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二十八【断罪】
しおりを挟む数日後。
王宮の玉座の間には、国王陛下、大臣、そして有力貴族たちが一堂に会し、荘厳な、しかし凍えるように張り詰めた空気が満ちていた。
これは、エミリア・ブラウンの断罪裁判の場だった。
玉座の前に引き出されたエミリアは、純白のドレスに身を包み、震えながら涙を流していた。最後まで、そのか弱さで同情を買おうとしているのだ。
その隣には、顔面蒼白のアレスが、全ての気力を失ったように、虚空を見つめて立っている。
「……では、これより、裁きを始める」
国王の厳かな声が響き渡る。
宰相が立ち上がり、調査によって明らかになった事実を、淡々と読み上げていった。
「エミリア・ブラウンは、王太子殿下の寵愛を盾に、複数の商人との癒着を繰り返し、不正に蓄財を行っていた。その額は、実に金貨五千枚に上る。これは、断じて許されざる、国庫横領の罪である!」
次々と提示される、帳簿や商人たちの証言といった、動かぬ証拠。
エミリアは、それに反論することもできず、ただ「違うのです、私は騙されたのです……!」と泣き崩れるばかりだった。
だが、もはや誰も、その涙に同情する者はいなかった。
全ての証拠が開示された後、国王が、アレスに向かって静かに問うた。
「アレス。何か、言うことはあるか」
「……」
アレスは、力なく首を振るだけだった。
彼にはもう、何も言うべき言葉も、守るべきものもなかった。信じていた愛は偽りであり、自分の愚かさが、全てを招いたのだ。
国王は、深く、失望のため息をついた。
そして、玉座から立ち上がり、裁きを言い渡す。
「エミリア・ブラウンを、国庫横領及び、王家を欺いた罪により、終身、北の塔に幽閉するものとする!」
エミリアが、「いやぁぁぁ!」と悲鳴を上げて、その場に崩れ落ちた。
「そして!」
国王は、息子であった男に、非情な視線を向けた。
「王太子アレス! お前は、人を見る目がなく、国政を顧みず、己の感情のままに国を危機に陥れた! その罪、万死に値する! よって、本日をもって、お前を王太子の座から廃嫡し、一貴族として、王宮より追放することを申し渡す!」
廃嫡。
その言葉が、玉座の間に重く響き渡った。
アレスは、その言葉の意味を理解できないかのように、ただ呆然と立ち尽くしていた。
こうして、偽りの『真実の愛』を追い求めた二人の物語は、最も惨めな形で、完全な終幕を迎えた。
列席していた貴族の末席で、その裁きの一部始終を見届けていたリノエルは、何の感情も抱かなかった。
ただ、これでようやく、全てが終わったのだと、静かに思っただけだった。
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