15 / 20
第一章 獣領の騒乱 編
第十話 旅の始まりは獣耳で〜獣の種族〜
しおりを挟む
「...実は、獣領にはあの巨壁の下、このまま進んだ先に関門があって、そこを通るには紋章を見せる必要があります」
自分を見つめ直して早数秒、いきなりの第一関門に遭遇してしまうらしい。
全種族に共通している数少ない点の一つ、自種の象徴である紋章の存在。
生まれた瞬間から首元にその種を表す唯一無二の同族共通の紋章が刻まれる。
つまり、それを見せるということは、自分の種族を明かすということ。
問題は紋章の件だけではない。
決闘以外で強気になることを忘れてしまったカイザンは、関所で問い詰められたりすれば押され負けて真実を述べてしまうかもしれない精神の持ち主だ。
ワケありの者にとっては、どれだけ真実を偽れるかだと言うのに。
と、現在、アミネスの頭の中で考えられている。既にカイザンは失敗を引き起こす要因とされているようで。
「幸い、創造種は絶滅危惧種でして、紋章どころか、その存在を知ってる人すら少ないくらいですし、カイザンさんのウィル種は既に絶滅。紋章に関しては気付かれないと思っていましたが、もしもがあります。なので、情報収集を行いましょう」
・・・何この子、凄い頼りになるんだけど。ていうか、俺のパートナーなんですけど。
坦々とした口調で進めていくアミネスに、謎の安定感、いや、安心感を深く感じる。
実際、個人的には紋章に関しては安心感は抱いてもいいはずだ。ミルヴァーニが知らなかったことがいい例のように、カイザンの噂は謎の種族となって広まっているため、ウィル種であるとは広まっていないのだから。
だが、アミネスがそう言うのなら、情報収集は他にも何かしらの理由があるのだろう。
「ちなみに、情報収集ってのは、第一村人発見みたく?」
「何を言っているか分かりませんが、たぶん違うんじゃないですか」
・・・絶対、よく考えずに結論決めただろ。パートナーだろ、俺らは。
隣から読める心の声に面倒そうな顔をしつつ、アミネスはしっかりぱーとなーとして役目を。
「この畑地帯は既に獣領の一端に入ります。ですので、ここで歩く人に話を聞いてみましょうという感じです」
「なるほどなー、あながち俺のは外れてない訳だ。となると、役割分担が必要だな。アミネスは、質問役・聞き手・メモ係。俺は.....たまたま残ったタイム・キーパーで」
「存在価値あるんですか?......私一人で十分ですから」
修学旅行のインタビュー要員をテキトーに並べたら運良くカイザンに簡単な役が回ってきた。それが災いしてか、役から外されてただの付き添いに。
・・・ちっ。タイム・キーパーを侮りやがって。修学旅行のインタビューや生徒会役員選挙なんかじゃ重要要員だぞ。....まあ、任せるけども。
心では反抗しながら、体では二歩ほど後ろに下がってアミネスに最強種族として労働を命ずる。いや、聞き込みに関する全権を委ねる。パートナーっぽくね。
そうして、二歩前を歩くアミネスは早速第一村人を発見して声をかけているところだ。
パッと見は六十代後半、白い無精髭と優しい面持ちのお爺さん。軽そうなくわを肩に載せ、骨の形が浮き出る程に細い体をしている。
首に刻まれている紋章は、本に書かれていた獣種のそれと確かに合致する。...のだが、本当に獣種なのかと疑ってしまう。
筋肉質とも中肉中背とも違う。いくら老いてるとはいえ、獣種の力強さというのに欠けている。
一つ言えるのは、このお爺さんには犬の耳と尻尾が生えているということ。
「こりゃあ、獣種だな」
「紋章があるじゃないですか。邪魔しないでください。うるさいです、下がってください」
一人、勝手に納得しているカイザンを空いた手で「しっしっ」と追い払う。すっと食い下がってフレームアウト。したのにずっと邪魔そうな視線。
・・・これ以上に下がれっての?
