戦国武将とトリップ少女

月夜

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第十一幕 虎と龍の過去

三 虎と龍の過去

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 そのあと私は自室へ戻ると、一人窓際に座り、茜色の空を眺めていた。

 初めは甲斐での生活が不安だったけど、私が甲斐へ来たのは間違いではなかったのだと、信玄さんや幸村の笑顔を見て思えた。

 二人に愛を知ってもらい、今日という日もまた終わりを迎えていた。


 翌日、私は自室の窓際で風に吹かれながら謙信さんのことを考えていた。

 昨日の謙信さんが脳裏に浮かび、何故あんな悲しい瞳をしていたのか知りたいのにどうしたらいいのかわからず悩んでしまっていた。

 安土城の皆の時は、愛を知ってもらうことができたけど、謙信さんのことはまだ何も知らないためどうするべきなのかわからずにいる。


 そういえば、私が甲斐へ来た最初の日、広間で信玄さんと謙信さんに言われた言葉に何か違和感を感じたんだよね……。



〈かっかっかっ!!愛など、そんなもの武将には必要のないものだ〉

〈ククッ、愛なんて、武将の僕らには必要のないものだよ。お嬢さんは可笑しなことを言うね〉



 あの時はわからなかったけど、今はわかる。

 信玄さんは愛する人をなくしてしまったから、愛なんて武将に必要のないものなんて言ったのだと。


 あれ?


 私はこの時あることに気づいた、愛なんて武将に必要のないものと言ったのは謙信さんも同じだった。


 もしかして謙信さんも愛を知っているんじゃ……。


 私はそれを確かめるために、兼続の部屋へと向かった。

 もし私が考えてることが事実なら、謙信さんには聞けないため、一番謙信さんの身近にいる兼続ならなにか知っているのではないかと訪ねてみることにした。



「実影です。兼続さん、いらっしゃいますか?」

「入って構いませんよ!」



 返事が聞こえると部屋の中へと入り、畳の上へと座った。



「実影さんが俺を訪ねてくるなんて嬉しいですね!俺にどんな用事でしたか?」

「謙信さんのことでお聞きしたいことがあるのです」

「どのようなことですか?」

「私が最初に甲斐へ来たときに、広間で謙信さんが言われていた言葉なんですが、愛なんて武将に必要ないという言葉に私は違和感を感じていたんです。もしかして謙信さんは愛を知っているのではありませんか?」



 私が聞くと、さっきまで明るすぎるくらい元気だった兼続さんは、どこか悲しみを宿した瞳へと変わっていた。



「殿は、大切な方を亡くされたのです……」



 兼続さんは、重い口を開き話始めた。

 昔、謙信さんには愛した人がいた。
 相手は姫でお互いに惹かれ合い恋に落ち、近いうちに婚姻を結ぶことになっていた。

 だが、姫が流行り病にかかり、結局二人は結ばれることはなく、それから数日後に姫は亡くなってしまった。

 謙信さんはよくその方と庭で散歩をしていたが、その方が床にふせってからは散歩はしなくなっていた。

 そんなある日の春、その方が謙信さんに桜を見たいと伝えると、謙信さんは縁側へと連れていき、二人並んで座り桜を眺める。

 そしてその方は謙信さんの肩へと頭を預け目を閉じると、そのまま目を覚ますことはなかった。

 それから謙信さんは心を無くしたようになってしまったらしい。


 この話、昨日謙信さんが話してくれた話に似てる。


 あれは自分のことを話していたんだ……。



「謙信さんにそんな過去が……」



 謙信さんが昨日悲しそうな瞳をして桜を眺めていたのは、越後の自分の城からみた桜を思いだし、その女性のことを思い出していたからだったんだと今ならわかる。



「実影さん、殿の愛を、心を取り戻してください!昔の殿を……!」

「はい、勿論です!私に出来る限りのことはします!!」



 兼続さんから聞いたあと、私は自室へ戻る前に縁側へと行ってみることにした。


 あ……。


 縁側へ行ってみると、そこには謙信さんの姿があった。

 縁側に座り、桜へと視線を向けている謙信さんは私に気づいていないらしく、私は声をかけようか迷いながらも一歩ずつ近づいた。



「桜、もうじき咲きそうですね」

「そうだね」

「一緒に庭を散歩しませんか?」

「……そうだね」



 躊躇いながらも了承してくれ、私と謙信さんは庭へと出ると縁側から見た桜の木へと向かった。



「見てください、蕾が大分膨らんできてますよ!」

「甲斐の桜も綺麗に咲くのだろうね」

「兼続さんから聞いたのですが、越後のお城にも桜があるんですよね」

「ああ。とても綺麗に咲くよ、とても、ね……」



 どこか遠くを見ているようで、私の胸が痛むのを感じる。



「兼続から聞いたんだね」

「っ……!」

「何故って顔してるね。お嬢さんの悲しそうな顔を見ればわかるよ」



 謙信さんには私が兼続さんから聞いたことがあっという間に知られてしまった。


 私って顔に出やすいのかな……。



「お嬢さんがそんな顔することはないよ。それに、愛なんて武将には必要のないものだったんだから」



 何故謙信さんは悲しい瞳をして、冷静にそんなことが言えるのか私にはわからなかった。

 愛なんて武将には必要ない、本当に謙信さんはそんなことを思っているんだろうか。



「愛しい人を失って僕に残ったのは、悲しみだけなんだ」

「そんなの違います!!」



 私が言葉を発したとき、謙信さんは腕を掴むと、私の背中を桜の木へと押し付けた。



「知ったことを言うな」



 低い声で、鋭く睨むような視線を私へ向けて言った言葉は、これ以上踏み込むなと警告されたように感じた。

 私の腕から手を放し、謙信さんは城内へと戻ろうと私に背を向けた。

 私はずかずかと人の心に踏み込みすぎたのかもしれない。


 それでも私は……。



「謙信さんの言う通りです、でも、私にもわかることはあります。残ったのは悲しみだけなんかじゃないってことです!思い出だって、愛した想いだって、謙信さんの心や記憶に残っているはずです!!」

「っ!」

「愛は下らないものなんじゃない!謙信さんと御姫様との想いまで否定するようなことは言わないでください!」



 想いまで忘れてしまうのはあまりにも悲しすぎる。

 私の頬には涙が伝い、その涙は地面へと落ちていく。

 その時、私の目へと手が伸ばされ、指が涙を掬い上げた。



「すまないね、涙を流させてしまって。それとありがとう、お嬢さんの言う通りだ、僕は大切なものまで無くすところだったよ」



 私へと向けられた微笑みはとても優しいもので、私も謙信さんに微笑み返した。

 そのあと私と謙信さんは、日も暮れてきたため自室へ戻ろうと廊下を歩いていた。
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