盲目だった少年は虹色の現(ゆめ)を見る

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第二章

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 次の日。再びガンジュールさんの屋敷に赴いた俺達はガチガチに緊張した三人に客間で出迎えられた。先日のホルエスさん、ハマナちゃん、イヌヅカ君だ。
 改めて自己紹介をし、ついでにイッカクさんの紹介もする。
「あ、あのっ、教国一と噂されるイッカク殿ですかっ!?」
どうやらイッカクさん、割と有名人らしい。ホルエスさんが驚愕の表情でそんな事をつぶやいて、イッカクさんは照れたように頭をかいていた。


 そこからしばし歓談していると、ガンジュールさんがエリュシアさんが淹れた紅茶を、エリュシアさんがガンジュールさんが淹れたハーブティを持って現れた。
 早速、ホルエスさんがガンジュールさんに俺と美咲に引き合わせてくれた事に対して謝意を述べ、ハマナちゃん、イヌヅカ君もそれに続く。
 ガンジュールさんはそこまで畏まらなくて良いと応え、そのついでにとエリュシアさんが淹れた紅茶だと少し自慢げに勧めていた。
 何気なく聞いた話だと、エリュシアさんがシミュリストルだと言うことは噂にも上っていないらしく、この世界の住民達にはシミュリストルがエリュシアさんに乗り移って教国を破門になされたという解釈のされ方をしていた。エリュシアさんはそれが甚だ不服らしく、紅茶を振る舞ってはその場でシミュリストルに変わり、毎度毎度ガンジュールさんを生涯たった一人の伴侶だとわめき散らしていた。
 その行動が功を奏してか、この屋敷に滞在するようになった使用人、騎士達はエリュシアさん=シミュリストルと言うのが完成し、今までと同じように接してくれと言う神の試練に笑顔で応えてくれているとエリュシアさんとガンジュールさんは語っていた。
 さらには町の人たちにもエリュシアさん=シミュリストルの図式は広がりつつあり、神の試練も付随して敬愛されているらしい。元々、語り継がれていた伝承も一癖も二癖もあってなんとも人間くさい感じにできあがっていたので親しみ感はあったらしい。
 さて、どうしてこの話をしたかというと紅茶を入れ終わった側からエリュシアさんがシミュリストルに変わったからだ。
 シミュリストル、本当に悪戯が大好きだ。その事は教典にも記されており、いかなる時も気を引き締め、神の悪戯に備えるよう説かれている。
「ぶっふぉっ!?」
最初に気づいたのはハマナちゃんだった。斥候(スカウト)志望だけあって周りの機微に敏い。
 次いでホルエスさんが気付いたがこちらは噴き出すようなことはせず口に含んだ紅茶を喉を鳴らして飲み込み、一旦ティーカップから口を離してティーカップをソーサーに置いて窓の方に視線を外す。なにやら黄昏ている雰囲気だ。
 最後まで気付いて居なかったのはイヌヅカ君だが、ハマナちゃんが噴き出すと一瞬だけハマナちゃんを見、その視線の方向に身を差し出したのは見事と言える。その後はシミュリストルの姿を見止めてあんぐりと口を開いていたが。
「この場でまでそれやるか?」
「この場だからです!ここに来た貴族連中は皆口を閉ざすばかりで役に立ちませんもの!だから!誰彼かまわず!私が!シミュリストルが!ガンジュールさんの奥さんだと言うことを町、いえ、国!果ては全世界の民衆に知らしめるのですっ!!」
何が彼女をそこまで駆り立てるのか。拳を握って力説するシミュリストル。その言葉を唖然とした表情で聞く三人には本当に申し訳ない気持ちになる。
「ま、まぁ、伝承にあった人柄と一致していますね」
口火を切ったのはホルエスさんだ。まだ混乱しているのか視線は彷徨っている。
「ハッ、と、とんだご無礼をっ!?」
言ってしまった後に軽々しく言葉を紡いでしまったと思ったのかホルエスさんは椅子から離れて土下座のように跪いた。そこでようやく頭が回りだしたのかハマナちゃんとイヌヅカ君も椅子から離れて跪き始める。
 何度目になるかなぁ、この光景。
 そんな事を思っていると、慣れた様子でシミュリストルは無礼に思っていない事や神の試練として普通の態度で接することを告げて面を上げさせると目の前でシミュリストルからエリュシアさんの姿に戻った。
 その後は歓談してホルエスさん、ハマナちゃん、イヌヅカ君の緊張を取り払った。緊張を取り払ったのは神の試練と言うよりもエリュシアさんとして一心にガンジュールさんを思う姿や、どこか抜けた、接しやすい人柄によるところが大きいか。
 三人には俺達についてエリュシアさんから殆ど詳らかに話されてしまい、別の方向で崇められてしまった。・・・・・・まぁ、戦神、武神と崇められるよりかは神の御使いと思われた方がマシか。事実だし。
 歓談が終わると、六人はオークステークに場所を移し歓迎会を開くことにした。当然、一旦荷物を家に移してからだ。移すとき何往復するかで困っていたらしく、俺と美咲が手を貸すと「非常識です!」とホルエスさんから怒鳴られた。・・・・・・非常識と言われても、ただリュックサック使ってるだけなんだが。
 そして、非常識と言うならこれの事を言うんじゃないの?と美咲が面白がって自在倉庫を扱い、さらにそのスペックを告げるとホルエスさんは卒倒していた。イッカクさん、ハマナちゃん、イヌヅカ君は目をまん丸にしていた。
 そんなこんながありつつもオークステークである。オークステークの奥さんと店長には来る事と人数を伝えていたのでスムーズに通され、お礼代わりに自由に使って良いとこの前森に行ったときに採取しておいたアオバ、マーシュレンボウ、ミミジュク、シリツツ、マーヴィなどを渡し、食後にこれをとイェスディンを十五個ほど渡した。六つを俺達で食べ、残りはここに居る全員に振る舞ってくれて構わないと言付けておく。
「えーっと?」
メニューを開いて一通り眺めたハマナちゃんがどうしようと視線を彷徨わせる。それに気づいた美咲は彼女の相手をするようだ。イヌヅカ君もミサキの説明に耳を傾けている。
「取り敢えず、ここからここまで三つずつ頼めば良いだろう。この店はどれも旨いんだ」
そう言いながらイッカクさんは大皿料理から一品料理のちょっとの所まで指す。ちゃっかりマルディンのサイコロステーキとマルディンのビーフシチューも含まれている。
「なるほど!おっちゃん、あったまいい!」
説明を放り出して美咲はそれに着いた。俺は別に問題ないので残りの三人に視線を送る。
「わっ、たっむぐぅ・・・・・・」
値段を見たのかハマナちゃんが思わず声を上げそうになるが、それを察知したイヌヅカ君に口を塞がれる。
「い、良いのでしょうか?結構なお値段ですが」
「大丈夫だよ?ポーション素材の使い方レシピで結構稼いでるから」
「で、では、我々はこの店を使ったことがないのでお任せします・・・・・・」
恐縮するようにホルエスさんは残りの二人に目配せし、頷いたのを見てからそう答えた。
 料理が来てから飲み物を頼み、それらが来てから歓迎会が始まった。
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