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第4話 アンダンテで行こう★

ダンジョンの掃除屋

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 地下1階は石造りの回廊になっている。遺跡の地下構造なのか、地上にあった建造物が陥没したのかは分からない。時代は古そうだが、当時の技術としては丁寧に作られた最先端のものだったのかもしれない。古い石のブロックは風化しているものの、構造はしっかりしている。所々、欠けたり抜け落ちたりしてる部分はあるが、天井や壁が崩落しそうな気配はない。

「キイッ」

 曲がり角から、小さな影が飛び出す。灰緑色のシワだらけの肌、骨の浮き出た歪んだ体、ゴブリンだ!
 ギルドの講習で習った内容を思い出す。
 この階のゴブリンは、もっと下の階に住むゴブリンの群れから追い出されたハグレだ。凶悪そうに見えるが、群れで最弱の個体と思っていい。落ち着いて行動すれば負けることはない。

「フン!」

「あったれえ!☆」

 ゴブリンがリトとピップルの攻撃で倒される。
 リトは細身の反りがある剣を2本、逆手に握った双剣使い。ピップルは何と両手持ちのブロードソードをぶん回している。どちらの武器もパパラチアキャットの手に馴染むよう小ぶりに作られているが質は良さそうだ。
 そこそこ敏捷性の高い俺よりも猫達はすばやく、俺が攻撃する前に戦闘は終わった。もちろんステップを踏む時間なんかない。
 ゴブリンて、ほんと弱いな。いやいや、人間だってナイフのひと突きで死ぬこともある。油断は禁物だ。

 次の敵は半壊した扉の影から飛び出して来た。
 やっぱりゴブリンだ。そしてあっという間に倒される。今回も俺の出番は無し。
 1階を徘徊するモンスターのほとんどがゴブリンだ。ゴブリンは骨格的には人間に似ているが、人間とは全く違う魔法生物で、泥のように濃い瘴気から発生するとも言われている。
 ラヴィ達と1階を通り抜けた時も、出て来たモンスターの半分以上はゴブリンだった。残りは大きなネズミと……

「うぇっ」

 汚物臭いゴブリンとは別の、鼻を突くツンとした匂い。ヌメヌメと光る粘液の塊が石ブロックの隙間からにじみ出てくる。ポップルがカンテラを掲げると、直径1mほどのぶよぶよしたモノが這うように動いている。可愛い顔がついてるタイプではない。

「これ、スライムか?、リト。本物!?」

「ああ。見るの初めてか?」

「居るとは聞いてたけど、こないだは急いで移動したから」

「そうか。ユウキ、スライムは……」

「分かってる。ダンジョン内のゴミやモンスターの死骸を処理してくれるから倒さないんだろ? ギルドで習った」

「襲われた時は別だけどな。ピップル?」

「大丈夫。魔石は取り出したよ」

 倒したゴブリンの側で作業していたピップルが立ち上がり、スライムの通り道を開ける。スライムはピップルには見向きもせず、ゴブリンの死骸に這い寄り、おおいかぶさった。ゴブリンはゆっくりとスライムに取り込まれてゆく。

 モンスターの体の中には魔石と呼ばれる魔力の結晶がある。魔法生物である彼らの命の源のようなものだ。質と大きさによって値段は違うが、魔石は冒険者ギルドで買い取ってくれる。加工品に使える角やウロコ、武器やアイテムなどの所持品がなくても、モンスターならば必ず体内の中央辺りに魔石があるため、モンスター討伐は冒険者の収入に直結している。

 その後も、戦闘では俺に攻撃の順番は回って来なかった。俺だけでなく、ポップルにも。彼女の場合は攻撃手段が魔法なので、魔力の温存が目的だが。
 俺が攻撃するまでもなく戦闘が終わってしまうので、自然と2・2での移動になっている。後列になるなら、何か遠隔攻撃の手段を持った方が良いかも知れない。ギルドで教わった水魔法は生活魔法とも呼ばれる簡単なもので、攻撃に使えるようなものではない。

 地下2階は1階よりも通路が狭いので、結局1列に並び直す。

 戦える強い冒険者が先頭を歩くのは当然だが、一番後ろを弱い冒険者にしてもいけない。背後から敵に襲われる事もあるからだ。今日は後ろから強そうなギルド職員達がついて来てるのでバックアタックはないだろうが、いつも通りに行動してと言われてるので彼女達は考慮しない。

「じゃ、ユウキが前ね」

「待って! ちょっと待ってポップル」

 いくら軟弱な俺でも小柄な女のコ猫よりは強いと信じたい。いや実際には魔法が使える彼女の方が強そうな気はするが、俺の方が体が大きいから物理的に耐久高そうだし、何より可愛い猫を盾にするようじゃ人間として終わってる気がする。……前衛も猫だけど。

 結局、リト、ピップル、ポップル、俺、の順番で歩く。
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