聞いたことを秀吉さんへと話した。

本当はこんなこと聞いちゃいけないんだろうけど、あんな政宗さんの瞳を見たらほっておけない。

それに、政宗さんに聞いても話してくれるとは思えないから……。
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