王太子妃の座を失った悪役令嬢は夜会を去った

きららののん

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店のカウンターで、薬草を調合する。窓の外では、子供たちが元気に走り回り、村人たちが穏やかに挨拶を交わす。すっかり見慣れた、愛おしい日常の風景。

その穏やかな空気を切り裂くように、不釣り合いな音が村に響き渡った。馬蹄の音と、車輪のきしむ音。それも、一頭や二頭ではない。

村人たちが、何事かと家の外へ顔を出す。わたくしも、手を止めて、店の窓から通りの方を見た。

そして、目を疑った。

村の入り口に止まったのは、金色の鷲の紋章が輝く、壮麗な王家の馬車だった。護衛の近衛騎士たちも、見覚えのある者たちだ。

馬車から降りてきた人物を見て、わたくしは息をのんだ。

白髪の混じった髪をきっちりと撫でつけ、高価な礼服に身を包んだ、痩身の老人。この国の政治を、何十年にもわたって動かしてきた、宰相その人だった。

彼は、辺りの寂れた風景を見渡し、わずかに眉をひそめた後、わたくしの店を見つけると、まっすぐにこちらへ向かってきた。

村人たちが、緊張した面持ちで、遠巻きに道を開ける。

やがて、店の前で立ち止まった宰相は、信じられないものを見るかのように、わたくしをじっと見つめた。

「……ニーナ、様……。本当に、あなた様でございますか」

その声は、驚きと、安堵と、そしてわずかな憐憫で震えていた。

「このような、場所に……おいででしたか」

「ご無沙汰しております、宰相様」

わたくしは、静かに頭を下げた。エプロン姿のまま、落ち着き払っているわたくしの態度が、かえって彼を動揺させたようだった。

彼は、はっと我に返ると、威厳のある声で言った。

「お話がございます。さあ、ニーナ様、王都へお戻りください!エドワード殿下が、国が、あなた様を必要としております!」

その声は、村中に響き渡った。

村人たちの間に、動揺が走るのがわかった。王都へ?ニーナを?

辺りを、一瞬にして、張り詰めた空気が支配した。穏やかだった村の昼下がりは、この王都からの使者によって、終わりを告げたのだった。
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