王太子妃の座を失った悪役令嬢は夜会を去った

きららののん

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シスター・マリーの言葉が、鐘の音のように頭の中で鳴り響いていた。

『反省とは、未来をどう生きるか、その道を考えることです』

わたくしは、礼拝堂の硬い床に膝をついたまま、その言葉の意味を必死に噛み砕こうとしていた。

今までは、ただ過去を悔やみ、自分の罪の重さに打ちひしがれることしかできなかった。それが、唯一の償いだと思い込んでいた。でも、シスター・マリーは違うと言う。それはただの自己満足で、未来から目を背けているだけだと。

(未来を、どう生きるか……)

わたくしに、未来などあるのだろうか。公爵令嬢ニーナ・クロウドとしての未来は、あの夜会の日に完全に絶たれた。今は、名もなき修道院の見習い。この先も、ずっとここで、誰にも知られず朽ちていくだけだと思っていた。

でも、もし。もし、わたくしにも「明日」を生きることが許されるのなら。

「……神よ」

自然と、祈りの言葉が口をついて出た。

「もし、この罪深きわたくしにも、明日をお与えくださるのでしたら……」

今までとは違う祈りだった。許しを乞うだけの、後ろ向きな祈りではない。

「どうか、わたくしに、今日よりも少しだけ、誠実に生きる強さをお与えください」

目を閉じる。脳裏に浮かぶのは、わたくしが傷つけてきた人々の顔。エドワード様、アメリア、そして両親。彼らに直接謝罪することは、もう叶わない。

「わたくしが出会う、誰かのために。何か小さなことでも、為すことができますように。その行いが、わたくしの罪の、ほんのわずかな償いとなるように、お導きください」

顔を上げた時、ステンドグラスから差し込む光が、前よりも少しだけ暖かく感じられた。

わたくしは、ゆっくりと立ち上がった。

(まずは、明日の仕事から)

心の中で、小さな決意をする。明日のわたくしの仕事は、厨房でのパン作りだった。

(食べる人のことを考えて、心を込めて作ろう。それが、今のわたくしにできる、最初の「誠実」だ)

礼拝堂を出る足取りは、ここへ来てから、一番しっかりとしていた。未来がどうなるかなんて、まだわからない。けれど、ただ闇雲に過去を悔やむのは、もうやめにしよう。

わたくしは、明日を生きるのだ。そう、決めた。
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