王太子妃の座を失った悪役令嬢は夜会を去った

きららののん

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新しい生活のリズムにも慣れてきたつもりだったが、知らず知らずのうちに、無理を重ねていたらしい。

ある朝、目が覚めると、体が鉛のように重かった。頭が割れるように痛み、ひどい悪寒がする。

(……熱……?)

立ち上がろうとしたが、足に力が入らず、そのまま床に崩れ落ちてしまった。

どうやら、高熱を出してしまったようだ。この家には、わたくし一人しかいない。助けを呼ぶ声も出せず、ただ、荒い息を繰り返すことしかできなかった。

意識が、朦朧としてくる。このまま、ここで、一人で死んでいくのだろうか。そんな考えが、頭をよぎった。

どれくらい時間が経っただろうか。

不意に、ぎぃ、と、家の扉が開く音がした。

(……だれ……?)

薄目を開けると、逆光の中に、大きな人影が立っていた。村の誰かが、様子を見に来てくれたのだろうか。

人影は、黙って部屋に入ってくると、水の入った桶を床に置く、ごとり、という音を立てた。そして、冷たい水で絞ったらしい布が、熱い額に乗せられる。

その心地よさに、思わず、安堵のため息が漏れた。

「……むり、するからだ。馬鹿者」

聞こえてきたのは、低く、ぶっきらぼうな声。

「……りあむ、さん……?」

なぜ、彼がここに。

驚く気力も、疑問を口にする力もなかった。ただ、彼がそばにいてくれるという事実が、心細さでいっぱいだった心を、少しだけ落ち着かせてくれた。

彼は、その後も、何も言わずに、薪を暖炉にくべ、時々、わたくしの額の布を冷たいものに替えてくれた。

意識が、遠のいたり、戻ったりを繰り返す。その間、リアムは、ただ静かに、そこに座っていた。

夜が明ける頃、あれほど高かった熱が、少しだけ引いているのを感じた。

「……あの……」

かすれた声で呼びかけると、暖炉のそばでうたた寝をしていたらしいリアムが、はっと顔を上げた。

「目が、覚めたか」

「ありがとう、ございます……。助かりました」

心からの礼を言うと、リアムは気まずそうに視線をそらし、立ち上がった。

「……薬草粥だ。食えるだけ、食え」

そう言って、暖炉にかけられていた小さな鍋をわたくしの枕元に置くと、彼は逃げるように部屋から出て行ってしまった。

残された鍋からは、優しい湯気が立ち上っていた。その温かさが、弱った体に、じんわりと染み渡っていくようだった。
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