不満そうなぱーとなーを横目に、目の前のお爺さんに聞き込みを開始するアミネス。簡単に了承は得たようだ。
「お嬢ちゃんは可愛いから、何でも聞いてくれて構わないよ。がはははは」
思わずカイザンは剣の柄を握る。
それをアミネスは制止させない。何だかアミネスの方が怖くなったので、ゆっくり手を離す。
「すみません、獣種について詳しく教えて欲しいんです。私の居た領地では、獣領についての情報があまり手に入らなくて」
・・・エイメルの大図書館にはめちゃ本あったけど、あん中にないってあり得るのか?......あっ、まさか領内機密的なアレかっ!!
と期待するカイザン。そんなものを話す訳が無いだろうとの考えには至らない。
「まあ、それはしかたのないことじゃな。ワシら獣種はほとんどの種族から下等と見下されとるらしい。それは無論、ワシらのような者がいるからじゃがな。.....獣種にはな、三形態ほどの分かれがあるんじゃよ」
そこから急に、お爺さんの口調はWikipediaと化した。
通常型[アニマル](獣種ではあるものの、身体能力は平均を軽く下回り、獣としての要素がとても薄い。獣種のウィルス内に在る遺伝子が弱いのだとされ、領内では獣種の劣等種族と、まるで別種族のような扱いを受けている。他、身体獣化が行えない。領を囲む城壁の外で家畜や稲作を行うことが義務付けされている。全獣種の人口の内、約十パーセント程の数)
獣身型[ビースト](獣種としての身体能力に非常に優れ、獣耳や尻尾といった獣要素が発達しており、五感の一つとして使用可能。それにより、特殊能力[強調五感]が、アニマルよりも多様性に特化。また、身体獣化による筋力強化を魔力の消費で行うことが可能。ビーストの全てに、領内でのあらゆる権利の保証と義務の確立がされている。全獣種の内、約九十パーセントがビーストである。一部のビーストには、ごく稀にウィルスの特殊性で異能を持つ者も現れるとか)
獣神型[シリウス](外見のかなりが獣要素に濃く、常時身体獣化状態に近い圧倒的個体。ビーストの身体能力を遥かに凌駕し、五千年前の種族戦争では高位種族とも互角に戦えていたとか。全獣種の内、約一パーセント未満に含まれる)
と長々と説明をしてくれた。メモの時間を一切与えぬ上舌で。
「ワシが知っているのはこれくらいじゃ、アニマルの中でも情報に長けている方じゃから、信用してくれて構わんよ」
・・・まあ、長かったしな。
そう心では思いつつも、年相応と言える優しい笑みをこぼすこのお爺さんには同情の念しか湧かない。
お爺さんの言うことが本当だとしたら、この笑みの奥では同族からの差別に苦しむ姿もあるのだろう。
何だか、胸がキュッとなった、ドキッとかじゃなく。さっき剣を抜こうとしたことをどうやってなかったことにしようかと悩む。このまま胸の内に留めていようと思った。
そのカイザンの慌てようをお爺さんは気にせずに、
「他に、何か聞きたい事はあるかのぉ?」
「いえ、これだけで十分です。お忙しい中、本当にありがとうございました。お仕事頑張ってくださいね」
輝く笑顔でお爺さんに感謝の言葉を述べるアミネス。
遠目からだが、カイザンにも横顔の一部と優しい言葉遣いは届いた。
二つの理由でじーんとくる。
・・・えっ、何それ。そんなの言われたこと無いんだけど。えっ、俺の頑張りとか評価されてないの?えっ、猛烈に剣抜きたくなってきた。
アミネスからそれを言われたい気持ちが溢れ出したが、おそらく、絶対に無理だ。女神領でなら死ぬまでに一度くらいはされたかもしれないが、パートナー関係成立で叶わぬ夢に。
そんなこんなで、最終的にお爺さんへの嫉妬心だけを残し、聞き込みはアミネスが満足したようで早くも終了した。
こうして、二人はまた、獣領の巨壁内へと足を進めて行く。
「なあ、関門の話とあの質問、何の関係があったんだ?」
「前から知っていたことに含め、確認したかっただけです。さっきの質問のおかげで、獣領内に明確な差別があることが判明しました。それだけでも十分なんですよ」
「へぇーーー」
・・・いや、関係は?
