盲目だった少年は虹色の現(ゆめ)を見る

Luckstyle

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第一章

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 直後、教国軍は騒然となり神に許しを乞う者、何故か俺に祈る者、右往左往して隊列を乱す者、腰が抜けたのか座り込む者まで現れた。瓦解したと見て良いだろう。
 イッカクさんはそこまで武勇で鳴らした男だったのか。今更ながらに気づくがもう終わったことだと割り切って、昨日試作しておいた中級程度の効能を示す(どのような骨折も治ると鑑定ででた)ポーションをイッカクさんに渡す。
「これは?」
「中級ポーションです。引き摺って行くより楽だと思いまして」
「それならばありがたくいただいておくが、効果が出るまで何日かかかるぞ?」
「そうなのですか?まぁ、下手にくっつくよりはマシだと思うので飲んでみてください」
俺が催促すると、何も疑問も抱かずに喉を鳴らしてゴクゴクと飲んでいく。
「まあ、初めて作った試作品ですけどね」
俺が言うと、イッカクさんはむせかえった。
「こ、小僧・・・・・・!!なんちゅうもんを・・・・・・!!」
思わずと言った風にイッカクさんは立ち上がって柳眉を逆立てつつ詰め寄ってくる。
「ま、まぁ、良いじゃないですか。ほ、ほら、骨折も治ったみたいですし」
「ふぉっ!?」
俺がタジタジになりつつも指摘すると、指摘されてようやく気づいたように目を見開いた。骨折していた足をブラブラさせたり、地面を踏み締めたりして具合を確かめている。
「驚いた。これは本当に中級ポーションか?これほどの回復だと上級ポーション並だぞ?」
「中級ポーションの材料を適切な部位を適切な処理方法で処理しただけですよ?オリジナリティを出すために疲労回復効果を付けたり味をよくしていますが」
「なんとっ!戦神様は物作りの神でもあられたかっ!」
「神様じゃないですって」
おもむろに胸あたりで手を組んで膝を着き始めるイッカクさんに、止してくれと片手をヒラヒラと振る。
 しかし、イッカクさんが取った行動により対峙していた教国軍の大半が投降を申し出てきた。
 これ幸いと俺はそれを受け入れ、ガンジュールさんにその旨を伝えた。


 対峙する軍勢は領軍五百に対し教国軍二千。そこまで来て、ようやくシミュリストルの出番になった。
 開戦直前で両者の緊張感が高まる中、颯爽とエリュシアさんが両軍のちょうど中間まで歩を進めた。
『教国軍に告ぐ。我が加護を与えしこの地へ攻め居るとは何事か!?』
頭の中に響くシミュリストルの声。しかし、不思議な事に発しているのはエリュシアさんだと解る。不思議な体験だ。
「シミュリストル様!何故斯様な地をご寵愛なさるのです!?」
『知れた事。この地に住まう住民は領主を筆頭に信心深く犯罪に対して忌避感が強い。更には向上心も並々ならぬモノがある。斯様な地を寵愛せずして何が神か』
「それならば!教国こそそのご寵愛を授かるのに最も相応しいはずっ!」
『抜かせ。教国は欺瞞に不正、更には私の名を騙った詐欺の坩堝ではないか。知っているぞ?貴様、己が権力欲に目がくらみ娘を聖女に仕立ててアルディー王国へ送り込んだであろう?他にも知っておるぞ?』
「な、なにを・・・・・・」
今まで威勢良く教国軍から声を上げていた男は尻すぼみに声を上げる。
『この地へ挙兵を提案したのもお主であろう?一ヶ月前、わざわざ私が啓示を持って止めさせようとしたのに。そこで私も愛想が尽きたわ。現刻をもって、この領地を破門したシルヴァーニ教国を破門とする!』
「な・・・・・・な・・・・・・な・・・・・・っ!?」
「現刻をもって」の所でエリュシアさんはシミュリストルの姿に戻って宣言する。芸が細かい。
『ついでじゃ。この地を治めるガンジュール=レインフェルトを我が夫とするっ!!』
ついでと言いつつ、教国を破門した時より数倍は力を入れてシミュリストルは続けて宣言する。・・・・・・絶対にこっちがメインだよね?
 その宣言に、領軍は鬨の声を上げるが如く沸き立った。対して、教国軍は破門を言い渡されて路頭に迷うかの如く意気消沈している。
 こうなると戦いも何も有ったものではなかった。基本的に領軍は教国軍を捕縛して回る作業が中心だ。そこに俺と美咲の出る幕はなく、早々に宿に戻って良いとのお達しを受けることになった。
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