異世界探訪記

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九十五日目。エルフ族の集落にて

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九十五日目。
 朝に昨日の魔法陣を確認したら、魔法陣の中心が砂になっていた。土ではなく、砂だ。なにに近いかと言われれば、砂漠の砂だろうか?
 これを見たギルビットさんは魔素を集めて起動する案を断念。これに関する研究の永久的な封印を宣言した。
 俺も、メヌエットさんも、ハヌラット君もこれには同意し、起動の手順を記述しないまま実験結果をまとめ、大地の魔素を使う事がどれほどの害が起きるか、効果に対して如何に効率が悪いかを書き連ねてベルデットさんとアズラータさんに書面として報告した。
 大地の魔素を吸い上げる魔法陣を敵国で発動すれば兵器にもなるとは思うが、研究のされていない魔法陣だからこそ、この方法が世間に知られる事は殆ど無いだろう。少なくとも俺達が生きている内は無い筈だ。
 報告書は俺、ギルビットさん、ベルデットさん、アズラータさん、ハヌラット君、メヌエットさんの立ち会いの元箱に収められてここに居る全員で口外しないと言う宣誓の元で封印した。記録はこの日記にも記されているが、ここの言語で記されているわけではなく、古代語よりも複雑な文法と表記法で記されているためそのままで良いと言うことになった。まぁ、あっちの世界でも難解な言語として有名だったのだから、日本語で表記していること事態が暗号文になるのか。読めるのはこっちだと俺とラスティーくらいか?

そんな一騒動があった昼下がり。誰からともなく連れ立って湖の対岸までやってきて座り込んだ。奥を見やれば水車小屋の中で木工職人であろうエルフ達が木組みをし、その横では兵士達が独りが立って、その外はしゃがんで作業をしている。
 湖の上はぽっかりと蒼々とした空が顔を出し、それまでには青々とした若葉が湖の縁を浸食し始めている。

 よし、と声を初めに声を上げたのはギルビットさんだった。研究者になってから発表出来ない発見はいくつか有ったそうで、それ故に魔法陣の研究を続けているそうだ。
 これ以上の実験は危険だと判断した研究ではハヌラット君の様な導かれ方が良くあり、ギルビットさんはこれを悪魔の囁きと呼んでいるそう。ハヌラット君が村長として、研究者としてやっていくならあの感覚を知れたのは僥倖だと言っていた。
 少しでも手を出したら破滅する物が有るにはあるが、それよりは多少結果を見て判断出来る物の方が十二分に多い。最初から全額ベットする必要は無いのだとも言って、ハヌラット君に理解を求めていた。

 夕餉にはなんとか復活した俺達はバラバラになって夕餉を楽しんだ。
 お開きになる直前に、ベルデットさんとギルビットさんが連れ立って集落の皆にノーム族へ貢献できる仕事ができたと発表した。
 ノーム族の主食の味を向上させる仕事。提供するのは魔力であり、提供したら魔力枯渇でふらふらになったり、最悪の場合、気絶することまで説明した。更に、気絶するまで魔力枯渇を起こすと魔力量が増える可能性まで言及していた。

 驚いたのはダッシラーさんとミネルヴァさんを除いた兵士達だ。ダッシラーさんとミネルヴァさんは納得するように頷いている。

 希望者と俺、ハヌラット君、メヌエットさんは明日の朝、ベルデットさんの家に集合する事になった。
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