アミネスはただ、会話のラリーを少なくしたかっただけなのだろうと後になってから気付いた。
「そうだ、獣種ってのは身体能力が凄いってのはたくさん聞いたけど、魔法の方はどうなんだ?」
獣種の特殊能力[強調五感]は、身体の一部に魔力を集中させることで五感の一部を強制強化させるもの。女神種と比べれば、魔法という概念とは一線を隔すように感じる。
と、こんなことは女神領の本になら普通に書いてあるはずだ。...はず。
ここいらでアミネスも「文字覚えてくださいよ」と言って、しっかりため息を吐く。
「はぁ........獣種は創造種と同じように、ウィルスの形質的に魔力に色を与える行為がとても苦手なんですよ」
「えっ、お前も魔法使えないの?....じゃあ、創造種はお絵描きして実体化させるだけか」
「....ぱーとなーとして、カイザンさんにタライを落としたくなりました」
「どこにパートナーが関係してるの?」
さっきとは違った笑顔で創造機器を取り出すアミネス。創造種の[万物創成]は生き物以外なら、相応する魔力量で何でも造れてしまうのだから怖い。
アミネスは完全に、ぱーとなー関係を乱用している気がする。...いや、している。
・・・よし、ここは話を逸らそう。
「で、さっきの爺さんの話は、どこまで知ってたんだ?」
新たな質問をしながら、両手でどうどうと落ち着かせる。アミネスは不満げに創造機器をしまった。
本を読めないカイザンとは違い、アミネスは読めるし、元々の知識も深い。ある程度は知っていたはずだ
。
カイザンの問いに、アミネスは二択に迷った末に、正確には答えないようにした。
「獣種の三形態についてはあまり詳しくありませんでしたが、シリウスと呼ばれる方々が既に存在していないというのは聞いたことがあります。....例の、悪魔種との戦争で。現状で獣領を守護するのは、ビーストの精鋭五人による守衛団[五神最将]だそうです」
「うん、さっきの爺さんもそうだけど、情報は小分けにしてもらいたいな。一気に言われると覚えられないタイプだから、俺」
正直、三形態の呼び方すらもう覚えてない。
・・・なんだっけ、ロシアの牛肉料理みたいな名前の形態。ビ、ビ、ビー、ビーフスト....、ビーストか。他は忘れた。
いろいろと抜けて、ここぞという場面以外は他力本願の最強種族だから仕方ないよ。と自分に言い聞かせておく。
・・・にしても、爺さんを最初に見たときは絶望したもんだが、この先に居るのは、所謂ビーストと呼ばれる獣人たち。....つまりは、会える訳だ。
旅の初めに獣領を目指した理由はこれに限る。
「やっぱり、旅の始まりは獣耳からだよな」
転生早々に女神と会えた事が一番素晴らしいが、最も最悪な場面であったことに変わりはない。故に、何よりも求めている最高とは、獣耳に他ならない。
・・・せっかく異世界に来たんだからな。
待ち受ける個人的幸せを前に女神領での事を振り返るカイザン。長かった、ある意味での苦難からやっと解放された心地良さ。
頭での回想が数分前にまで来たところで、ふと思い出した。
「あれ、闘技場の利益って、教えてもらったっけ?」
本日二度目、アミネスが会話のラリーをどれだけ短縮したかったかを思い知った。
次回予告雑談
カイザン&アミネス パターン1
「なあ、ボコボコの利益ってのは....」
「カイザンさん、前に調理実習がどうとか言ってましたけど、...料理なんて器用なこと、できるんですか?」
「失礼な。俺にだって料理の一つや二つ...」
「例えば?」
「...野菜炒めとかだな。三種程度の野菜を炒めて、はい完成ですって感じ」
「野菜を傷める?傷んだ野菜の何が美味しいって言うんですか?」
「な訳ねぇだろ。火を通すってことだよ」
「へぇー、スゴく簡単な調理方法ですね」
