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第2章 聖域の蔦苺
闇と光と暁と
しおりを挟むルルーシェは保存箱の中の薬草を選り分け、必要な薬草を取り出した。背負っているカバンから金属製のカップを取り出し、薬草の隣に置く。
『水よ、風と共に舞う小さな水よ。集まりて姿を見せよ』
目の前に、ビー玉のような球体が現れた。
だんだん大きくなり、タプン、と揺れる。水だ!
その水で両手を清め、手ぬぐいで拭く。
「材料があるから急いで魔法薬を作りましょう。その方が効果が高くて早く効くの」
「土蟲にかじられた手や足は腐って落ちるって聞いたけど…」
「ホント? マグリー!」
「腐った肉を食べるから、口の中に腐れの素が一杯なのよ。でも、それは大丈夫。傷が腐らなくなる塗り薬は持ってるし、魔法薬にもその効果があるから。問題は毒なの。土蟲のノドの奥には特別な歯があって、強い毒を持ってるのよ」
薬草を両手で揉んでいたルルーシェは突然、声の調子を変えてささやく。
『風よ、小さなつむじ風。私の手の中にある香草を細かな欠片にしておくれ。念入りにまとめて散らかさぬように。香りの汁を一滴も逃さぬように』
エルフ語のようだ。意味は分からないが詩のような抑揚だ。
するとルルーシェさんの両手の中で薬草が渦を巻き、切り刻まれていった。大量の薬草がすり鉢ですり潰したようにねっとりとした塊になる。
それを下に置いたカップに入れ、水筒から泉の水を注いで混ぜる。
『光よ、命を巡る暖かき光。寄りて留まれ、香りの水に。闇よ、痛みを忘れる眠りを連れて、しばし留まれ香りの水に。暁の女神よ、癒しのレンファーレ、両の腕に光と闇を優しく抱きたまえ。癒しの水に祝福を』
「あ、カップの中の水が…」
「光った!?」
虹色の光はすぐにおさまり、薬草を混ぜた泉の水は金色に輝く透明な液体になった。
その上澄みを、ゆっくりとデレファンに飲ませる。
デレファンは血の気のない顔で小刻みに震えていたが、とろりとした金色の液体を飲むと少し楽になったようだ。震えが止まり、呼吸が深くなる。やがて目を閉じて眠り始めた。
「……兄さん?」
「体力の消耗を防ぐために眠らせたの。傷を直して体力を回復させ続ければ、少し時間が稼げるわ」
「これで治ったんじゃないの?」
デレファンの腕にできた傷の血は止まり、すでにふさがりかけている。しかし腫れはより一層ひどくなり、ドス黒い紫色に変色していた。
「毒を抜かないと…。土蟲の毒は猛毒なの。普通の毒消しじゃ消えないのよ……そうだ、ルーベンさんは魔法薬は扱ってない?」
「ない」
マグリーが断言する。
「あるのはせいぜい、普通の軟膏とか咳止めとかだ。魔法薬や魔法の道具は扱ってない。もし、あるとしたら明日寄る予定のホルスト郷だな。あそこは魔法の素材が多く集まるから魔術師や魔法薬を作る薬師もいるし…」
「傷が治っても、このままじゃデレファンは半日ともたないわ。毒が体を中から壊してゆくの。魔法薬は飲み続けると効果が弱くなっていくから、いずれ効かなくなる…。猛毒にも効く蔦苺の実さえあれば…!」
「花ではダメなの? さっき、蔦苺の花なら見かけたよ」
「何ですって?」
ルルーシェが驚いて聞き直す。
「うん、俺も見た。外にあったよ」
「残念だけど、花ではダメなの。新芽なら毒の効きを抑える薬が作れるけど、ザルに山ほどの新芽が必要だし抽出に一晩はかかる。完熟した実なら、そのまま潰して果汁を飲ませるだけでも効果があるのに…」
一晩かかるとなると、薬ができる頃にはデレファンの身体中に毒が回っているだろう。
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