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第1章 初めての旅
あなたは誰?
しおりを挟む「ミリアナ! ミリアナ・グレウス・ユウレンド!」
「はい! 今、行きます!」
ミリアナは洗い物の手を止めて、大きな声で返事をした。
院長先生は意地悪ではないが、お行儀にとても厳しい人だ。ミリアナはすぐに手を拭いて院長室へ向かう。
ドアをノックすると「お入り」の声。
「お呼びでしょうか? 院長先生」
大きな椅子に座ったロレン院長は表情を変えずにうなずき、部屋の中にいる別の人物へと視線を向ける。
仕立てのいい服を着た背の高い男性だ。初めて見る。ウモグル村の人ではない。
先ほど訪ねて来たお客様だろう。
とても落ち着いていて品があり、知性をうかがわせる顔立ちの紳士ね。
「こちらがミリアナ・グレウス・ユウレンドですわ。お探しの人物でしょうか?」
院長にうながされた男は、ゆっくりとミリアナの方へ向き直る。
オールバックにした髪は光沢のあるプラチナブロンドで、目はアイスブルー。少し変わった形の耳をしている。
「ふむ」
そう言ったきり、ミリアナの全身を上から下まで何べんも眺め回す。
少しクセのある赤毛を三つ編みのお下げにして継ぎを当てたワンピースを着た小さな女の子。それが私。
いやらしい視線ではなかったけど、それでも不快だ。
(院長先生だったら、「そんな風に人のことをジロジロ見るもんじゃありません」、って言うわ。きっと)
ミリアナは心の中でそう思ったが、表情にも声にも出さないように気をつけた。
そういう「失礼」な態度は、院長先生に怒られるに決まってるから。
「君は…」
若いのか年寄りなのかよく分からない男は、疑っているのか困っているのかよく分からない声で聞いた。
「ユウレンド夫妻の子供? 母親の旧姓はドリアード?」
今度は私が困る番だった。
「ええと…私はミリアナ・グレウス・ユウレンドです。それは確かです。でも両親の名前は…。10年前の火事で、ここの古い資料はみんな焼けてしまったんです。それに、もし資料が残っていても、母親の旧姓までは分からないと思います」
「そうか…」
男は心底、困ったように大きなため息をつき、もう一度、私を見た。
「君は……若すぎる」
イラッ
流石の私もイラっとしたね。
ルチャに離乳食を食べさせてる横でモイがおもらしをして、その上、タークとジェンクがオモチャの取り合いでケンカを始めてマイが金切り声で仲裁を始めた時ですら笑顔で乗り切った私だけど、これは失礼だよ。
なんなんだ、この男。
「お役に立てなくて申し訳ありません。ご希望通りの養子縁組が見つかりますよう、幸運を祈っております。それでは、ごきげんよう」
私は馬鹿丁寧に頭を下げて、部屋を出ようとした。
男はあわてて、
「いや、待ってくれ。悪かった。年頃の養子を探しているんじゃないんだ。君を探していたんだよ」
そして小さな声で「たぶん」と付け加えた。
「君がミリアナ・グレウス・ユウレンドであるならば、夫妻は女の子が産まれたらそう名付けると言っていたそうだからね、いや名前が違ったとしても、君がアシェア・レン・ドリアードの娘であるならば、君には資格があるかもしれない」
男は落ち着いた声でそう告げた。
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