「自分で聞いたくせに興味無さげだな。....あれ、俺って何聞こうとしてたんだっけ?」
「では。次回、最暇の第十一話「獣領フェリオル」....ということは、ボコボコの準備ができたんですかね?」
自分を見つめ直して早数秒、いきなりの第一関門に遭遇してしまうらしい。
全種族に共通している数少ない点の一つ、自種の象徴である紋章の存在。
生まれた瞬間から首元にその種を表す唯一無二の同族共通の紋章が刻まれる。
つまり、それを見せるということは、自分の種族を明かすということ。
問題は紋章の件だけではない。
決闘以外で強気になることを忘れてしまったカイザンは、関所で問い詰められたりすれば押され負けて真実を述べてしまうかもしれない精神の持ち主だ。
ワケありの者にとっては、どれだけ真実を偽れるかだと言うのに。
と、現在、アミネスの頭の中で考えられている。既にカイザンは失敗を引き起こす要因とされているようで。
「幸い、創造種は絶滅危惧種でして、紋章どころか、その存在を知ってる人すら少ないくらいですし、カイザンさんのウィル種は既に絶滅。紋章に関しては気付かれないと思っていましたが、もしもがあります。なので、情報収集を行いましょう」
・・・何この子、凄い頼りになるんだけど。ていうか、俺のパートナーなんですけど。
坦々とした口調で進めていくアミネスに、謎の安定感、いや、安心感を深く感じる。
実際、個人的には紋章に関しては安心感は抱いてもいいはずだ。ミルヴァーニが知らなかったことがいい例のように、カイザンの噂は謎の種族となって広まっているため、ウィル種であるとは広まっていないのだから。
だが、アミネスがそう言うのなら、情報収集は他にも何かしらの理由があるのだろう。
「ちなみに、情報収集ってのは、第一村人発見みたく?」
「何を言っているか分かりませんが、たぶん違うんじゃないですか」
・・・絶対、よく考えずに結論決めただろ。パートナーだろ、俺らは。
隣から読める心の声に面倒そうな顔をしつつ、アミネスはしっかりぱーとなーとして役目を。
「この畑地帯は既に獣領の一端に入ります。ですので、ここで歩く人に話を聞いてみましょうという感じです」
「なるほどなー、あながち俺のは外れてない訳だ。となると、役割分担が必要だな。アミネスは、質問役・聞き手・メモ係。俺は.....たまたま残ったタイム・キーパーで」
「存在価値あるんですか?......私一人で十分ですから」
修学旅行のインタビュー要員をテキトーに並べたら運良くカイザンに簡単な役が回ってきた。それが災いしてか、役から外されてただの付き添いに。
・・・ちっ。タイム・キーパーを侮りやがって。修学旅行のインタビューや生徒会役員選挙なんかじゃ重要要員だぞ。....まあ、任せるけども。
心では反抗しながら、体では二歩ほど後ろに下がってアミネスに最強種族として労働を命ずる。いや、聞き込みに関する全権を委ねる。パートナーっぽくね。
そうして、二歩前を歩くアミネスは早速第一村人を発見して声をかけているところだ。
パッと見は六十代後半、白い無精髭と優しい面持ちのお爺さん。軽そうなくわを肩に載せ、骨の形が浮き出る程に細い体をしている。
首に刻まれている紋章は、本に書かれていた獣種のそれと確かに合致する。...のだが、本当に獣種なのかと疑ってしまう。
筋肉質とも中肉中背とも違う。いくら老いてるとはいえ、獣種の力強さというのに欠けている。
一つ言えるのは、このお爺さんには犬の耳と尻尾が生えているということ。
「こりゃあ、獣種だな」
「紋章があるじゃないですか。邪魔しないでください。うるさいです、下がってください」
一人、勝手に納得しているカイザンを空いた手で「しっしっ」と追い払う。すっと食い下がってフレームアウト。したのにずっと邪魔そうな視線。
・・・これ以上に下がれっての?
