盲目だった少年は虹色の現(ゆめ)を見る

Luckstyle

文字の大きさ
33 / 44
第三章

32

しおりを挟む
  お世話になったところへ挨拶を済ませ、レインフェルト領ファルムットを出た。
 向かうは東。ガンジュールさんに海は無いかと聞くと一番近い海は東にあるというのでそれに飛びついた形だ。イッカクさんは西から来たから大陸横断だなと笑っていた。
 食料として野菜、果物、菌類、山菜は大量に確保してあるし獣肉、魚の確保も少々ある。肉はその場で取ればいいし、そこまで確保していないが、イッカクさんやホルエスさんが言うには十二分以上確保してあるから少々と銘打つには抵抗があるらしい。・・・・・・野菜などに比べれば全然確保していないから少々だ。
「ここいらに、魔物の群れが、出るのも珍しいな」
町から出て半日。コーンディッチの群生地より先に進んだところでウルファングの大所帯と遭遇していた。ウルファングを切り払いながら、緊張も何もない声で述べるのはイッカクさん。
「あっちでは、マルディンの群れが、西に向かって走ってるぞ」
「ないと思うけど、あのままファルムットに行かれたら、大変そうです」
「あ、じゃあ私、間引いてくるわ。マルディン、美味しいしねー」
「間引き過ぎるなよー。肉が近寄ってくるんだ。ファルムットも待ちかまえてるだろうからな。・・・・・・ん?ミライちゃん、南にクラブバードの群が北西に進んでいる。あれもファルムットが進路上にあるかもしれないから間引いてくれるか?マサツグ君も魔法で援護するといいだろう」
「「はい!」」
「んー?北の方にレッドウルフか。南西に移動中・・・・・・。これも狩っておいた方が良いな。・・・・・・イッカクさん!ちょっと北にレッドウルフ見つけたのでここは任せます!」
「おう!行ってこい!」
全く、なにがどうなってるんだ。魔獣の群が一纏めにファルムット目掛けて大行進するなんて。

 向かった先のレッドウルフの群は思った以上に多かった。見た感じ、数十匹の群が統率の取れたような動きで西南西に一心に向かっている。
 それなりの力を込めて水球を作り押し止めようと先頭に向けて放つも勢いは止まらない。
「物理的に押し止めるべきか。『ストーンウォール』」
まずはレッドウルフの進行方向、進行方向から向かって左右に『ストーンウォール』で壁を作り、最後に後方へもストーンウォールで蓋をする。これでファルムット行きは防いだ。・・・・・・まあ、何匹はこぼれたがそれぐらいは良いだろう。
 処理はどうしようか。
 取り敢えず鑑定してみると状態異常、赤い満月(レッドフルムーン)というモノに全ての個体が犯されている。
 聞いた事がないな。まぁ、この世界特有の現象だろう。成獣しか居ないのが幸いだと思うことにして、水没させてストーンウォールで蓋をし、溺死させてから自在倉庫へ回収。帰る途中でビッグフットラットの群に遭遇したのでそれも処理しつつウルファングに遭遇した場所へ戻った。
「おう!お早いお帰りだな!手伝ってくれ!」
俺の姿を見止めると、イッカクさんは面倒くさそうな声音を若干滲ませつつ言ってきた。立っているウルファングは居ないものの、ビークスパイダーという蜘蛛の魔物がイッカクさんとホルエスさんを囲んで糸を吐いている。
 糸はイッカクさんとホルエスさんに当たっていないものの徐々にイッカクさんとホルエスさんの行動範囲を狭めているのでそれを回収するか、加勢した方がいいだろう。ビークスパイダーの糸は軽く丈夫でしなやか。回収しない手はない。
「糸の回収と加勢、どっちがいいですか?」
「そりゃおめえ、回収に決まってら!ビークスパイダーそのものに脅威はない!」
言いながら、顔より一回り大きいビークスパイダーを切り伏せるイッカクさん。自分の実力と相手の実力、それから素材の価値を天秤に掛けて言っているのだろう。ホルエスさんも同意見だ。
 素早く回収に回って二人の足場の確保に尽力し始める。いい素材が手に入ってウハウハだ。
「ただいまーって、気持ち悪っ!糸の回収に回りまーす」
マルディンの間引きに行った美咲が帰ってきた。ビークスパーダーの群れを見るなり体を震わせ、俺がやっている行動を見て取るとそちらへ加勢に入る。どんどん足場が増えていくと、イッカクさんとホルエスさんの討伐スピードが見る見る速くなっていった。
 ビークスパイダーの討伐が終わり、糸の回収も済むと、あたりが濃い血の匂いに包まれていることに気づいた。多分、ビークスパイダーはこの匂いにつられてきたのだろう。
 風魔法を使って上昇気流を発生させて匂いを上空へ飛ばしても、血がそこかしこに飛び散っているので効果は薄い事がわかった。
「水魔法で洗い流してからの方がいいんじゃない?」
美咲の提案にそれもそうかと思い、ウルファングの死骸を回収してから水魔法を使って血を押し流し、もう一度風魔法を使って血の匂いを上空へ飛ばす。聞くと、美咲もマルディンを間引いたところをそのままにしてきたとの事だったのでそちらに移動して同じ事をする。水で溺死させたのは正解だったな。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...