王太子妃の座を失った悪役令嬢は夜会を去った

きららののん

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村が、一年で最も活気づく収穫祭の日がやってきた。

広場には長テーブルが並べられ、村の女たちが腕によりをかけた料理が、所狭しと並べられていく。男たちは、大きな樽からエールを注ぎ、陽気な歌声を響かせている。

わたくしは、宿屋のカーラさんに言われるがまま、厨房でパイ作りを手伝っていた。

「ニーナ、あんたの作るハーブ入りのパイは、村の男たちに大人気だからね!たくさん頼むよ!」

「はい、お任せください!」

小麦粉で顔を白くしながら、わたくしは笑顔で答えた。

最初は、この賑やかな輪の中に、自分が入って行っていいものか、戸惑いがあった。けれど、村の誰もが、当たり前のようにわたくしを仲間として扱ってくれた。

「ニーナちゃん、こっちのシチューも味見しておくれ!」

「まあ、お肉がとろけるように柔らかくて、とても美味しいです!」

村の奥さんたちと、そんな会話を交わす。かつての王宮の夜会とは、全く違う種類の、温かくて、心の通う交流がそこにはあった。

陽が落ち始め、広場に焚かれたかがり火が、人々の顔を赤く照らし出す頃。どこからか、楽しげなフィドルの音色が聞こえてきた。ダンスの始まりだ。

「ニーナ先生、一緒に踊ろう!」

わたくしの手を取ったのは、刺繍教室の生徒である子供たちだった。

「えっ、わたくし、このような踊りは……」

王宮で習ったのは、決められたステップを踏む、優雅なワルツだけ。手を取り合って輪になる、こんな陽気な踊りは、初めてだった。

しかし、子供たちにぐいぐいと引っ張られ、気づけばわたくしは、村人たちの作るダンスの輪の中にいた。

ぎこちないステップで、何度も足がもつれる。でも、周りの誰も、それを笑う者はいなかった。むしろ、「そうだ、上手だぞ!」と声をかけてくれる。

くるりと回った瞬間、輪の外にいるリアムさんと、ふと、目が合った。

彼は、相変わらず輪の中心には加わらず、少し離れた木の幹に寄りかかって、こちらの様子を眺めていた。

その口元に、かすかな笑みが浮かんでいるように見えた。

わたくしも、彼に向かって、少しだけはにかんで微笑み返す。

お祭りの喧騒の中で交わされた、ほんのわずかな視線のやり取り。

わたくしはもう、孤独なよそ者ではない。この村の一員として、ここにいる。その事実が、胸をいっぱいに満たす、幸せな夜だった。
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