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第四章 天使達は雷鳴とともに
第四章(03)
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いつもの夕暮れだった。けれどもその日は少し暖かく、村は賑わっていた。子供達が走り回り、大人達も暖かな気候に立ち話をしたり、仕事をしたりしていた。
皆の表情は明るかった。間違いなく、暖かな気候のおかげだった――牧場から村への帰路にいたチャーロは、ふと立ち止まって村を見つめる。
「明日もこのくらいあったかければいいけどなぁ」
思わず口にしてしまうほど、穏やかな日で、チャーロは鼻歌を歌いながら、再び村へと歩き出した。と、ちらりと牧場へ振り返る――残してきたルチフとベアタについて、考える。
時々、チャーロは思うようになっていた。
ルチフとベアタが一緒にいる姿は――まるで恋人同士のようだ、と。
ネサがいなくなってから、祖母のケイがルチフをひどく心配していたのを思い出す。家族がいなくなってしまったルチフ。見た目が違うことを気にしているルチフ。これから先、誰かと共に暮らすことができるのだろうか、家族を得られるのだろうか――と。
……まだ少し早い話かもしれないが、その心配は、もう必要ないと、チャーロは思った。
たとえ二人が結ばれなくても、ルチフは村に馴染めたのだから。
「……僕は、空気の読める奴だから、邪魔になる前に帰るよーっと」
一人、そう笑う。また鼻歌を歌いながら、チャーロは村へ向かっていく。
――けれども。
「――大変だあああ!」
悲鳴が聞こえた。広場の中央にある焚き火が、揺れるのが見えた。
とっさにチャーロは足を止めた。目を凝らすと、広場に走ってくる村人の姿があった。
中央の焚き火がまた大きく揺れた。何か、奇妙な音が聞こえる―――人の声や動物の鳴き声とは違う。かといって、吹雪や雪崩の轟音でもない。
村の奥から、悲鳴が次々に上がった。やがて広場に――巨大な箱がいくつも姿を現した。
赤い装飾の入った、四輪の奇妙で巨大な箱だった。最初、チャーロは荷車かと思ったが、箱をひいている動物の姿はない。奇妙な箱達は、まるで村に乗り込んでくるかのように、広場に雪崩れ込んでくる。憩いの場として使われていた丸太が踏み潰される。家に衝突し、その壁に亀裂を入れようが気にしない。人々をも気にせず、突っ込んでくる。
まるで暴走したオビスのようだった。否、それよりも凶暴。箱の一つが、ついに焚き火を蹴散らした。焚き火は散り散りになり、踏み潰される――。
チャーロは悲鳴を上げるのも忘れていた。何が起きているのか、わからなかった。
と、巨大な箱達は停止したかと思えば、その側面が開き、そこから人がぞろぞろと出てきた。
「――銀髪、だ」
チャーロは口を開けてしまった。
箱から出てきた人々は、皆、銀髪だった。目を見れば、青色――だがそのことに驚いている暇もなかった。
揃いの服を着た銀髪の人間達は、腰に剣を帯びていた。そして唖然としている村人達へ迫り、
「……全員、大人しくしろ!」
剣を抜き、その切っ先を人々に突きつけた。
それを皮切りに、銀髪達は村人達を追い回し始めた。
まるで狩りのようだった。銀髪達は、村人を捕まえれば、広場へと集めていく。村はあっという間に悲鳴に包まれた。子供の泣き声が響く。命乞いをする声も聞こえる。銀髪達に抵抗しようと、農具を手にした村人もいたが、あえなく剣で払われてしまう。それでも抵抗しようとするものなら、銀髪達は剣を振り下ろす――。
背を切られた村人が倒れるのを、チャーロは見ていた。
「何……なん、なの……」
チャーロの声は震えていた。倒れた村人を、銀髪達はひきずって広場へと運んでいく。
見つめていると、一軒の家が激しく燃え上がり始めた。むせび泣く声が耳に刺さる。
オンレフ村は、蹂躙され、荒らされていた。何故こんな仕打ちを受けなければいけないのか、わからないほどに、村は銀髪達に壊滅させられていった。泣き声、怒声、何かが割れる音。蹴破られた扉、何かが燃える臭い、血の赤色――。
銀髪達は、チャーロの家にまでも入っていった。扉を壊し、中へ。そして。
「――ばあちゃん!」
ケイが連れ出されるのを、チャーロは見た。広場に連れ出され、そこに座らされる。
「――なるべく傷つけるな。殺さないでくれ。生きて連れて帰らなければいけないのだから」
と、広場にいた銀髪の一人が、声を上げる。その銀髪の男だけ、服装が少し違っていた。近くにいた銀髪に、何やら指示を出している。それから彼は、集められた村人達へ向き直ると、
「エンパーロ王の命により、お前達を我が国に迎えることになった……抵抗しなければ、傷つけはしない」
……わけがわからなかった。
ただ一つだけ、チャーロにはわかった――村が、壊されている。
「うあ……あ……あ……!」
ざく、とチャーロは後ずさりした。
――どうしてこんなことに。みんなが、捕まってしまっている。
「――あそこにもまだいるぞ! 捕まえろ!」
そこでチャーロは、銀髪の一人に指をさされてしまった。すぐさま、剣を握った銀髪達が走ってくる――その冷たい刃の輝き。まるで狼のようにこちらを捉えた青い瞳。
「――逃げるんだチャーロ!」
祖母の悲鳴が聞こえた。
息を呑んでチャーロは牧場へと走り出した。
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