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第2章 聖域の蔦苺
喰う本能
しおりを挟む崩れ落ちる土蟲の体から飛び降り、器用に着地するデレファン。
地面に散らばる蔦苺のツタを避けながら私の方に近づいてくる。
「デレ…ファ…」
起き上がろうとする私をデレファンが止めた。片膝をついて私をのぞきこむ。
「動くな! 頭を打ってるとマズイ。どこが痛い? 今、治療を……」
—— その時、
「兄さんッ!!」
「デレファン、後ろッ!!」
デレファンごしに見える土蟲がわずかに頭を上げ、丸く口を開けた。
ゲハアッ!
口から飛び出す肉塊。舌だ!
「何……ッ!?」
デレファンが素早く私を見る。
避ければ私に当たる…
「く…ッ!」
急いで短剣を逆手に持ち替え、舌を斬り払う。
だが刃の長さが足らず、切り落とすまでにはいかなかった。
ちぎれかけた舌はデレファンを吸着して丸く開けた口の中に引きずり込む。
「クソッタレ!」
再度、短剣を振るう。
飲み込まれかけながらも今度こそ舌を切り落とし、何とか魔獣から離れる。
「ウィンドカッター!」
ルルーシェの声と共に風が巻き起こり、土蟲の胴体を切断する。
真っ二つになった土蟲はもう動かない。
「あの状態でまだ食べようとするなんて……生命力が強い魔獣ね」
「ルルーシェ、ミリアナを診てやってくれ」
「ええ、もちろん!」
ルルーシェはミリアナに走り寄り、呼吸を確認する。
片手を胸の辺りに当て、もう片方の手を額に当てた。
(…くうっ、ふっ、………あ…!)
温かいものが体を巡り、呼吸が楽になる。
「大丈夫。体内の魔力に異常はないわ。少し休めば普通に動けるようになると思う」
「そうか、良かった」
「ぶつけた所がアザになってるけど、後で薬を……デレファン! その腕!!」
ルルーシェが叫び声を上げる。
デレファンの右腕からは血が滴り落ちていた。
左手で肘の上辺りをキツく握りしめているが、その下の裂傷からは、絶え間なく血が流れている。
「兄さん、それ!?」
「ああ……ノドの奥の歯にやられた」
「!! あの牙は猛毒の……デレファン!」
「……後を、頼む」
そう言ってデレファンは崩れ落ちるようにその場に座り込む。体が小刻みに震え、脂汗をかいている。
「なんて事! マグリー、外にデレファンの保存箱が置いてあるから持ってきて!」
「わかった!」
ルルーシェはデレファンに手を貸してその場に寝かせる。目がうつろだ。意識も急激に混濁し始めたらしい。息も荒い。
ナイフで袖口を割き、傷口をあらわにする。
「ヒドい…」
ザックリと切られている。
「うう……うぐっ…」
「我慢してね」
毒を絞り出すように傷をしごく。だいぶ血が流れたが効果のほどはわからない。みるみるうちに、右腕は紫色に腫れ上がっていく。
ルルーシェは水筒を取り出し、傷口を水で洗った。中身は聖域の泉の水だ。汚れを落とすだけではなく、少しは回復作用も期待できる。
だが、すぐになくなった。
「もう! おいしいからって、こんなに飲むんじゃなかったわ!」
私は慎重に体を起こし、自分の水筒を差し出す。
「ルルーシェさん…、私の、まだ残ってる…」
「ありがと。もう大丈夫?」
「はい。背中は…まだ少し痛いけど」
そこへ薬草で一杯の保存箱を下げたマグリーが走りこんできた。
「これ!」
「ありがとう」
保存箱を受け取りながら、ルルーシェの顔が曇る。
「今日は……蔦苺の実は見かけてないわよね?」
「ない」
マグリーは首を振る。
「少し時期が早いからな」
「アレがあれば土蟲の猛毒も治せるのに…」
ルルーシェは悔しそうだ。
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