盲目だった少年は虹色の現(ゆめ)を見る

Luckstyle

文字の大きさ
35 / 44
第三章

34

しおりを挟む
「とんぼ返りたぁ、幸先悪いぜ!」
「だが、私達が出てすぐだったから良かったな。何日か後だったら最悪、一日目から死人が出てもおかしくなかった筈だ」
家について、取り敢えずイッカクさん、ホルエスさんにワインを、他の者にはなんちゃってスポーツドリンクを振る舞うと、イッカクさんが一息に飲み干しながら今回の件の愚痴をこぼす。ホルエスさんはその事で出来た幸運を述べていた。
「いいんじゃない?こっちはこっちでマルディンのお肉、いっぱい手に入れたし、あっちはあっちで死人、けが人がでなくて万々歳なんだから」
ホルエスさんの考えに賛同して美咲もそう言う。俺も急ぐ旅でもないし、この町に愛着を持っているから二人と似たような意見だ。
「まぁ、ここの飯は旨いから良いけどよ。・・・・・・そうだ、酒に合う鍋にしようや」
形勢不利と見たイッカクさんが話を逸らす。
 鍋と聞いて喜んだのはミライちゃんとマサツグ君だ。取り繕ってはいるが、そわそわしている。
「鍋なら簡単に出来るし、それでいこうか」
俺が答えると、ミライちゃんとマサツグ君はあからさまにホッとしたため息をつき、席を立って手伝うことはないかと聞いてくる。あからさまに喜んでるな。
 今日の鍋は何で出汁をとろうか。・・・・・・マーヴィで出汁と塩をとって風味付けにマーシュレンボウ、ベリーライムを併せて、刻んだフェルリルを少し入れて辛味を追加。これで良いか。
 ベースの出汁を作っている間にミライちゃんとマサツグ君がハラッタ(白菜に似た野菜)、カッシェルーの葉部分とエリューシュを刻み、オーク、ヤッカルムの肉を一口大に切り分けてくれた。
 美咲はお酒を入れたイッカクさんとホルエスさんのお酌をしている。
 なので、もう一つとっておきの一品料理を準備する。
 取り出したるは帰りにギルドへ寄って解体して貰ったマルディンの肉。それを分厚く切り分け、更に一口大になるよう切りそろえていく。無駄になったところは集めて叩き、卵の黄身とオークステークで貰ったステーキソースをかけてかき混ぜる。これは本当に新鮮な肉じゃないとダメと念押ししてオークステークに卸したレシピ。生肉と生卵を口に入れる背徳感と丹誠込めて仕上げたステーキソースのハーモニーにオークステークの店主さんは泣いて喜んでくれた。
 一口大に切り分けた肉は油を敷いてよく熱したフライパンでサッと表面を焦がして皿に盛り、更にステーキソースをかけて一品だ。
「どうしたのこれぇっ!?」
「店主にタルタルステーキのアレンジ料理教えたら秘伝のレシピ貰って、ついでに出来上がるのに時間がかかるからって一樽貰ったんだ」
サイコロステーキを口にしてすぐに気付いたのだろう。その味で驚いた美咲に、その顔が見たかったと思いながら事のあらましを話す。
 それを聞いて、他の皆も美咲も大喜びだった。それだけこのステーキソースは人気なのだろう。


