盲目だった少年は虹色の現(ゆめ)を見る

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第一章

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「我こそは教国随一の武人!イッカク=マラヴィロッツ!この中に武神、戦神を名乗る者が居るのならお相手願う!」
相手の名乗り上げにこちらの全員がどよめく。
 名乗り上げたのは筋骨隆々と表せば良いのか?がっしりとした体型の大男だ。近づけば見上げる事請け合いだ。
 それに対し、俺は前準備をぶっちぎって名乗らずに前に出る。
「お主が戦神か?」
「さてな。名乗った事はない」
「ふむ。・・・・・・さては異文化圏の者だな。出で立ちが違う」
「それは当たりだ」
俺が応えると、おもむろにイッカクさんは跪いて祈りを捧げ始める。
 敵前にしては悠長な事をするんだなぁと思いながら見守り、やがてそれは終わった。
「異文化圏というのに打ち込んでこなかったな」
「そんな無粋な真似、してもしょうがないだろう?」
「喝っ!無粋と申すかっ!興味深い文化を持っておる」
「こちとら二千は数える文化を背負ってるんでね。熟成具合が違うのよ」
「それはますます興味深い。・・・・・・それでは始めようか。後ろも今か今かと待っておる」
「あぁ。そちらの闘気も十分に練り上げられた様だしな」
「言いよる。そちらは一向に練ろうとせなんだ」
「故郷の一派でね。闘気は内に秘め闘志とするんだ」
「ふむ。私には理解できぬが、そう言った教えも在るという事か。ならば、いざ」
「尋常に」
「「勝負っ!!」」
かけ声とともにイッカクさんが動く。目では捉えきれないような動きで俺の横を通りながら腕を鎌に見立てて首を刈に来る。それを後ろに仰け反って躱し、さらに身体を捻ってイッカクさんと体面を正対させていると、振り返って両手で掴みかかってきたので応じるように両手で相手の手を掴む。
 押し返されないようにしていると、喝っ!とイッカクさんが吠えた。
「これが闘志かっ!実に、実に面白い!静から動へ一瞬ですり替わるとは!」
「違うな。これはただの技術だ。静と動を御してこそ業が生まれる」
「なんとっ!これほどのモノを見せながら技術と申すかっ!」
「あぁ、技術だ」
力を込めて押し返すと、イッカクさんはすぐに力比べでは分が悪いと悟ったのか跳びすさって距離を置く。後は追わない。
「闘志とは、言わば負けない戦いを志し、その先に勝利を掴む意志だ。動かないときは全力で動かず、勝機を見れば一気呵成に攻め立てる。だからこそ、静と動を御さねばならない。闘気とは発散させるモノではなく、内に溜込み爆発させるモノだ」
「ふむ。一理ある」
俺が言葉を紡ぐと、得心したようでイッカクさんは今まで放っていた闘気を静め、練り直し始めた。
 多少知識を分け与えただけでそれを実践するのは難しいが、それを平然とやってのけるとは大した度量だ。
「つまりは、こういう事だな!?」
練り上げた闘志を一気に噴出させて殴りかかってくる。先程より素早く、鋭く、そして重い。
 連打される拳を右へ左へ躱し、躱しそびれた拳を左右へいなす。次第に躱す拳が減りいなす拳が増えてきた。
「ぬぉぉぉぉぉ!?」
捌ききれなくはないが、次第に両手が痛くなってきたので突き出された右手を取って引っ張り、その勢いのまま投げ飛ばしてやると野太い悲鳴が上がった。
 着地しやすいように投げ飛ばしたから難なくイッカクさんは両足で着地するが、今の投げ飛ばしで接近戦は不利と悟り、間合いを取って構えを説く。
「よもや力と技術で負けるとは」
「負けを認めるかい?」
