異世界探訪記

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四十七日目。エルフ族の集落に延びる道。森の入り口にて

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四十七日目。
 さっき商隊のみんなから漏れ聞こえてきたのだが、荷車を新調して足が早くなった結果、休息が増えて体の疲れが溜まらなくなったと喜んでいた。これにギルビットさんは何かに思い至ったのか、目を見開いた後俯いていた。
 話を聞いてみると、この前考えていた休憩所の間隔変更は間違いだったと商隊みんなの話を聞いて思ったそうな。
 まぁ、良かれと思ってダメだったなんて話はそこかしこに転がってるんだから気になさんな。

 休憩が終わって移動する間、バヤット君とハヌラット君が稽古を付けてくれとおねだりに近い雰囲気で頼んできた。
 地味だぞ?と返してみても暖簾に腕押し。
 仕方がないから二人に今一番扱いやすいと思った武器を持ってくるように言うと、二人はガントレットを持ってきた。
 ……習いたい武器を持ってきた感じだ。昨日と今日の稽古を見ていたらバヤット君は剣技の才能が有りそうだったし、ハヌラット君は槍。槍というよりも棒術の才能が有りそうだった。そこを指摘すると、二人は俺に習うなら武器を取られたときに使える武術が良い!と、素直すぎるお言葉が帰ってきた。
 彼等なりに物事を考えて、あえての選択だった。まぁ、口から出任せが出たのだとしてもこちらとしては納得できる理由だったので別に良いか。
 夕餉の休憩所に着いたら教えると応えると、二人は持ってきたガントレットを掲げるように持ち上げて喜びを表現していた。子ども心が抜け切れてないんだろうな。

 夕餉の時に素振りをさせていると、二人は不満の声を上げた。
 二人の感覚で言うと、稽古=組み手になるらしい。
 確かに、俺も若い頃はそんな考えで出来る限り組み手を行って相手を叩きのめすのに熱中したものだ。特に、稽古を付けて貰う場合の届きそうで届かない。それでも手を伸ばして届いたときのあの気の高まりは何事にも変えられない絶頂感にも似た感覚だ。それを求めるのは彼等にしてみれば当たり前だろう。
 試しに二人掛かりで俺と組み手をやってみた。初めは大振りが多かったが、次第に動きが洗練……されて来ない。逆に乱れるばかりだ。十分ばかりで二人は地面に倒れ込んだ。
 その上で動きの基礎が出来ていないから余計な動作が生まれて余計に疲れていると指摘した。俺の言葉を聞いた二人は、疲れも有ってか素直に俺の言葉を受け取ってくれた。
 まぁ、説法だけなら誰でも出来るんで二人の良いところも言葉に出して誉めておいた。バヤット君は腰が入った拳を何度も撃ってきたし、ハヌラット君は全体的に無駄な動きが少なかった。さらにはバヤット君、ハヌラット君二人ともリズムを崩すのが上手い。そして、一番素晴らしかったのは二人の連携だ。絶妙なタイミングで同時、あるいは遅れて攻撃してきた時は思わず笑みを浮かべてしまったのを自覚している。

 稽古を終えたら夕餉だ。今日は昨日の献立とほぼ一緒だが、味付けに隠し玉の唐辛子を少々。ピリッと締めてみた。これには皆も快哉で、いつもよりスカッタの減りが早かった。
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