 次の日。いつもの時間に家を出て、東の門に出向く。昨晩の襲撃はなかったようだ。
「昨日は良くやってくれた。君達が奮闘してくれたお陰で城壁などへの被害もなく、損害は無いと言っても過言では有るまい。本日も、各員たちの奮闘を期待する」
ガンジュールさんが昨日の激励と今日の奮闘を願ったところで解散となった。各員、割り振られた城門へ向かい、そこを死守する事になる。
「いやぁ、昨日の激励会は近年まれにみる大盤振る舞いだったな!」
「そうだな!この町の名物、オークステークのサイコロステーキを一人三人前だもんな!」
「あんなもんだされたら来年もこの時期はここに居たくなるよな!」
流れてきた冒険者だろう。ガンジュールさんが退場して少し気のゆるんだ者達が集まってそんな会話をしている。
 しっかり届くようになった爵位報酬でガンジュールさんは昨日の夜、手に入れたマルディンの肉を使って防衛に尽力した者達をもてなしたのだろう。会話をしている者達以外も気力が充実し、士気が高い。それでなくともこの町に居着いた冒険者やこの町に配属され、雌伏の時を過ごしていた騎士たちや王太子を守る護衛、この地を愛した王太子と高い士気を維持し続けてきた猛者達も居る。防衛ではこれ以上ないくらいに頼もしい。
「あぁ、ハジメ君にミサキ嬢。その他の皆さんもお揃いで。ガンジュール様が面会を希望しています」
そんな事を考えていると、ヤイガニーさんが声をかけてきた。
 二つ返事で了承すると、ヤイガニーさんに簡易に建てられたテントに招かれた。城門近くでバリケードに守られている。
 中ではここの周辺地図に向き合って何人かの騎士たちが何事かを話し合っているようだ。それに耳を傾けていたガンジュールさんが俺たちを見止めると相好を崩して手を挙げた。
「やぁ、ハジメ君にミサキ嬢。それから皆さんも。出来る事ならこちらから伺いたかったのだがな!」
そんな事を言いながら、ガンジュールさんは俺達に席を勧めてくる。
「さて、早速だが君達には遊撃部隊をお願いしたい」
俺たちが席に着くと、待ってましたと言わんばかりに俺たちの役割を伝えてくる。
「要は君達には自由に動いてもらい、迫り来る魔物達を狩って貰いたいのだ。固まって動いて貰っても良いし、散らばって防衛隊に加勢して貰っても良い。休息も何時取って貰っても構わない」
「はぁ。尽力します?」
「あぁ、そこまで頑張って貰わなくても大丈夫なのだ。ちょうど、金剛石級の冒険者を抱えるパーティーと金級の冒険者を抱えるパーティーが滞在していてな、北と西を守ってくれている。そして、王太子殿下達が南を守ってくれているので騎士の大半を東に置けたのだ。冒険者の中で希望者は北、西、南に配属したが五十人程度はここに残って防衛の穴を埋めてくれている」
俺が要領を得ない返事をすると、現在ファルムットが置かれている状況をざっくりと教えてくれた。
 金剛石級の冒険者は熱心なシミュリストル教の信徒の一団らしく、冬を前に越冬の地を此処に選んでいたらしい。金級の方は戦神、武神の噂を聞きつけて此処に滞在していたらしい。何でも、ホルエスさんやマサツグ君達と一緒に模擬戦に参加していたんだとか。その後は休暇もかねてこの町に滞在し、この町の雰囲気を気に入って騎士の訓練に混じったり後続の冒険者の教育をしながら農作業に従事、気付いたらこの時期になっていたらしい。
 ガンジュールさん曰わく、青玉級と金級の両方から是非この地に拠点が欲しいと打診されたようだ。
 その拠点は4つ以上固まった空き家を取り壊してあてがうらしい。思わぬ申し出にガンジュールさんはホクホク顔だ。
 で、俺達にはその二つのパーティーへ激励として近くで戦って貰いたいのと東側が圧されるようなら加勢に入って欲しいとのこと。二つのパーティーに関しては声をかける程度でも良いらしい。後は、昨日のように遠くにでて多少数を減らして貰うと助かるが、そこまでやると移動やらで負担が大きく掛かるので耳に入れておくだけで良いらしい。この提案は王都から来た新人文官の戯れ言なのでガンジュールさん自身、気にも止めていないらしい。王太子の補佐という名目で派遣されてきている人物で若いので、王太子と話して功を焦ったのだろうから許して欲しいとガンジュールさんが言っていた。
「まさか、あやつが他人に物事を押し付けるとは思わなかったんだが」
その場に居なかったのだから許すも何もないと応えると、それでもガンジュールさんは眉間のシワを深くして思い悩むように呟く。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...