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わたくしは、宰相を店の中へと招き入れた。リアムさんが作ってくれた、頑丈な木の椅子に、彼は戸惑いながらも腰を下ろす。
「どうぞ。旅でお疲れでしょう」
差し出したのは、王宮で出されるような高級な紅茶ではない。この村で採れたハーブを使った、素朴な薬草茶だ。
宰相は、それに口をつけることなく、切々とした口調で語り始めた。
「ニーナ様。あなた様が王宮を去られてからというもの、国政は混乱を極めております。エドワード殿下も、心労が絶えませぬ。全ては、我々の過ちでございました。どうか、過去のことは水に流し、我々をお助けいただきたい!」
彼は、深く頭を下げた。この国の最高権力者の一人が、こんな辺境の村の、小さな店の主人に。滑稽な光景だった。
わたくしは、彼の話を、ただ静かに聞いていた。
彼の言葉から、王宮がいかに大変な状況にあるのかが、手に取るようにわかった。わたくしが担っていた仕事、わたくしが調整していた人間関係、それら全てが、今や破綻しかけているのだろう。
「国母となるべきは、あなた様をおいて、他にいないのです。さあ、ニーナ様、我々と共に、王都へ」
宰相が、懇願するようにわたくしの手を取ろうとした。
わたくしは、そっとその手を制し、静かに、しかし、はっきりとした声で言った。
「宰相様。遠路はるばるお越しいただき、恐縮です。お言葉も、身に余る光栄に存じます」
一呼吸置いて、わたくしは続けた。
「ですが、お断りいたします」
「な……!なぜですかな!?国母となる、その輝かしいお立場を、自ら捨てるというのですか!」
宰相が、信じられないというように声を上げる。
わたくしは、ゆっくりと立ち上がり、店の窓から、外の景色を見つめた。そこには、心配そうにこちらをうかがう、村人たちの顔があった。
「わたくしの居場所は、もう、王宮にはございません」
わたくしは、彼らに向かって、小さく微笑みかける。
「わたくしの居場所は、ここでございます。この村で、大切な人々と共に、生きていく。それが、わたくしの決めた道なのです」
その声には、一片の迷いもなかった。
「どうぞ。旅でお疲れでしょう」
差し出したのは、王宮で出されるような高級な紅茶ではない。この村で採れたハーブを使った、素朴な薬草茶だ。
宰相は、それに口をつけることなく、切々とした口調で語り始めた。
「ニーナ様。あなた様が王宮を去られてからというもの、国政は混乱を極めております。エドワード殿下も、心労が絶えませぬ。全ては、我々の過ちでございました。どうか、過去のことは水に流し、我々をお助けいただきたい!」
彼は、深く頭を下げた。この国の最高権力者の一人が、こんな辺境の村の、小さな店の主人に。滑稽な光景だった。
わたくしは、彼の話を、ただ静かに聞いていた。
彼の言葉から、王宮がいかに大変な状況にあるのかが、手に取るようにわかった。わたくしが担っていた仕事、わたくしが調整していた人間関係、それら全てが、今や破綻しかけているのだろう。
「国母となるべきは、あなた様をおいて、他にいないのです。さあ、ニーナ様、我々と共に、王都へ」
宰相が、懇願するようにわたくしの手を取ろうとした。
わたくしは、そっとその手を制し、静かに、しかし、はっきりとした声で言った。
「宰相様。遠路はるばるお越しいただき、恐縮です。お言葉も、身に余る光栄に存じます」
一呼吸置いて、わたくしは続けた。
「ですが、お断りいたします」
「な……!なぜですかな!?国母となる、その輝かしいお立場を、自ら捨てるというのですか!」
宰相が、信じられないというように声を上げる。
わたくしは、ゆっくりと立ち上がり、店の窓から、外の景色を見つめた。そこには、心配そうにこちらをうかがう、村人たちの顔があった。
「わたくしの居場所は、もう、王宮にはございません」
わたくしは、彼らに向かって、小さく微笑みかける。
「わたくしの居場所は、ここでございます。この村で、大切な人々と共に、生きていく。それが、わたくしの決めた道なのです」
その声には、一片の迷いもなかった。
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