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第2章 聖域の蔦苺
聖域ですべきこと
しおりを挟む「次は、聖域ですべきこと、だ。してもいいこと、って言うべきかな?」
ひと呼吸おいてから続ける。
「1、祈り。聖域への感謝の祈りは、いついかなる時も推奨される」
それを聞いた私はすぐに胸の上で手のひらを重ねて目をつむった。聖域と、豊穣と慈愛の地母神・ファーティエン様に感謝の祈りを捧げる。ルーベンさんも片手を胸に置いて略式の祈りを捧げていた。ルーベンさんが信奉するのは、商業と交換の神・クッセナッシ様かもしれない。
「2、…ここから先は、資格持ちに先導されて聖域に入った場合の事例になる。えー、2、飲食。食料および飲料水を摂取することは、これを禁じない。聖域内で採取可能な食料および飲料水の現地での摂取は、適量ならばこれを禁じない」
「ん? んんん?」
反対の反対の反対、みたいに頭がこんがらがる。
「持って行った弁当を聖域内で食ってもいいよ、ってことだ。ただし食いカスやゴミは、持って帰るか穴を掘って埋める」
「兄さんが一緒なら木の実を採って食べてもいいんだ。後で場所を教えるよ。美味いよ」
「持って帰れば売れるしな」
「そうなの?」
「ただし採取可能な素材は決まってるから、許可した物以外は絶対に手を出すな」
「わかった」
大きくうなずいて見せる。
「よし。じゃあ、3、記録。何かを発見した時、異変を感じた時などには必ず記録し、冒険者ギルドか聖院に提出すること。有益な情報には謝礼が出る場合もある。…まあ、滅多に出ないけどな。新しい遺跡や飲める湧き水などを発見した場合には出るようだ」
「聖域の水? なんだか飲んだら体に良さそう」
「魔法の効力が宿った水が湧き出る場所もある。ただし町で売ってるのはニセモノが多いから注意な。聖院で売ってるのは……どうだろう。まあ、場所によるかな?」
それは、聖院でも偽物を売ってる場合があるって意味だろうか。う~ん、世知辛いなぁ。
聖院は、特定の神様を祀る神殿とは違い、聖属性魔法全般と聖域に関する業務を管轄としている。
でも一応、聖職者のはずなんだけど。
「4、詩歌。美しい詩の朗読、歌唱、および楽曲の演奏は節度を持った音量にて奉納されるべし」
その項目に、マグリーが茶々を入れる。
「美しい歌詞の歌を音痴が歌った場合はどうなんの?」
「マグリー、それはマジに議論の対象なんだ。何を美しいと認めるか?って問題もある。今のところ、悪意のない歌詞、真摯な態度、清潔な身なりであれば問題はないだろうって判断になっている。楽しく歌う方がいいという人もいる」
と、真面目な表情でデレファン。
「ふうむ。詩歌の愛好家が聖域に集まって詩の朗読会を行うこともあるようですな。芸術的な創作には、聖域での散策が非常に有効だと主張する作家達もいるようで」
ルーベンさんがあご髭をなでつつ言うとデレファンは振り返り、
「いるっつーか、奴らは本気でそう信じ込んでいるね。そのために冒険者の資格を取った劇作家までいる。ツアーの護衛依頼も結構あるよ。ひんぱんに聖域を訪れて歌の修行や詩作にふけるのさ」
「そういえば、前にウモグル村に興行に来た歌手が『私は聖域で修行を重ねた』って言ってた。そういう意味だったのね」
「ステータスなんだよ、彼らの」
デレファンは少し馬鹿にした様に肩をすくめたが、私の意見は違った。
「こんなステキな場所で過ごしたら、美しい詩ができるわ、きっと」
説明を聞いている間に、馬車はすでに森の奥へと入り込んでいた。
風に揺れる木の枝からは、サワサワという葉ずれの音。
きらめく木漏れ日。小鳥のさえずり。
ここはもう聖域の中。
さっき道の脇に立っていた看板には、聖域であることを示すマークが描かれていた。
「以上だ。備考として、火気注意。ゴミや排泄物を埋める穴は獣が掘り返さないよう深めに掘ること。許可なく個人的な貯蔵場所や栽培地として利用しないこと。不用品の投げ捨て禁止、かな。決まりを破ると罰金や逮捕もある」
聖域内は火気厳禁かと思ったら、そうではないらしい。
私達はフレイムホースが引く馬車だから早いが、徒歩で横断すると何日もかかるような聖域もある。今、通過中の「大森林」もそうだ。この森の南側はマホテアからも見えるという。それほど大きく広がっているのだ。
だから暖を取ったり煮炊きをしたりも可能なんだそう。
ただし火の後始末は確実に。そして灰は置いていくこと。
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