挑発すると、ぶるりと頭を横に振り、腰に穿いた大きめの片刃の剣を抜き放つ。それを見て、外野の教国軍がどよめいた。
「無手では確かにお主の勝ちだ。だが、私は一剣士。この剣を取れば無敵よ!」
「ならば、応えねばなるまい」
吠えるイッカクさんに応え俺も穿いていた鞘から硬鞭を抜き放つ。
「面白い武器を持つものよ。殴り飛ばして無力化する武器か?」
「まぁ、そうだな」
「他人の命を気にして叩ききられてもしらにぞっ!」
切りかかってくるイッカクさんに対し、風切り音を捉えて後ろへ引く。
「遅いわぁぁぁぁぁ!」
切り下ろした剣筋よりも速く剣先が跳ね上がってきて更に俺は後ろへ引く。二、三束、髪の先がもってかれた。
 切り上げられた切っ先は一瞬でイッカクさんの腰元に戻り、突き出されてくる。それを左に避けると、今度はそちらへ突きが飛んできた。
 目で追えずに感覚だけで体を捻ると、服が切り裂かれた。体には届いていないが、目で捉えていたら間に合わない。
 どうするか。そんな考えをする間もなく、俺は瞳を閉じた。
 耳は良く音を拾い、肌が敏感になって空気の流れを教えてくれるようになった。
「ここに来て目を閉じるとは!気が狂ったか!?小僧!」
尚も暴風のように剣撃繰り出してくるイッカクさんは俺の行動をどうとらえたのか。勝利を確信した声で俺を小僧呼ばわりし出す。
 フェイントを無視して本命の一撃を魔力で強化した硬鞭で受けると、そこで動きが止まった。
「なに!?」
それでも動きが止まったのは一瞬だった。飛び退き、警戒するようにイッカクさんは間合いを測る。
「今のはまぐれか!?意図的か!?」
「さて」
叫ぶイッカクさんに対し、俺はとぼけるように静かに返す。
 やはり、戦うときは慣れた環境の方が動きやすい。イッカクさんが何を思い、どう動くかが手に取るように分かる。
「ならば!試させてもらう!」
そう啖呵を切ると、イッカクさんは今まで見せた最高の速度で俺へ突っ込み、その勢いのままに大剣をなぎ払う。それを今まで以上の余裕を持って躱し、硬鞭を突き出す。
 狙うは膝の皿。砕けば身動きはとれまい。
「甘いわぁぁぁ!」
俺が突きだした硬鞭に狙いの足を乗せ、そのまま俺を飛び越していく。置き土産に頭をかち割るような斬撃まで飛ばしてきた。
 首を傾げてそれを躱すと、振り返る暇もなく横なぎの斬撃が二度、三度と首、胸、腰と狙いを下げながら飛んできた。
 全てをしゃがんでやり過ごし、袈裟切りに飛んできた斬撃を横に転がって躱す。飛んできた斬撃は勢い余って地面をかち割っていた。
「動きが良くなっているな!?」
「そりゃどうも」
イッカクさんの驚きの声に軽く応え、転がった勢いのまま立ち上がる。
 相手の力量も見えてきたし、そろそろ畳むか?
 そんな事を考えつつ、イッカクさんの懐に飛び込んでいって前蹴りを放つ。ごわんと言う音とともにイッカクさんが全力で踏み込んで二足ほど吹き飛んだ。当たったのは狙った鳩尾ではなく咄嗟に阻んできた大剣の腹だ。彼が止まる間を待たずに後ろへ回り込み、今度は左拳で腰あたりの背骨を狙う。
 これも大剣の腹で阻まれた。かろうじて振り返ったイッカクさんは俺の殺気に反応したのか、俺の拳を大剣で受け止める。そこに、右手に持った硬鞭で袈裟に振り抜き、膝を叩いてやった。ゴキリと言う音が手応えを俺に教える。こうなってはもう動けまい。
「ま、参った!」
倒れたイッカクさんを、たっぷり時間をかけて姿勢を正して見下ろすと、そこでようやくイッカクさんが負けを認めた。そこからしばらくして、内の軍から鬨の声が上がるのだった。
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