しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第133話 大変不本意な再会

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 白一色の世界が像を写し、青々とした空と樹と枝葉が全面に広がる。

 痛む身体を起こそうとすると、身体は動いている感覚があるのに視界が動かない。どうなっているのか手で触って確認しようとし、そも、腕が肘から先しか動いていない事に気付く。

 嫌な予感がする。

 冷汗を流しながら頭、両手、脚から触手を伸ばし、先端に一つの目を作る。三百六十度の周囲を見回し、確認できたのは鬱蒼と茂る深い森林だけだった。

 しかも、全ての視界で同じ景色が一つもない。

 胴体が消し飛んで、頭と片手ずつと下半身の四パーツに別れてしまっている。爆発の衝撃は相当の物だったらしく、世界に訊いてみるとトルオスの街から西に五十キロは飛ばされていた。

 パーツ毎の間隔も広い。

 互いに感じ取れる距離はおおよそ十キロ。回収しようにも、おそらく神殺しの力で再生能力が阻害されている。いっそ新しい身体を作って乗り換えた方が早いかもしれないくらいだ。

 さて、どうしようか。

 正直な所、残った身体に蓄えられた力が惜しい。

 同じだけ貯めるのには、社で一週間は静養しないとならない。手間と時間を考えるとやはり回収した方が良く、頭以外の身体を解いて、地中に染みさせこちらに向かわせた。

 えーっと、こっちの方角かな? いや、やっぱりこっち?


「…………何をやっている、貴様」

「あ、久しぶり。こんな所で会うなんて奇遇だね? 元気にしてた?」


 覆面黒装束に身を包む一見正体不明の不審者が、呪符でぐるぐる巻きになった大鎌を背に触手の視界内に現れた。

 ずっと顔を隠しているから視覚で判別は出来ない。だが、彼が漂わせるヴァンパイア特有の血の匂いはよく覚えていて、つい数か月前の記憶を鮮明に思い出させてくれる。

 閃夜のユーゴ。

 ギュンドラ王国建国の英雄の一人で、ユーリカの元上司。王国が公に出来ない裏の仕事を請け負う最高クラスのヴァンパイアだ。

 ……あれ? 今昼だよね? 日光大丈夫なの? 大丈夫そう?


「生首だけになっても死なない奴は初め――――てじゃないな。レスティもそうだった」

「え? レスティの首を刎ねられる使い手がいるの? 初耳なんだけど?」

「アーカンソーが首から下を噛み千切ったんだ。あと一歩で仕留められたんだが、魔将軍ガルマスアルマに邪魔された。今でも悔やみきれん」

「そっかそっか。で、ちょっとお願いなんだけど、ドルトマに胴体吹っ飛ばされて死にかけてるから助けて」

「…………いや、必要ない」


 ユーゴは背の大鎌を手に持ち、呪符を破いて中身を露わにした。

 神々しさはどこにもない、死という現象を集めて固めた不可視の異形。そこにあるとわかるのに、どういう形をしているかもわかるのに、目も鼻も肌も一切何も感じ取る事が出来ない。

 ただ、理解だけ出来る。

 これは、死だと。


「上位神になったと聞いた。つまり、お前は我々の敵だ」

「あぁ~……うん。義理の息子と部下を直接手にかけてるから、その仇討ちって事で良い?」

「加えて、我々の大義だ。不幸と理不尽を振りまく神々は、人の運命には要らない。手始めにお前を滅し、その次はアイシュラだ」

「魔王神アイシュラ? 無理だよ、その程度じゃ全然足りない。勇者クラスの神喰いでパーティ揃えて、全員が神器クラスを使ってどうにかって感じじゃない? そもそも貴方は英雄でも中位クラス。開戦して数秒で跡形も残らないよ」

「これでもか?」


 ユーゴの指がマスクにかかり、ほんの少しだけ下にずらした。

 ナレアやディユーが垂れ流す、ツンッとくる刺激が神としての全感覚に突き刺さる。

 漏れた量はほんの少しだけなのに、二人と比較にならない純度で強烈に効く。女神軍との戦争で使っていれば多少の足しにはなったろうに、何故今までずっと隠し通してきたのか?

 わからない。

 わからないが、彼の立ち位置だけは理解できた。ギュンドラ王国の裏ではなく、ギュンドラ達の裏を担ってきたのだと。

 無謀な神嫌い達を、彼が守ってきたのだと。


「マスクで隠せる物なの?」

「神喰いの力は呼気にも含まれる。特注のマスクで塞ぎ止め、体内に取り込み続ける事で純度を上げられる」

「あぁ、それでか。量はそんなでもないのに強く効くの。確かにそれなら防御は大丈夫そうかな? 攻撃…………は、女戦王国から買い取ったそれで補うつもり?」

「元々はお前達との戦争中に手配した物だ。講和が成った後に手元に届き、今目の前に不死なる神がいる。丁度良いだろう?」

「あぁ~たすけてぇ~だれかぁ~。わたしのにばんめをうばわれちゃうぅ~」

「頭に来るほど余裕だな? すぐ駆けつけられる距離に貴様の性奴共はいない。それなのに何故、貴様は普通でいられるのだ?」

「だって、まだ対等以下だから」


 直後、ユーゴの怒気と敵意が急激に増した。

 意味する所を理解し、挑発と受け取ってもらえたらしい。彼の魔力が大気を震わせ、森の獣達が続々と逃げ出していく。

 鳥の群れが飛び立ち、大小の獣が走り遠退き、残された命は私達の二つだけ。

 私は頭の形を解き、地面に染みて一帯を取り込んだ。

 仮の形として土と水で巨大な人型を取り、樹を四肢に見立てて組み込んで立ち上がる。おおよそ八メートルの視界はなかなかの絶景で、両手と下半身の位置を大体掴んで合流を急がせる。


「対等以下、だと?」

『不死と対不死には種類があるんだ。アンダル自身は脅威だけど、見た所、その鎌は私にとって脅威にはならない。そして神喰いも、三年かけた研究でちょっとした対抗策を生み出す事が出来た』


 樹の脈に血を送って中程で切り、間を繋げて関節を作る。

 これで、とりあえず人と大体同じに動ける。改めて鎌を構えるユーゴと対し、私は似非格闘家の如く腰を落として構えを取った。

 じゃあ、始めようか。


『死の理の内にある不死と、死の理を否定する不死。二つの明確な違いを実感すると良い』
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