世界樹の管理人

浅間遊歩

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第4章 新しい管理人

マホテアの夜

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「そんでそんで、このデッカイのが~」

 ティピに引っ張られて、兜を抱えたスケイルアーマーの戦士がやって来た。

「…うちのパーティリーダーのバルディアスね。こう見えて怖くないから何でも相談しな」
「よろしく」

 バルディアスは簡潔に挨拶をすると握手を求めて来た。金茶の目と髪がライオンを思わせる。

「で、こっちの顔を隠してんのがカルツェ~」
「別に隠してるわけじゃない。まぶしいのが苦手なだけだ」

 バルディアスの隣にいた背の高い細身の男がフードを払う。
 銀髪の毛先を水色に染めている。
 切れ長の目にとがった耳。エルフだ。…たぶん。
 ルルーシェさんの言う通り、見慣れたら見分けがつくようになってきた。

「そんでもって、あっちにいる下品なのがディゴリー」
「うるせえ、ドブネズミ!」

 ティピは両手の人差し指でポーズをつけて、両手持ちの剣を背負った金髪の大男を指差す。ディゴリーは、受けて立つ、とばかりに中指を立てて怒鳴った。
 その隣では姿勢の良い青年がクスクスと笑っている。

「僕はスオウ。世界樹ここには全部で20人、住んでる。ようこそ、新しい管理人さん。良ければ世界樹の「中」を案内するよ」

 興味津々な住人達と一緒に、ミリアナは世界樹に入ってゆく。
 前庭には、レグアーデ卿と配下の者たちだけが残された。


 夜。
 大都市マホテアであっても、夜は闇が深い。
 大通りにはガス灯が灯っているが、個人で利用できる明かりは、蜜蝋か獣脂のロウソク、油を入れたランタン、魔法結晶を利用した魔道具など狭い範囲を明るくする物だけ。しかも、どれも高価で気軽に利用できるものではない。

 レグアーデ卿は、いっそ明かりなどなくなってしまえばいい、と思った。
 毛足の長い絨毯に押しつけるように頭を下げた自分の姿が相手の目にどのように映っているのか…
 ここでは魔道具の明かりがふんだんに使われ、昼間の太陽のような明るさで、おのれのみっともない姿を照らし出している。

「…それで?」

 冷たい声が背中に降りてくる。

「…世界樹に新しい管理人が決まったと、国王陛下からの公示が出た」

 ゆっくりと、諭すように。

「それを聞いた時の、余の気持ちが分かるか? ん?」

 レグアーデ卿は返事ができない。汗は流れるが口が乾き、ノドが貼り付く。

「さすがレグアーデ卿、良くやった、と内心喝采を送ったわ。だが、聞けば、それはまだ年端もいかぬ子供だと言うではないか」

 王宮は大混乱だった。
 飾り羽根を長くたなびかせた金色に光る鳥が大広間に現れ、王座へと向かったのだ。
 若い衛兵は血相を変えたが、年季の入った上官がそれを制止する。
 鳥は自らの来訪を告げるように2、3度声高く鳴き、王座の隣に置かれた止まり木に舞い降りた。
 精霊王と呼ばれる、精霊王国アルフヘイムのエルフの王の勅使であった。
 その存在も人々を驚かせたが、運んできた知らせはもっと人々を驚かせるものであった。
 精霊王からの報告を受け、アルガスト王国国王も新しい管理人を追認し公示を出した。

「いまだ、あの地を治める者がエルフによって選ばれるとは、忌々しいことよ」

 淡々とした声。

「その場に居たのであろう? 意義申し立てはできなかったのか?」
「指輪を……持っておりました」
「何?」

 初めて、声に感情が混じる。
 レグアーデ卿は、頭を上げることなく続ける。

「皆の前で、郵便受けを開けて見せました。わたくしめが管理人となった暁には、すぐさま魔技工士をやって解析、鍵の指輪の複製を作る予定でしたが…」
「【もう1つの指輪】、か?」
「おそらく…」

 しばし沈黙。

「10年前、手を尽くして探し回ったが、とうとう見つからなかったと言うに。一体、どこから湧いて出たのか……」

 マホテアの夜は静かにふけてゆく……
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