上 下
3 / 48
第1話 踊れ★情熱★パパラチア!

おいしいぐるぐる

しおりを挟む

「なで方が上手いナ、ユウキ」

「ぬああ~、むふ~、くぬう~…」

 なでるたびにチビスケの可愛らしい口元から変な声が漏れ出ている。嫌がってる訳ではなく、気持ちがいいらしい。
 いいなぁ、この世界。このままココで……いやいやいや、やっぱ日本に戻らんとマズイだろう。
 何がって?
 机の引き出しとか、本棚の奥に隠してあるアレだよ。
 ……中学の頃に書いた世界最強スキル持ち勇者の自作小説とか、自分で考えた必殺技の設定を書き連ねたノートですよ?
 闇の精霊を召喚するオリジナル呪文とか、超絶技巧の必殺技の決めゼリフとかも書き込んである。
 厨二病って言うの?
 痛い自覚はあるんだが、捨てるに捨てられない黒歴史。魂の蔵書。もしも発見されて失踪原因か?とか誤解されたら……っぁあああああ!!
 シャレにならん!!
 絶対、誰にも見られたくない。アレだけは処分しなくては!!!

 まあ、メシをおごってくれるらしいから、食べてから考えよう。うん、そうしよう。

 打ち上げ会場は園内にあるレストランらしい。
 手入れされた植え込みの間の歩道を猫の群れに混じって歩く。

 すれ違うのは、子連れの親子よりコスプレした大人の方が多い。
 いや、ここが異世界なら、アレはいわゆる冒険者とかなのか? 持ってる武器も鎧も本物っぽい。
 殺伐さつばつとした日常にはいやしが必要だよな。そりゃ猫ダンスも見たくなるってもんだ。

 園内には公衆便所や売店はあるものの、大規模なライド系アトラクションなどは見当たらない。大きめの施設はあるが室内アトラクションではなく、事務所とか倉庫みたいな感じだ。
 あ、広い敷地にテントがたくさん張ってある場所が見える。区画を区切って貸してるのだろう。ナンバープレートが付いてる。
 ココは遊園地じゃなくて、施設が充実した大きなキャンプ場だったようだ。

「もうすぐだナ。お前さん、【ぐるぐる】と【とりそば】、どっちがいいナ?」

 ぐるぐる?

「とりそばって、鶏肉が入ってんの?」

「鶏肉を蒸してほぐしたのと刻んだネギがたくさん乗ってるスープそばだナ。スープは鶏ガラ塩味」

「へー、うまそう。それがいいな」

 異世界だし、とりあえず無難なモンにしとこう。


 レストランの入り口には、筆文字で「ぐるぐる」と書かれた赤いのれんがかかっていた。ガラスのはまった引き戸を開けると、威勢いせいのいい声が飛んで来る。

「ヘイ、らっしゃ~い!」

 店内は熱気と香りに包まれている。奥行きがあり、テーブル席とカウンター席。客はそこそこ多い。
 彼らが手にしてるのは……ドンブリ!?
 ドンブリの中には麺とスープ。美味しそうな具材も乗ってる。半熟煮卵もだ。
 食べるのに使ってるのは、箸と木のフォークが半々。
 えっと、ラーメン屋???

 ダンス猫達は奥の方の席へ向かいつつ、カウンター奥の厨房に声をかける。

「タイショー、今日も世話んなるナー」

「あいよーっ」

 タイショーと呼ばれたおじさんは、湯気の向こうで麺の湯切りをしている。
 ねえ、ラーメン屋ですよね?、ココ。
 店内には例の冒険者風の人達も多く、違和感半端ない。
しおりを挟む

処理中です...