異世界探訪記

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八十九日目。最果ての森の中、野営地にて

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八十九日目。
 ほの暗い森の中で、ファルムスさんとマナフィさんを含む全員が参加して色々と議論を行った。これからの兵士たちの訓練方法から苦しくない税率とか、果ては美味しく感じる料理の味とか。

 ダッシラーさん達は試合という形で魔力を使いつつ動く訓練をしていたようだが、平民出身の兵士は第十級生活魔法がせいぜいで、第九級以降の魔法は扱えないものと決めつけていたらしい。
 第九級以降はアズラータさんやラスティーが通っていた学校や実家の家庭教師に教わるもので、貴族出身のダッシラーさんやミネルヴァさんも含めて魔法教育がすっぽり頭から抜けていたらしい。
 更には魔法が扱える兵士達も魔力が枯渇するほど扱う者は居なかったため、魔力を枯渇するほど消費すると言う訓練方法は新鮮だったと言っていた。

 ラスティーからは今まで食べた中で一番美味しかった料理が議題にあがった。思惑が透けて見えたので冗談として毒なし蛇のステーキを『エルディスの塩』で食べるのが一番うまいと答えたら無言で後頭部を蹴られた。
 それを見たダッシラーさんやミネルヴァさん、商隊のみんなは有り難い事にあのぴりりと辛い野菜炒めや肉野菜炒めを上げてくれた。ハヌラット君とギルビットさんは集落で作るクッキーを上げメヌエットさんは桃を上げていた。……桃、この森にも在るのか。
 ラスティーが桃の事を詳しく聞こうとしていたから出回らないか、稀少な果物なのだろう。俺が昔のお前の好物だと言ったらラスティーは目の色を変えていた。あっちで没するまで好物だったようだ。
 なので梅もあるぞと告げると「干さなきゃ……!!」と一瞬やる気を漲らせたが、「時期が過ぎてる……」と意気消沈していた。
 ファルムスさんとマナフィさんは揃ってホーンラビットの丸焼きを推していた。何でも、ラスティーの世話役になった日にラスティーから振る舞われた料理らしい。
 こちらでは珍しい、肉の中に香草や薬草を詰めて焼いたそうなので、安い肉がここまで美味しくなるのかと感動を覚えたそうだ。「今ならもっとおいしいの作れるよ!」と、ラスティーは顔を赤くしていたがあの衝撃はもう二度と味わえないと二人は口を揃えていた。

  税に関しては将来性を見込んで全体的に下げる方向で話が纏まった。物価が下がれば経済が回り、税収単価は下がるが税収機会が増え、将来的には領地全体が成長して税収向上に繋がると言う適当な理論を俺とラスティーが振りかざしたらアズラータさんが納得してしまったのだ。
 後で聞いた所、アズラータさんが受けた教育では暴動が起きない程度に重税を掛けるのが良い領主と教わってきたらしいが、平民に支えられている貴族が平民の足枷に成るような事をして本当に良い領主なのか?と常々考えていたらしい。
 そこで待ったをかけたのがギルビットさん。交通の要衝である東や南北なら税率を下げることで増収するかも知れないが、ここは西の最果ての森を含む辺境。税率を下げたら税収が下がったまま元に戻らないのではないか?と投げかけた。
 流石中央の家庭教師をしていただけはあるなぁと思ったらアズラータさんは「人口流出を食い止められればそれで良い」と宣言しだした。これにはギルビットさんも呆気に取られて頷くしかない。
 税率が低くて成長見込みの薄い領地にいるか、税率が高くて成長見込みのある領地へ移るかは人の勝手だが、税率が同じで成長見込みの有る無しなら考えなくても大体は見込みのある方へ流れると言うもの。これで人口の流れはイーブンになるとアズラータさんは自信を見せる。

 色々大変だなぁ。
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