不満そうなぱーとなーを横目に、目の前のお爺さんに聞き込みを開始するアミネス。簡単に了承は得たようだ。
「お嬢ちゃんは可愛いから、何でも聞いてくれて構わないよ。がはははは」
思わずカイザンは剣の柄を握る。
それをアミネスは制止させない。何だかアミネスの方が怖くなったので、ゆっくり手を離す。
「すみません、獣種について詳しく教えて欲しいんです。私の居た領地では、獣領についての情報があまり手に入らなくて」
・・・エイメルの大図書館にはめちゃ本あったけど、あん中にないってあり得るのか?......あっ、まさか領内機密的なアレかっ!!
と期待するカイザン。そんなものを話す訳が無いだろうとの考えには至らない。
「まあ、それはしかたのないことじゃな。ワシら獣種はほとんどの種族から下等と見下されとるらしい。それは無論、ワシらのような者がいるからじゃがな。.....獣種にはな、三形態ほどの分かれがあるんじゃよ」
そこから急に、お爺さんの口調はWikipediaと化した。
通常型[アニマル](獣種ではあるものの、身体能力は平均を軽く下回り、獣としての要素がとても薄い。獣種のウィルス内に在る遺伝子が弱いのだとされ、領内では獣種の劣等種族と、まるで別種族のような扱いを受けている。他、身体獣化が行えない。領を囲む城壁の外で家畜や稲作を行うことが義務付けされている。全獣種の人口の内、約十パーセント程の数)
獣身型[ビースト](獣種としての身体能力に非常に優れ、獣耳や尻尾といった獣要素が発達しており、五感の一つとして使用可能。それにより、特殊能力[強調五感]が、アニマルよりも多様性に特化。また、身体獣化による筋力強化を魔力の消費で行うことが可能。ビーストの全てに、領内でのあらゆる権利の保証と義務の確立がされている。全獣種の内、約九十パーセントがビーストである。一部のビーストには、ごく稀にウィルスの特殊性で異能を持つ者も現れるとか)
獣神型[シリウス](外見のかなりが獣要素に濃く、常時身体獣化状態に近い圧倒的個体。ビーストの身体能力を遥かに凌駕し、五千年前の種族戦争では高位種族とも互角に戦えていたとか。全獣種の内、約一パーセント未満に含まれる)
と長々と説明をしてくれた。メモの時間を一切与えぬ上舌で。
「ワシが知っているのはこれくらいじゃ、アニマルの中でも情報に長けている方じゃから、信用してくれて構わんよ」
・・・まあ、長かったしな。
そう心では思いつつも、年相応と言える優しい笑みをこぼすこのお爺さんには同情の念しか湧かない。
お爺さんの言うことが本当だとしたら、この笑みの奥では同族からの差別に苦しむ姿もあるのだろう。
何だか、胸がキュッとなった、ドキッとかじゃなく。さっき剣を抜こうとしたことをどうやってなかったことにしようかと悩む。このまま胸の内に留めていようと思った。
そのカイザンの慌てようをお爺さんは気にせずに、
「他に、何か聞きたい事はあるかのぉ?」
「いえ、これだけで十分です。お忙しい中、本当にありがとうございました。お仕事頑張ってくださいね」
輝く笑顔でお爺さんに感謝の言葉を述べるアミネス。
遠目からだが、カイザンにも横顔の一部と優しい言葉遣いは届いた。
二つの理由でじーんとくる。
・・・えっ、何それ。そんなの言われたこと無いんだけど。えっ、俺の頑張りとか評価されてないの?えっ、猛烈に剣抜きたくなってきた。
アミネスからそれを言われたい気持ちが溢れ出したが、おそらく、絶対に無理だ。女神領でなら死ぬまでに一度くらいはされたかもしれないが、パートナー関係成立で叶わぬ夢に。
そんなこんなで、最終的にお爺さんへの嫉妬心だけを残し、聞き込みはアミネスが満足したようで早くも終了した。
こうして、二人はまた、獣領の巨壁内へと足を進めて行く。
「なあ、関門の話とあの質問、何の関係があったんだ?」
「前から知っていたことに含め、確認したかっただけです。さっきの質問のおかげで、獣領内に明確な差別があることが判明しました。それだけでも十分なんですよ」
「へぇーーー」
・・・いや、関係は?
