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第2章 聖域の蔦苺
聖域でしてはいけないこと
しおりを挟む「あら、真っ直ぐ行かないの?」
「街道をそのまま進めばマホテアに通じているのですがね。あちらにある大きな森が見えますか?」
ルーベンさんが左手前方を指差す。街道の西側に広がる大きな森だ。
「あの森の向こう側にある集落にも立ち寄るのです。少し遠回りですが、質の良い素材を仕入れられるのですよ」
「ふうん」
「ほら、アレがさっき言ってた聖域だよ」
「アレって?」
「森。これから通り抜けるんだ」
デレファンが再度、手綱を操り、馬の鼻先を脇道の方へ向ける。砂利道から分かれた細い道は、森へと続く木立の中へと入ってゆく。
馬車が進むにつれ、周囲の木の密度が増していった。
「いっけない!」
私はあわてて「冒険者入門」を取り出して開いた。
「ええと、…聖域、聖域……」
目次を指でたどる。
『聖域ですべきこと・してはいけないこと』の項目だけでも読んどいて、とデレファンに言われていたのを思い出したのだ。
「忙しかったから読めてないだろ? 口頭で説明するよ。本は後で読めばいい。いいかい? まずは禁止事項からだ」
正面を向いたまま、デレファンが聖域についての注意事項をそらんじる。
「1、」
私はデレファンの声に耳を澄ます。
「…殺人」
ギョッとした。それは聖域じゃなくてもダメだろう。
デレファンは淡々と続ける。
「暴力、脅迫、暴言および、それに準ずる犯罪行為、または犯罪準備行為を禁ず」
聖域だから禁止なのか?、それとも聖域は刑法の適用範囲内という意味なのか?
「2、戦闘。あらゆる戦闘、特に出血をともなうものを禁ず。万が一、野獣や聖獣、暴漢などに襲われ、やむなく応戦した場合は速やかに冒険者ギルドか聖院に報告すること」
ポクポクと蹄の音が辺りに響く。
「3、通行。聖域について熟知する者が同伴しない限り、通行を禁ず。…これは現在では、講習を受けた冒険者か聖職者が一緒ならいいことになっている」
これか。今朝、説明を受けたやつだ。ルーベンさんと目が合うとうなずいた。
「4、採取。草木、岩石、土砂、その他あらゆる物の採取を禁ず。ただし、資格を持つ者が採取許可を受けた資源を適切に採取し、のちに申請を行うならば、その限りではない。…これは本の巻末にリストが載っていて、後で説明するけど、基本的には何も取ったり拾ったりしないで。うっかり拾ったり、体や荷物に乗った場合は聖域に戻すこと」
「わかった」
「空気も吸ったらちゃんとはいてね」
「ふふ。わかった」
マグリーが隣で「出たよ、冒険者ジョーク」と呆れ顔。どうやら定番のネタらしい。
「5、破壊。故無く聖域内の物を傷付けることを禁ず。通行の妨げとなる障害物を撤去した場合などは、速やかに冒険者ギルドか聖院に報告すること」
その時、馬車の車輪の下でパキッっと小枝が折れる音がした。
「はい、破壊!」
マグリーが指差し確認。
「あはははは……そんなぁ…くくく」
笑いが止まらない。デレファンは少し困った顔だ。
「そうなんだよ、この(5)はなぁ…。まあ、常識的な範囲で」
「滑って転んでぶつかって、遺跡を壊してしまった時なんかに報告するんですよ」
と、ルーベンさんが助け舟を出す。
「遺跡があるの?」
「場所によってはね。この森にも所々にあるようです」
「西の方にある小さめの聖域は、中央の遺跡が外からでもよく見えるよ。壁の一部とガレキが残ってるだけだけど」
「へぇ~」
どうやら聖域というのは森だけではないらしい。大きな塔の周辺や湖そのものが聖域になっていることもあるそうだ。
「それから、6、魔法。強力な魔法の行使、および魔力の放出を禁ず。ただし命の危険に対応する場合や、聖域の魔力磁場に影響を及ぼさない程度の知覚魔法や精霊魔法、神聖魔法はその限りではない。以上!」
聖域でしてはいけないことの説明が終わった。
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