ある日、始まった物語

どこか儚げな美少女

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始まりの章

第12話

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 私、伯内  愛(はかうち  あい)は目を閉じる。

 それは神への祈りと形容する方が正しいだろうか……。

 病室のベッドで横たわる男性、病室に来て改めて名前を知りました……。

 未だに山田風太郎という男は目を覚まさない、同じく引合  瑞稀(ひきあい  みずき)という女性の方も依然変わりなく昏睡状態だと聞いています。

 ___ギュ…!

 「………。」

 相手の手を握る、己の震える両手で固く手を握ったのである。

 己が傷つく事には慣れている、己が死ぬという経験は幾度も味わった。だけれども誰かが傷つく様には耐えられない、誰かが死ぬという事実に笑顔で見送り出せる程に私の心は決して強くはないのです。

 「私は……憎いです、己を呪い殺したい程に自分自身が憎くて仕方ないです…!」

 あの夜、本来ならば私は死んでいたのでしょう。今も目を覚さぬ彼がいなければ私は確実に死んでいた筈です。

 彼に救われた身でありながら、愚かにも私では彼を救う手立てがありません。

 「………クソムシ」

 あの晩にようやく見つけた、忌々しい虫の残骸、その有り様を見たのだ。

 そして今、想定外の事態が発生している。

 何があったかは分からない……、

 彼の肉体にクソムシが寄生したのだ、幸いにも現在は不活性化しており最悪の事態は避けられた。

 そして、この場で私が取るべき最善の一手、それは今すぐにでも目の前にいる彼を殺す事、そうすれば宿主を失いクソムシは存在ごと消滅するだろう。

 だが……、

 いや、何を躊躇する。たった一人の犠牲でどれほどの存在が救われるのかを最優先に考えろ、それにこのまま放置していても彼には過酷な運命を背負わせるだけだ!、ならば殺してしまう方が彼にとっての救い……救いの筈だから……

 だから、私自らで殺さなくちゃ……!、殺さなくちゃ………殺さなきゃ……殺…、

 彼を握り続けていた両手の指先から肩にかけての震えが止まらない、私は……私は___!

 ___キュ…!

 突然の事でした、微かに手を握り返されました。そして、聞こえてきた弱々しい声に私は反射的に顔を上げる。

 「……おいおい、随分とまぁ……辛そうな顔だな、ちゃんと…寝れてるか……?」

 私の頬に触れた手、一筋の涙が流れ落ちていくのを肌で感じた。

 よかった……、そう心から思った。

 涙を拭い、私はこう言った。

 「目が覚めたのですね!」

 「寝覚めは随分と悪いがな……、そういえば……名前、まだ聞いてなかったな…俺は……」

 「……フウタロー」

 「お、おう」

 名乗る前に名前を呼ばれて少し驚いた、ふふっ……と向こうは微笑んでみせた。

 「そう呼んでほしいと顔に書いてありましたので、つい呼んでしまいました。もしや、ダメ……でしたか?」

 「いや、そう呼んでくれて嬉しいよ。ところで、そっちの名前を聞いてもいいかな…?」

 「えぇ、もちろん……私の名前は___」

 少女は名乗ってみせた、この先にどんな絶望が待っていようと彼、改めてフウタローには自分の名前を知っていてほしかった。

 それはどうしてか___?

 なんだか、彼とは長い付き合いになりそうだからである。

 希望はなく、幸福もなく、ただ絶望に彩られた物語だったとしても彼となら乗り越えられる気がしたからだ。

 たぶん、おそらく、きっと……。

 いや___、

 これは必ず絶対に確信を以て言える事である___、

 彼とならば儚く甘い……そんな結末に辿り着けるのだと、そう私は心から思ったのである。


 これは儚くも悲しい喜劇の始まり、そんな出来事を記した序章の物語である。

 そして閉じた第一幕、改めて宣言するとしよう!

 そして始まる第二幕、その盛大なる幕開けの時である!





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