アミネスはただ、会話のラリーを少なくしたかっただけなのだろうと後になってから気付いた。
「そうだ、獣種ってのは身体能力が凄いってのはたくさん聞いたけど、魔法の方はどうなんだ?」
獣種の特殊能力[強調五感]は、身体の一部に魔力を集中させることで五感の一部を強制強化させるもの。女神種と比べれば、魔法という概念とは一線を隔すように感じる。
と、こんなことは女神領の本になら普通に書いてあるはずだ。...はず。
ここいらでアミネスも「文字覚えてくださいよ」と言って、しっかりため息を吐く。
「はぁ........獣種は創造種と同じように、ウィルスの形質的に魔力に色を与える行為がとても苦手なんですよ」
「えっ、お前も魔法使えないの?....じゃあ、創造種はお絵描きして実体化させるだけか」
「....ぱーとなーとして、カイザンさんにタライを落としたくなりました」
「どこにパートナーが関係してるの?」
さっきとは違った笑顔で創造機器を取り出すアミネス。創造種の[万物創成]は生き物以外なら、相応する魔力量で何でも造れてしまうのだから怖い。
アミネスは完全に、ぱーとなー関係を乱用している気がする。...いや、している。
・・・よし、ここは話を逸らそう。
「で、さっきの爺さんの話は、どこまで知ってたんだ?」
新たな質問をしながら、両手でどうどうと落ち着かせる。アミネスは不満げに創造機器をしまった。
本を読めないカイザンとは違い、アミネスは読めるし、元々の知識も深い。ある程度は知っていたはずだ
。
カイザンの問いに、アミネスは二択に迷った末に、正確には答えないようにした。
「獣種の三形態についてはあまり詳しくありませんでしたが、シリウスと呼ばれる方々が既に存在していないというのは聞いたことがあります。....例の、悪魔種との戦争で。現状で獣領を守護するのは、ビーストの精鋭五人による守衛団[五神最将]だそうです」
「うん、さっきの爺さんもそうだけど、情報は小分けにしてもらいたいな。一気に言われると覚えられないタイプだから、俺」
正直、三形態の呼び方すらもう覚えてない。
・・・なんだっけ、ロシアの牛肉料理みたいな名前の形態。ビ、ビ、ビー、ビーフスト....、ビーストか。他は忘れた。
いろいろと抜けて、ここぞという場面以外は他力本願の最強種族だから仕方ないよ。と自分に言い聞かせておく。
・・・にしても、爺さんを最初に見たときは絶望したもんだが、この先に居るのは、所謂ビーストと呼ばれる獣人たち。....つまりは、会える訳だ。
旅の初めに獣領を目指した理由はこれに限る。
「やっぱり、旅の始まりは獣耳からだよな」
転生早々に女神と会えた事が一番素晴らしいが、最も最悪な場面であったことに変わりはない。故に、何よりも求めている最高とは、獣耳に他ならない。
・・・せっかく異世界に来たんだからな。
待ち受ける個人的幸せを前に女神領での事を振り返るカイザン。長かった、ある意味での苦難からやっと解放された心地良さ。
頭での回想が数分前にまで来たところで、ふと思い出した。
「あれ、闘技場の利益って、教えてもらったっけ?」
本日二度目、アミネスが会話のラリーをどれだけ短縮したかったかを思い知った。
次回予告雑談
カイザン&アミネス パターン1
「なあ、ボコボコの利益ってのは....」
「カイザンさん、前に調理実習がどうとか言ってましたけど、...料理なんて器用なこと、できるんですか?」
「失礼な。俺にだって料理の一つや二つ...」
「例えば?」
「...野菜炒めとかだな。三種程度の野菜を炒めて、はい完成ですって感じ」
「野菜を傷める?傷んだ野菜の何が美味しいって言うんですか?」
「な訳ねぇだろ。火を通すってことだよ」
「へぇー、スゴく簡単な調理方法ですね」
「自分で聞いたくせに興味無さげだな。....あれ、俺って何聞こうとしてたんだっけ?」
「では。次回、最暇の第十一話「獣領フェリオル」....ということは、ボコボコの準備ができたんですかね?」
0
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
1歳児天使の異世界生活!
春爛漫
ファンタジー
夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。
※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる