王太子妃の座を失った悪役令嬢は夜会を去った

きららののん

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リアムさんに看病してもらった、あの日から。

彼と村の道で会うと、以前とは違う、少し気まずいような、でも、どこか穏やかな空気が流れるようになった。

わたくしから、ぺこりと頭を下げると、彼も、ぶっきらぼうにこくりと頷きを返してくれる。それだけの関係。でも、わたくしにとっては、大きな進歩だった。

井戸で、重い水桶を二つ、一度に運ぼうとして四苦八苦していると、どこからともなく彼が現れた。

「……貸せ」

有無を言わさず、片方を持ってくれる。

「あ、あの、いつもすみません……」

「……別に」

返事は、いつもそっけない。でも、以前のように突き放すような冷たさは、もう感じなかった。

二人で並んで、黙って歩く。不思議と、その沈黙は苦ではなかった。むしろ、彼の大きな背中が隣にあることに、奇妙な安心感を覚えている自分がいた。

彼のぶっきらぼうな態度は、きっと、人付き合いが苦手なだけなのだ。根は、あの薬草粥のように、温かい人なのだと、わたくしはもう知っていた。

ある日、わたくしが森で薬草を摘んでいると、狩りの帰りらしいリアムさんに出会った。

彼は、わたくしの籠の中を一瞥すると、少しだけ考え込むような素振りを見せ、やがて、顎で森の少し奥を指し示した。

「……あっちの岩陰に、もっといいのがある」

「え?」

「解熱用の薬草だろ。ここのより、効き目が高い」

「……!ありがとう、ございます!」

思わず顔を上げると、彼は少しだけ驚いたように目を見開き、そして、すぐにぷいと顔をそらして、行ってしまった。

彼の耳が、少しだけ赤くなっていたような気がしたのは、きっと気のせいではないだろう。

言葉は少ない。けれど、確実に、何かが変わり始めていた。

凍てついていたわたくしの心を、ゆっくりと溶かしてくれた、この村の暮らし。そして、彼の存在。

わたくしは、摘んだばかりの薬草を胸に抱きしめながら、リアムさんの消えていった森の奥を、しばらく見つめていた。彼の不器用な優しさが、春の日差しのように、わたくしの心を照らし始めていた。
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